……逃げねば
目を覚ますと、私とチュチュとシヴァが川の字で寝ていた。
バサッと布団をめくり、体を起こすとショシャナットが朝食を食卓に並べていた。
「あ、リリスおはよう。あたしの名前はショシャナット! 今日はどこへ行きたい? あたしが案内してあげる!」
朝からうるさい。ってか、今日も付き纏うつもりかよ。
鬱陶しいから来るな。あっ、だけど昨日聞きそびれた疑問があるから先にそれを解決してもらおう。
「なあ、昨日行った歴史博物館には半年前の事には一切触れられていないんだが、ここのケモノ族達は半年前に飛ばされて来た女が来たときはどんな反応だったんた?」
「え? 半年前って?」
なんのこと? と言うように首を傾げるショシャナット。
……ん? 私が思っていたのと反応が違うぞ?
半年前って言ったら、各迷宮にロリモンスターが飛ばされて来た日のことだろうが。
突然ロリモンが現れたことに驚くだろうし、ロリモンのことだから何かしでかしているに違いないと思ったんだが……
「半年前に来ただろ? どいつが来たかは分かんねぇけど、魔力値が異常に高い女が一人」
「んー? そんなことあったかなぁ? ごめん、分かんないや」
「役立たずの案内人め」
「思ったことをすぐ口に出さないで!! けど、知らないんだから仕方ないよ。それに、知らないのはあたしだけじゃないと思うよ。ここの人はみんなそんな幼女知らないと思う」
そんな馬鹿な。ロリモンスターは必ず来ている。これだけケモノ族がいるんだから、ロリモンスターの到来を目撃したやつはいるはずだ。
「もういい。今日は私達は聞き込み調査をするからショシャナットは来なくていい、と言うかうるせぇから来るな」
「まあ、みんな優しいから喜んでリリス達とお話してくれると思う。けどなんかムカつくからあたしも付いて行く」
「チッ……」
「今舌打ちした!? ねえ舌打ちはダメだって!」
本当にキンキンうるさい女だ。
おかげでスッカリ目が覚めた。
「……リリス、おはよ」
そしてチュチュ、続いてシヴァも目を覚した。ショシャナット、いい目覚まし時計だ。
「おはようチュチュ、シヴァ。あたしの名前はショシャナット! さあ、三人とも起きたところで、昨日入りそびれたお風呂に入るよ!」
朝風呂だ? そんな贅沢なもん、到底、宿代の200コレイの中に含まれているということはないだろう。
「安心して。お風呂もちゃーんと料金に含まれているから。シャローム地下都市は地下水を引いているから水の回りがいいの。さ、お風呂はあたしが隣の部屋にもう用意しておいたから、三人とも脱いで脱いで!」
ショシャナットが布団を敷いた部屋の隣の部屋を開けると、小さなシャワールームと浴槽があった。
「アホか。三人まとめて入れる大きさじゃねぇし前科のあるお前の前で脱げるか!」
昨日のショシャナットの悪行を思い出し、こいつの前でヘタに刺激するようなことをしてしまうとエライ目に遭うということは学習済み……なのだが、
「ちょっ、何しやがる!?」
ショシャナットはもの凄い馬鹿力と勢いで寝起きで力の入らない私の服をひん剥いた。
そして同じ要領でチュチュとシヴァの服も脱がす。
抵抗する間もなかった私。されるがままのチュチュ。寝ぼけたままのシヴァ。
あっという間だった。
「さあ、キレイにしましょーねー!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
狭い。浴槽めちゃくちゃ狭い! こんなところに三人押し込められてキツキツじゃねぇか!
「リリス、そんなところ抑えられたら痛い」
「そんなとこってどこだよ!? 狭くて当たりまくってるから分かんねぇよ!」
「リリスの指がチュチュの大事なあs……」
「ストップストッープ!! 私が悪かったからそれ以上言うなぁぁ!」
「じゃあ、まずはシヴァから洗ってあげる♪」
「ふぇ? ぼ、ボク自分で洗えr……あわわっ!?」
あー地獄絵図。ショシャナットがシヴァの体中を弄るように……
「ふぇ……ぼ、ボク、自分で………はぅっ! そ、そんな所まで……」
「大丈夫大丈夫、優しく洗ってあげるから♪」
あられもない姿でフニャフニャな顔になっていくシヴァ。
ま、まずい!! このまま行くと私も順番が回ってきてショシャナットの餌食にされてしまううう!!!
「……逃げねば」
だが、出口の扉の前に立ちはだかるは怪力ショシャナット。
無防備なまま奴を突破するのは至難の業だ。
更衣室へ続く出口は諦めよう。となると残り出口は外へと続く型板ガラスの窓のみ。だけど流石に素っ裸のまま外へ飛び出すのはちょっと……
「リリス、行くよ」
「へ?」
突然掴まれた私の腕。逃げねばという私の独り言を耳にしたチュチュは私をグイッと引っ張った。
滑って体制を崩した私はよろめきながら型板ガラスの窓から飛び出し、柵のないベランダ状になった場所から真っ逆さまにチュチュと落ちて行く。
って!? 高いよ!! 落ちる落ちる落ちる!!
ムチャクチャだぁぁぁ!!
肌を守る布が一切無い私達がそのまま地面に転がればただじゃ済まない。
クソッ、後のことも考えろよな!
「チュチュ、手!!」
私が伸ばした手をチュチュが掴んだところでグイッと引き寄せ、抱えた。
そして片手で、建物の壁を伝う排水用のパイプを掴んで速度を落とし、見た感じ柔らかそうな地面に着地した。
た、助かった……
「リリス」
「ん………うわっ!!」
裸のまま私にお姫様抱っこをされていたチュチュを思わず放り出す。
つーか私は何でチュチュをお姫様抱っこしてたんだぁぁ!!!?
頭を抱えていると、上からショシャナットが怒鳴る声が聞こえた。それと、周りのケモノ族達がこちらを見ているのを感じた。
「クソッ、いろいろ言いたいことはあるが後だ。逃げるぞチュチュ!」
コクリ頷いたチュチュと私は人目の少ない細い路地を選んでショシャナットの魔の手から命からがら逃げたのだった。




