行かざるべしだ。
日も傾いた頃、私とチュチュは昨日の歴史博物館で模型を見た、シャローム地下都市で一番高い塔に足を運んだ。
「塔のてっぺんには身代わりゴーレム人形が飾られているんだよな? シャローム地下都市にいる人々から“怒りや憎しみといった負の感情”と“少しの記憶”と“魔力”を吸取って平和を保っているっていう……」
「リリス、これ?」
手元の観光マップに目を落としていた私は隣で首と体を180度にしているチュチュの視線の先を追ってみた。
「ま、まじかよ……。この階段、いったい何段あるんだ?」
スカイツリーに匹敵する程の高さがある。もちろんエレベーターもないローリアビテでは、ロープウェイが見当たらなければ階段でしか登る手段はない。
階段の入り口にいる、塔の管理者らしき爺のサル耳に尋ねる。
「あの、この塔の階段って何段あるんですか?」
「それは聞かざるがよし。これを上るなら段を見ざるべし。よってワシも言わざる」
えーっと、つまり段の数は知らないほうが身のためってことだな。
「よし。観光名所巡りはこれにて終了だ。こんなん登ったら次の日に筋肉痛が襲ってくること間違い無しだからな。そうなりたくなければ、行かざるべしだ」
帰るぞチュチュ、と私が言いかけたときだ。
「行ってくる」
「えええっ!?」
とととっ、と爺サル耳を素通りしてチュチュは階段を登り始めた。
「ちょっと待て! お前の筋力と体力じゃ上り切るのは不可能だ! それに途中で下りる体力もなくなったらどうするんだよ!? おいっ、待てチュチュ、おーーい!」
ったく! どうなっても知らねえぞ。
「私は行かないからな!」
私の声が塔を筒抜け、どこまでも上へ上へと響いていく。
ゴールは無い、そんな気がした。
果てしない塔の階段に飲み込まれていくように軽快に階段を上っていくチュチュの足音が遠くなる。
「………ああもう! 勝手に動くな! お前が迷惑かけたら私にも責任が問われるんだよ!」
その悪態を追うように、私もシャローム地下都市で一番高い塔の階段を上り始めた。




