やった、遂にやったぞ……
「やった、遂にやったぞ……」
ここまで長かった。と言っても二日間程度。
けれど朝早くから、ただの壁相手に延々とドレインタッチを繰り返すのには長い。
この工事現場は放置気味らしく、特に意識してコソコソしなくても大丈夫だったが、逆に言えば話し相手もいなくて退屈だった。
「それも今日までだ。よし、ドレインタッチ逆バージョンを試してみますか!」
二日前は失敗に終わったドレインタッチ逆バージョン。だが、今や私のドレインタッチのスキレベは5。レベル的には発動可能なはずだ。
「あとは、ゴーレム人形が魔力元素から魔力に変換された、私の中に溜め込まれた魔力を本当に吸い取らないかどうかだ」
ゴーレム人形は魔力元素を吸い取る。だから、既に私の中で魔力と化したものは吸い取らないはずだ。
試しに、魔力元素の吹き出し口から離れ、火系統の魔法、“ファイアーサークル”を発動させてみる。
「“炎の精霊 我の側に 具現化し 離れること無かれ”」
ボッと小さな音を立て、私の周りに仏壇のロウソク……じゃなくて、魔法の火の玉が現れた。
「おお! できた、できたぞ! 魔法が使えないこのシャローム地下都市で魔法を使える方法を発見したぞ! えっ、すごくね? 私、天才じゃね?」
と、一人ではしゃいでいると、溜め込んでいた魔力が切れたのか、元々小さな火の玉が更に小さくなって消えてしまった。
「……ま、まぁ、こうなることも想定内だ。それより、実験フェーズ1が成功したんだから、次はフェーズ2だ」
なぜ私がシャローム地下都市で魔法を使いたかったのか。それと、どうしてドレインタッチ逆バージョンを獲得したかったのか。
「おーい、チュチュ」
魔力元素の吹き出し口に触れていれば魔法が使えることを確かめてから、私はチュチュもこの場所に連れてきていた。
チュチュの脚はまだ完治していないため、その辺にある機材を積んでやって、座らせてある。
「私の目標達成だ。んで、そっちはスキレベいくつになった?」
私がハシゴに登りながら積める機材を寄せ集めた足場は、いくらチュチュが軽いといっても危ないから、必ず片手は壁に添えるように言ってある。
だが、私のこの質問にこたえるためにチュチュは両手を使って、
指で7を表現した。
「うぉい! 手を離すな、危ねぇ!」
危機管理のなってないチュチュを早々に高所から降ろすべく、ハシゴを寄せてチュチュを私の背中に移した。
「ってか、思ったより早かったな。7までスキレベが上がれば作戦成功の見込みもグッと上がるってもんだ」
地に足を着け、チュチュをその辺の小箱に座らせる。
「よし、じゃあ実験フェーズ2。いけるか?」
「平気。いつでも大丈夫」
まだスキレベ5でしかない私のドレインタッチは、魔力を流すのに対象に接触していなければならない。
私はチュチュの肩に手を置き、ドレインタッチ逆バージョンを詠唱を唱える。
「“我のもつもの 分かちたまえ 吸収せよ 我のものは彼女のもの”」
私の体内に溜まった魔力。
これは私が使うためじゃない。
次は、チュチュの番だ。




