歴史とか、面倒くせぇ。
ショシャナットに連れて来られたのは、シャローム地下都市の歴史博物館。
「ここでこのシャローム地下都市のことが全部分かるから、ちゃんとあたしの説明聞いててよね?」
「歴史とか、面倒くせぇ」
「文句言わない!」
「お前が一番面倒くせぇ」
「それは言わない!」
突っ込みつつも、咳払いをし、ショシャナットは語り始める。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
むかし、このシャローム地下都市は、ケモノ族たちの牢獄でした。
悪いことをしたケモノ族を閉じ込めて改心するまで待っていたいたのです。
しかし、悪者たちは改心しません。
そんな時、とても力のある冒険者がケモノ族たちのもとへやって来ました。
ケモノ族たちはその冒険者に、地下に閉じ込めた悪者達を改心させてほしいと頼みました。
冒険者は快く引き受け、土魔法で身代わりゴーレム人形を作りました。
その身代わりゴーレム人形は、地下都市にいる人から「怒りや憎しみ」「魔力」「少しの記憶」を吸い取るのです。
こうして悪人たちはいい人達となり、ケモノ族達もいつしか一緒に暮らすようになりました。
その身代わりゴーレム人形は地下都市の一番高い塔に飾られています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おしまい。どうだった?」
うるさい案内人といっしょに歴史博物館を周り終えた私たち。うるさい案内人がうるさい案内人らしく感想を求めてきた。
「一つわかったことがある」
「なになに?」
「私がお前の名前を覚えられないのは、その身代わりゴーレム人形のせいだ」
「絶対ちがーう!!!」
館内ではお静かに。なんて常識人は通用しないようだ。
「いや、違わねぇだろ。だってそのゴーレム人形は“少しの記憶”も奪っちまうんだろ? 私の中のお前の名前が奪われてるに違いない」
「それにしても忘れ過ぎだから! あたしの名前はショシャナット! そろそろ定着してもいい頃なのに……」
「さ、そろそろ帰るとするか」
「ちゃんと聞いてよね!!」
薄暗い歴史博物館を歩き回って頭も使って疲れた。宿も無事に見つけたことだし、帰って寝るとするか。さすがに200コレイでは晩御飯は付かねぇだろうからな。
「チュチュ、シヴァ、帰るぞ……って、あれ? シヴァは?」
ゴーレム人形の模型の前で言い合う私とショシャナットの後ろを付いてきていたはずのチュチュとシヴァ。しかし、今になって振り返ってみると、付いて来ていたのはチュチュだけだった。
「シヴァたんなら、ここでお昼寝してる」
チュチュの視線の先を見ると、ジオラマケースの影に隠れるようにして壁にもたれ掛かって居眠りするシヴァがいた。
「はあー引きこもりめ。寝たいときに寝やがって。これからはチームなんだからちょっとは自粛してもらわねぇと困るんだよな」
仕方ねぇからシヴァを叩き起こそうとした時、ショシャナットが私より先に前へ出た。
「任せて! あたしがシヴァをおぶって行く。……よいしょっと」
シヴァと同じくらいの大きさしかないショシャナットがシヴァを背中に載せるととても無様。こんなんで歩けるのかよ?
だが、私の心配をよそに、意外にもショシャナットは力が強く体力もあり、歴史博物館から宿まで息も切らすことなくシヴァを背負いきった。




