だから塔は高い。
シャローム地下都市、随一の観光名所であるこの塔の最上階には、この都市に住まう者から“負の感情”と“少しの記憶”と“魔力”を吸い取り、平和を保つ身代わりゴーレム人形が飾られている。
だから塔は高い。この都市全体を一望できるようにするために。
「高すぎる!」
塔の階段を上り始めてかれこれもう三十分はたったか。しかも段差が一段一段高いからなかなか上るのに苦労する。
「高すぎだろこれ。ってか、どうやって作ったんだよ……」
だが、もうそろそろ頂上だろう。風を感じる。出口は近い。
「おいチュチュ、大丈夫か………って、チュチュ?」
今まで自分が上るのに必死すぎて後ろを振り返らなかった。抜かった。チュチュがいねぇ。
「あー、置いてきちまったか。ったく、声くらいかけろよな」
だが、ここまで来て戻るのもなんだかなぁ。せっかくだから最後まで上りきって、帰りにチュチュを探せばいいか。
そう思ったときだった。
「え?」
足元の段差がいきなりなくなり、階段が滑り台になった。
「はええええええ!?」
ツルンと足元が滑り、そのままどんどん下へ下へと滑り落ちていく。
上るのはあんなに苦労して時間もかかったのに、下りるのは簡単であっという間だった。
「ふぎゃっ!」
「うぎゅ………」
勢い良く塔の外へと排出された私の下には、同じく滑り落ちてきたのであろうチュチュが目を回していた。
ってか、私がチュチュを下敷きにして潰しちまった。
「あたたた……っタァ!」
慌てて飛び起きチュチュから距離をとるが、やべぇ。普通の女なら、幼女の体の私が転がってきたくらいではどーにもならねぇだろうがチュチュは……
「リリス大丈夫?」
「ああ、私は平気だ。けどお前……」
チュチュの脚はダラリと歪な形になってしまっていた。
「仕方ねぇ。ここは諦めて取り敢えず宿に戻るとするか」
ああ、帰ったらショシャナットがうるさいんだろうな。シヴァを犠牲にしたことはこれっぽっちも心が痛まねぇが、どうなってしまったのかは想像もつかないから、取り敢えず両手を合わせておこう。まぁ、天に召されるような事には流石になっていないと思うが……
チュチュを背負いながら宿に戻り、借りている部屋の扉を開こうとした時だ。
「だ、だめだよ……ボクそんなに脚、開かないよ……」
「恥ずかしがらなければもっとイケる。………ねぇ、もっと激しくしていい?」
ど………どういう状況だ!?!?




