変な伝説が多すぎやしねぇか?
「あたしからもお願いします!」
「クジャクペアをギャフンと言わせてやってください!」
「こんなの納得できません!」
クジャクペアの、審査員買収を知っても仕方ないと笑っていた大会出場者たち。
けれど、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ。
負の感情を吸い取るゴーレム人形が間に合わないほどの怒りを、この場の全員が感じていた。
怒りを通り越して、呆れモードに入っていた私も、ケモノ族の怒りに満ちた熱い眼差しを見て、再び沸々と怒りがこみ上げるのを感じてきた。
「いいぜ。もともとそのつもりだったんだ。私だってこのまま引き下がれねぇしな」
勝ってた勝負に負けっぱなしなんて、気持ちよく男に戻れねぇ。
「けど、どうする? リトライするにも、あんだけ徹底的に飼い慣らされた審査員の判定を覆させるのは簡単なことじゃねぇぜ」
踊りの借りは踊りで返す。けど、踊りという、審査員の気分次第で点数をどうにでもできる競技の評価で買収された審査員を心変わりさせるのは難しい。
普通にやるだけでは絶対にクジャクペアの点を超えるのは無理だろう。
「リリス」
カラカラと車輪の音が聞こえ、ケモノ族の間から出てきたのは車輪のついた板に座ったチュチュだった。そして隣にはシヴァもいた。
「チュチュ、シヴァ、来てたのか」
「全部見てた。リリス、かっこよかった」
チュチュの賞賛に、なぜかヒューヒュー言ってくるケモノ族の野次。
「その次のケモノ族の踊りは醜かった」
バッサリとクジャクペアを切り捨てたチュチュの痛烈な一言にうんうん同意するケモノ族。
「チュチュもあの結果は納得いかない。リリス、チュチュと大会に出場するよ」
足を怪我した水色のヒョロっこい幼女の一言に、今度はケモノ族全員が首を傾げた。それは私も例外では無い。
「いま大会に出場するって言ったか?」
コクリ頷くチュチュ。
「お前と私でか?」
もう一度頷くチュチュ。
「いやいやいや、お前は踊りなんてやったことねぇし、そもそもその脚じゃあ踊れねぇだろう」
「大丈夫だ」
と、急に会話に入ってきたのは、青い口紅をひき、青い靴を履いた白いトリ頭の婆さん。
この人は、私達が泊めてもらっている格安宿の宿主さんだ。
「あんたが広場でショシャナットと踊りの練習をしている間、その子にはあたしが踊りを叩き込んでやった。座りと突っ立った動きさえできればいい動きをね」
宿主さんの言葉に周囲がざわざわし始める。
「あの!」
と、興奮気味にリスが一歩前へ出た。
「貴方はカラパさんですよね! 引退するまで“シャロームの舞”を10連覇した伝説の踊り子の!」
伝説の踊り子? この無駄にシャキッとした婆さんがか!?
「そんな事もあったね」
「あれから弟子にしてほしいと、シャローム地下都市じゅうの踊り子たちが押しかけたにもかかわらず、一切弟子をとらなかったあげく酷い勝負で全員追い返した伝説の百人切り、カラパさんですよね!」
「弟子なんて、めんどっちかったからな」
酷い勝負って……何をしたんだこの婆さん。
「踊りで稼いだお金を全部お酒代に注ぎ込んで、次は飲み勝負で毎晩稼いでいた伝説の酒豪、カラパさんですよね!」
「今はしがない宿主やってるがね」
おいおい、なんだこの婆さん。
変な伝説が多すぎやしねぇか?
まぁ、言われてみればそんなオーラがあるように感じなくもない気がしてきたが。
「そんなカラパさんに踊りの稽古をつけてもらったんですか!」
この伝説の婆さんの大ファンなのかどうかよく分からないリスくんは、次にチュチュに詰め寄った。
「シヴァたんがショシャナットに教えてもらった動きで遊んでたら、カラパ、チュチュにちゃんと踊りを教えてくれた」
「危なっかしくて見てらんなかったからね……まぁ、この子は筋が良かったからすぐ覚えたけどさ」
うちの“攻め姿勢”がとんだご迷惑をおかけしました。
「だからリリス、チュチュは大丈夫。それに、まだ歩けないけど立つだけならできる」
「いやいや、座りと立つだけでできる踊りなんてねぇだろ。それってどんな踊りだよ」
「いや、ある」
皆の視線がカラパに集まる。
「それもとっておき、このシャローム地下都市の歴史を表す舞。“英雄となった冒険者とゴーレム人形”の物語だよ」
カラパは、カラパイアという求愛行動でダンスする鳥だったと思います
足とクチバシが青いです。確か




