お前はなんの動物なんだよ?
「んで? さっきのは何だったんだショシャナット?」
私からショシャナットへ。
「えーっと、改めて言うのも恥ずかしいといいますかなんと言いますか……」
「どうして布団の上でハアハアなっていたのショシャナット?」
チュチュからショシャナットへ。
「まぁ、その、ケモノ族のサガと言いますかスイッチが入ってしまったといいますか……」
「ぼ、ボクに何を感じていたのショシャナット……?」
シヴァからショシャナットへ。
「感じていたと言うのがなんと言いますかドンピシャと言いますか…………って、みんなしてこんな時だけショシャナットショシャナットしっかり呼ばないでぇぇ!!」
乳白色の髪の毛が染まるほど顔を真っ赤にして両手で顔を隠すショシャナット。
「「「ちゃんと言って(え)、ショシャナット」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ショシャナットは布団にもぐりこんでしまった。
「おいどけ、ショシャナット。私の布団だぞ」
「リリスの意地悪! ドS! 毛皮無し!」
最後のはよく分からんが、どーやら私はこのアマに貶されたらしい。
「ほぉ〜? だーれが意地悪でドSで人で無しだって?」
「最後のは言ってない!!」
パキッと、拳を作ったまま指を鳴らした。
「問答無用! こんにゃろ、叩き出してやるぅ!!!」
そしてそのままショシャナットを布団の上から殴りに掛かる……が、
「…………あれ?」
スッと怒りが収まった。なんか、殴る気無くなった。
「………」
わけが分からなくて、やり場のなくなった拳を見つめていると、壁の向こうからノックが聞こえた。
「失礼しますお客様。ご夕食をお持ちしました。入ってもよろしいですか?」
「えっ、あ。はい」
私の返事のあと宿主が夕食を運んできてくれた。
200コレイ夕食付き。なんて気前がいいんだ。
「お腹空いた! ご主人、ありがと!!」
布団からとび出すショシャナット。えっ、お前も食うの?
夕食を食い終わった。
「んで、さっきのは本当に何だったんだショシャナット?」
「うっ……それは」
別にもう責めているわけでも何でもなく、私はただの興味で質問をした。
最後に名前をつけたのも別に責めているわけではない。
「えっと、そうだよね。こっちが悪いんだし、ケモノ族の事だから知っておいてもらったほうがいいよね……」
なにやら自分に言い聞かせるように言い訳をするショシャナット。そしてようやく決心がついたようだ。
「えっと、さっきのはケモノ族特有の性質で、ケモノ族はそれぞれ“性”を感じると理性より本能が大きくなって興奮しちゃう。さっきのあたしの場合、シヴァが上に乗ったことがトリガーだった。つまり………そういうこと」
なるほど、発情か。
「どういうこと?」
「シヴァは黙ってろ」
「ひっ、ひどい……ボク、仲間はずれ、ひどいよ、仲間はずれ、仲間はずれ、仲間はずれ仲間はずれ仲間はずれ仲間はずれ仲間はずれ仲間はずれ…………」
ああ……また始まった。無視だ、無視。どーせシャローム地下都市で魔法は発動しねぇんだから、問題は無い。
「っと、そう言えばショシャナットは何の動物なんだ? その葉っぱ形の耳しか見えてねぇから分かんねぇんだけど」
葉っぱ形の耳……考えてみたがキリンやヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イノシシ、場合によってはイヌもあり得る。耳だけじゃショシャナットがなんの動物のケモノ族なのか見分けがつかなかった。尻尾はスカートの下にしっかり隠れちまってるし。
「えっ……あたしが、なに?」
「だから、お前はなんの動物なんだよ? 昼間、馬車に跳ねられたのはイヌだろ? 跳ねた方もイヌだったけど」
「ああ、イヌね。そう、イヌはイヌでも跳ねられた方はハスキーで跳ねた方はビーグルだったわね!」
「で? お前はイヌなのか?」
明らかにはぐらかそうとするショシャナット。
「イヌではないけれど……」
えっ、なんでこいつこんなに躊躇してるんだ?
ケモノ族にとって自分の種類を言うのは躊躇われることなのか?
いや、大抵は見りゃわかるしそんな事はないだろう。
「あー! みんな眠いよね? 眠いでしょ! もう寝よ今すぐ寝よ! さぁ皆さんこちらへ寝そべってーハイハイハイ!」
「っちょ!? 私に気安く触んじゃねぇ!」
な、なんて力だコイツ!?
シヴァを背負ってた時も思ったけど、思った以上に力強ぇ!
「はい! 四人ならんで明日に備えて寝ましょうー! おやすみー!」
チュチュ、シヴァは布団の上に転がされ、私はショシャナットにほぼ押さえつけられて布団に寝かされた。
「ぎゃぁぁああーーー! 出せ、出せぇぇぇ!!!」
「リリスうるさい」
「ボク、眠い……」
「お前ら、人の気も知らねぇでぇぇぇ! 裏切り者おぉぉ!」
なんて自分勝手な姉妹だ!
もう寝やがった!
ってか、まじ何なんだショシャナット!?
「おやすみおやすみおやすみーーー!」
「ぐわぁぁぁぁぁーーー!!!」
私の必死の抵抗も虚しく、ショシャナットとの大声合戦の疲れで喉が枯れ、私はいつしか眠ってしまった。
あんなにうるさくしたのに、宿主や近隣住民からクレームの一つも来なかった。




