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百合ってロリって迷宮攻略!~女嫌いリリスの苦難~  作者: いおり
第三章 シャローム地下都市
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いいねーチュチュちゃん、やれやれー!


 音楽が止まり、観客達の予期せぬエンドを迎えた私とチュチュの舞。

 正規の踊りは、英雄となった冒険者は何も言わずに立ち去り、ゴーレム人形がシャローム地下都市のケモノ族を救済し、平和を保つ美談。

 それを私はあろうことか、市民全員を犠牲にしてゴーレム人形を解放してしまう物語に勝手に書き換えてしまった。


 「やっちまった……」


 私は今回の大会で優勝し、不正を働いたクジャクペアをギャフンと言わせ、大会出場者たちの敵討ちをするのが目的だった。

 なのに、なのに、私は一時の感情に左右され、目的も忘れてやりたいようにやっちまった。


 カラパに特訓をつけてもらい、出場者から衣装やらなんやらを全部用意してもらい、音楽だってすぐに調整してもらったのに。

 観客席ではポカンとしているカラパやリスくんの拍子抜けしたような顔が私達を見ている。

 ごめんよ、リスくん。敵討ちはもう出来そうにない。

 ああ、ショシャナットも固まったまま、なんて顔してんだ。

 カラパも、年老いて薄くなった瞼からこぼれ落ちるかと思うほど目を大きく見開いている。

 状況がよく呑み込めていないのはシヴァだけだな。ケロッとしやがって。拍手までし始めて……


 ──パチ、パチ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 シヴァの拍手に、リスくんの拍手が重なった。続いてカラパ、それから他の出場者たちの拍手も。


 「え?」


 気がつけば買収されたはずの審査員たちも拍手喝采、スタンディング・オベーションだった。そして点数札に何やら書き込んで掲げるとそこには──


 100点!


 「嘘だろおい、そんなのアリかよ」


 歴史ある大会じゃなかったのかよ。ははっ、10点満点を突破して100点なんて出されちまったよ。


 「今年の優勝者、リリスとチュチュにいま一度、盛大な拍手を!」


 ホエザルが進行して、砂嵐のようにけたたましく拍手が私達に送られた。

 ああそうか。ケモノ族って本当は、自分の感情に素直なんだな。


 「さぁ、これで今年の祭りもフィナーレだ。優勝した二人には、このシャローム地下都市の民たちが全力で二人の願いをなんでも叶えてあげちゃうよ!」


 宝石の付いた冠を私達にかぶせながら、ホエザルが表彰式へと司会を進行する。


 そうだ。私が今回の大会に出場した当初の目的は、アピス探しと土の迷宮に砦を構えるロリを探すのをシャローム地下都市の全員に手伝ってもらうためだ。

 すっかり忘れかけてたぜ。


 「それではまずはチュチュさんの願い、言ってみよう!」


 ホエザルが拳をマイクにして、チュチュに向ける。

 賞品は一人ずつもらえるのか。


 「チュチュは、」


 チュチュは一体何を願うんだろうか?


 「リリスとキスがしたい」


 「………はい!?」


 何言ってんだコイツ!!

 公衆の門前で、わざわざ大会で優勝して言うことがそれかぁぁぁ!!?


 「いいねーチュチュちゃん、やれやれー!」

 

 うぉい、そこ! 変なヤジ飛ばすな!!


 「わたしたちが全力でロマンチックなシチュエーションを用意いするわー!」


 いらねぇぇぇぇぇ!!!


 「おいチュチュ! なんで今そんなこと願うんだよ! キスなんてしょっちゅうしてるだろ!」


 あっ、マズッた。


 「キャー♡♡ あの二人しょっちゅうキスをしてるんですってぇ♡」


 「ギャー!! やめろぉぉぉ! ちがっ、そういう意味じゃねぇぇぇ!!!」


 「これは腕によりをかけて、いつもの何倍も熱いキスが出来るようにしてやんなきゃ優勝賞品として見合わねぇな!」


 「だからいらねぇって言ってんだろぉぉぉ!!!」


 …………だめだ、収集つかねぇ。


 「はいはいはい、皆さんご協力感謝いたします。続いてはそんな健気なチュチュさんの思い人、リリスさんの願いを発表してもらうよー!」


 いろいろ突っ込みたい所はあるが……健気なとか、思い人とか……取り敢えずホエザルのよく通る声で会場の熱気は少しだけ収まった。


 「ではでは、リリスさんの願いとは!?」


 私の願い。


 「私は──」



 優勝賞品に、何でも一つシャローム地下都市の市民たちが願いを叶えてくれる。

 私が今回の大会に出場した当初の目的は、アピスとロリ探しを手伝ってもらうこと。これっきゃない。

 アピスが見つからねぇと私達は、アピスのスキムミルクを調達してくるという依頼を達成することができず、一文無しとなり、ロリが見つからなければ私の胸はますます巨大化してしまう。だけど、


 「私は、このシャローム地下都市の塔に閉じ込められたゴーレム人形の解放を願う」


 チュチュのキスしたい発表にまだザワついていた観客たちも一人残らずシーンとなった。

 縦ラインの強調された猫目も、鋭く尖った猛禽類の目も、まるで獲物として見るように、じっと静かに真っ直ぐ私だけを見ていた。


 うわぁぁ……視線が痛え。


 自分の呼吸の音が聞こえる。

 これが狩られる側の心境なのだろうか。


 けど、ここまでやっちまったんだ。今さら引けるか!


 「お前たちの負の感情をゴーレム人形が一身に引き受けてこのシャローム地下都市の平和が保たれていることは知っている。ゴーレム人形が解放されれば負の感情は再びお前らの中に宿り続け、争いが生まれるかもしれねぇことも分かってる。けどな、それでも私はゴーレム人形の解放を願う。これからは、テメェらの怒りや憎しみくらいテメェらで背負いやがれ!」




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