病んでいる人のことは病んでいる人に聞こう。
「待ってよみんな。ゴーレム人形を解放する? そんな事したらみんなの中からまた悪い人達が出てきちゃうんだよ?」
必死の形相で訴えかけるショシャナット。
正直意外だった。平和主義者で、お気楽で、お人好しのショシャナットなら、私の願いを進んで叶えてくれると思っていた。
「リリス、ゴーレム人形は何のために作り出されたの? この都市の平和を保つためでしょ? あたし、この都市の平和が無くなっちゃうなんて嫌だよ!」
なんだか、鬼気迫っていた。だが、
「確かに私の願いは、今のゴーレム人形の役割とシャローム地下都市の平和を取り上げる行為なのかもしれない。けどさ、ショシャナット。今のままじゃあゴーレム人形がかわいそうじゃねぇか」
こんな小学生みたいな単純な理由だが、私は本当にそう思っていた。
市民たち全員ぶんの負の感情を一人で受けるってどんな感じなんだ?
いろんな記憶が少しずつ雪崩れこんでくるなんて、頭の中はどうなっちまうんだ?
心の無い魔法は何のために使うんだ?
ただみんなの幸せのために、高い塔の天辺で死んだように生き続ける。ゴーレム人形に対して、かわいそう以外に私は言葉が思いつかない。
「かわい、そう?」
「ショシャナット?」
ショシャナットは、涙こそ出ていないが、見る者をゾッとさせるほど怯えたとも怒っているとも言い難い、まるで絶望の淵に立たされたみたいな顔をしていた。
「どうしてかわいそうなんて言うの? かわいそうなんて言わないでよ。そんなこと言ったらここにいる皆もあたしも、悪い人みたいじゃん。否定しないでよ。みんなのことも、あたしのことも……」
ゴーレム人形の力で今もショシャナットは負の感情を爆発させられずにいるのだろう。
けど、これで改めて私はゴーレム人形を解放……いや、このシャローム地下都市のみんなを解放しなくてはいけないと思った。
だけどショシャナットがこんなんじゃ私もゴーレム人形解放に手を尽くしきれない。
あくまで私は余所者。ここに住んでいる者にこんなに嫌がられたんじゃあ力を尽くせねぇ。
無理やり押し切るのも別に構わないが、なんか後味悪いしな。
それに、このままショシャナットを放っておいたら何だかマズイ気がする。
「おいシヴァ」
「ふぇ?」
病んでいる人のことは病んでいる人に聞こう。
「ショシャナットを落ち着かせたいんだが、どうしたらいい?」
「えっと、多分その子が好きなことをさせてあげればいいと思う。ボクはお花とおしゃべりしたりしてると落ち着くから」
うん、危ない子だな。
それはそうとショシャナットが好きなことか。
ショシャナットが好きなこと……
そうだ。
「悪かったショシャナット、この件は一時中断だ。だからちょっと来い。宿に戻るぞ。
みんなも、私の願いはまた後にして、今日はもう祭りを楽しんでくれ」
チュチュを滑車台に乗せて私が押し、シヴァにショシャナットの手を引かせ、私達は借りてる格安宿に戻ってきた。




