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百合ってロリって迷宮攻略!~女嫌いリリスの苦難~  作者: いおり
第三章 シャローム地下都市
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これは歴史なんかじゃない。


 物語は、憎しみ合い、嫌い合い、怒りで満ちたシャローム地下都市に、とある冒険者がやってくるところから始まる。


 冒険者は悪人たちと戦った。

 まるで舞うように悪人たちを次次に倒していく。

 だが、悪人たちは増え続ける一方だった。戦いは終わらない。


 ケモノ族は怒り、憎しみ、嫌い合う。

 積み重なる記憶が負の感情を生み出し、魔法が争いを過激なものとする。


 そこで冒険者は、“負の感情”と“少しの記憶”と“魔力”を吸い取るゴーレム人形を作り出す。


 生まれたてのゴーレム人形は、生まれたその瞬間からケモノ族の役に立った。

 ゴーレム人形は生まれたその瞬間から、ケモノ族の幸せだけを望む存在となった。


 平和になったシャローム地下都市。

 冒険者はゴーレム人形に、花の髪飾りを渡し、ゴーレム人形を置いて去る。

 シャローム地下都市に平和あれ。幸福あれ。

 嫌なことは全て、このゴーレム人形が引き受けてくれる。



 私とチュチュの踊りは、冒険者である私がゴーレム人形であるチュチュの髪に髪飾りを……実際はなんの花だか分からないらしいから、今回はシヴァにもらったスノードロップを付ける動きまで差し掛かった。


 あとは冒険者である私がシャローム地下都市を、シャローム地下都市を救った英雄として優雅に去れば幕は下りる。


 冒険者はこの後も冒険を続けるのだろう。これがここの歴史だ。

 観客たちも審査員たちも、分かりきったハッピーエンドを待ち望んでいる。


 ……


 本当に、これでハッピーエンドなのか?


 確かに、ケモノ族が負の感情を抱えることがなくなったシャローム地下都市は平和になった。みんな穏やかで、平和に生きていける世の中になった。


 けどゴーレム人形は?

 市民の怒りや憎しみ、悲しみを引き受けて、高い塔の天辺に置いて行かれる。

 負の感情と一緒に、暗くて狭い部屋に押し込められて、それらの圧に耐え続ける。

 シャローム地下都市の平和を保つため、自分は喜びや感謝、楽しみを諦める。


 私は冒険者。ゴーレム人形を演じるチュチュを置いて新たな冒険へと歩みだす。


 これはシャローム地下都市の市民なら誰しもが知っている歴史。

シャローム地下都市に平和をもたらした英雄の物語。


 「リリス?」


 けど、私は英雄なんかじゃない。私はゴーレム人形を──チュチュを置いては行かない。


 たとえこれから私がとる行動で、シャローム地下都市の平和な歴史が汚されたとしても、テメェの怒りや悲しみくらい、テメェで背負え!


 「チュチュ」


挿絵(By みてみん)


 塔の扉をブチ壊し、閉じ込めていた負の感情を解き放ち、私はチュチュを抱きしめた。

 しっかりとチュチュの細い腰を支え、離さない。

これは歴史なんかじゃない。これは私達の物語だ。

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