お前らの言う大人の世界ってのがよーく分かった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
今までで一番上手く踊れた。私は本番に強いタイプかもしれない。
観客は拍手喝采。そして気になる五人のクジャク審査員の点数は……
10点、9点、9点、10点、10点。
50点満点中、合計48点という高得点だった。
「キャー! リリス、すごいすごい!! あたし、こんなにいい点数もらったの初めてだよぉ!」
結果を見るなりショシャナットが私に突進してきた。危ないし、嫌だからサッとかわした。
「ふぎゃっ! もう、リリスってば」
膨れるショシャナットを連れて、私は舞台袖へと引っ込んだ。
「お二人ともお疲れ様! すごかったね!」
「あたくし、感動いたしましたわ!」
舞台袖で出迎えてくれたのは他の出場者や裏方のケモノ族。
みに口々に私達の踊りに対する感想を述べてくれ、どの言葉をとっても賞賛だった。
しばらく、ケモノ族のもふもふに揉みくちゃにされていると、ホエザルの司会進行で、続いてはクジャクペアの登場だと聞こえた。
私とショシャナットはケモノ族達にことわって、舞台を見に行く。
「それでは期待の新人、本大会委員長の孫であるクジャナ、クジャト姉弟ペアの華麗な舞をご覧あれ!」
大人の世界を教えてあげるとか偉そうなこと言っていたし、衣装の気合の入れようからして、強敵なのは間違いないだろうからな。期待の新人の踊りを見せてもらおうじゃねぇか。
優雅なワルツが流れ、さっきより一層に宝飾品で飾り立てたクジャクペアが舞台に上がった。
二人は踊りだし、会場がざわついた。
「なんだよあれ……」
「お遊戯じゃないんだから……」
「あぁあぁ、頭飾りが落ちちゃったよ」
「見てられねぇな」
クジャクペアの踊りは、目も当てられないほど酷く、練習していないのは見て明らかだった。
いつ転ぶんじゃないか、いつ足を踏むんじゃないかとハラハラした時間がノロノロと流れ、ついに姉のほうが、
「もういいでしょ? 終わりよ。フィニッシュフィニッシュ」
まだ途中だというのに曲をすっ飛ばしてフィニッシュを決めてしまった。フィニッシュの決めポーズだけは、なかなか上手く決まっていた。
これでは流石に、買収した審査員たちも呆れて公正な審査を下すだろう。
私を含めた、会場にいる全員がそう思った。そしてクジャクペアの点数は……
10点、10点、10点、10点、10点。
50点満点中50点。
まじかよ。
「やりやがったな……」
クジャクペアと審査員以外、開いた口が塞がらなかった。
会場が騒然とする中、悠々と舞台袖にはけて来たクジャクペア。
「あら、ショシャナットにロリっ子ちゃん見ててくれたの。それで、どうだったかしら?」
ドヤ顔の姉クジャク。
よくもまぁ、あれでドヤ顔が決め込めたもんだ。
「ああ、お前らの言う大人の世界ってのがよーく分かった」
「そりゃ良かった」
「ここまでやられると、もう手も足も出ねぇよ。めでたいとしか言いようがないね」
「素直でよろしいわ。けど、もっと悔しがったっていいのよ? “シャロームの舞”は夜までやっているし、飛び入り参加も再出場も可能な、フレキシブルな大会だから何度だって当たって砕けるといいわ」
「僕達は優勝賞品に、シャローム地下都市の全宝石をもらうつもりで、これから宝石箱の整理で忙しいから見てあげられないけれど、せいぜい頑張るといいよ」
「それではみなさん、ごきげんよう」
飾り尾羽を揺らしながら、金に目のくらんだ取り巻きを引き連れて、クジャクペアは去っていった。
ふぅ。よーやくムカつくのがいなくなったぜ。
ああー、ムカつくけどここまで出来レースが出来上がってちゃあな。余所者の私にはもう何もできない。
やめたやめた、なんかアホらしくなってきた。
アピスもロリモンも、自分で探せば済む話だし、サル爺の占いは所詮占いだと気にしないでおこう。
祭り自体、面倒くさく感じてきた私は宿に戻ってこれからの計画を立てようと思った。と、そこへリスの踊り子がやって来た。
「リリスさん」
「おう、リスくん。今終わったのか」
「はい。結果は40点と自己ベスト更新でした」
「すげぇじゃねぇか。よかったな」
「はい」
良かったと言う割に、リスの表情は暗かった。と言うより、歯を食いしばって何か押さえ込むように顔を真っ赤にしていた。
「リリスさん、俺は生まれてからずっと、このシャローム地下都市にいたからゴーレム人形のおかげで怒りや憎しみを経験してきませんでした」
よく見るとリスはキッと、遠くを歩くクジャクペアを睨みつけ、涙を浮かべている。
「けど、今俺は生まれて初めて、ゴーレム人形が追いつけないほどに怒りや悲しみを生み出しているんだと思います。俺、あいつらが許せない!」
リスの言葉を聞きつけて、私達の周りに大会出場者達が、リスと同じ表情で集まってきた。
「リリスさん、お願いします。あいつらをギャフンと言わせてやってください!」
怒り、恨み、悲しみ、悔しさを思い出したケモノ族は、ニンゲンというケモノに全てを捧げた。




