そんなことで男が争うもんじゃねぇ。
それにしても、ここの人たちは穏やかだ。
もらったピタポケットを口いっぱい頬ばりながら歩く私達。
おっ、中は揚げた野菜が入っているのか。うめぇ。
「ねぇ、ちょっとあれ見て」
突然シヴァが私に言いつつ道の向こうを指差す。その顔は引き攣って青い。まずい、病気の前触れだ。
「あれケンカしそう。ケンカはダメだよ、怖いよ、怖いよ、怖いよ、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……」
お前の方が怖ぇよ。
けど、シヴァが見た方向には確かに一触即発の場面が見える。
真ん中に華やかなかっこうをしたウサ耳の女。その右側にはトラ耳と尻尾の男、左側には獅子耳と尻尾の男がお互いを睨み合っていた。
「おいおい、女の取り合いなんて無駄なことをおっ始めようってか? そんなことで男が争うもんじゃねぇ。私が仲裁に入るか?」
これから訪れようとする、もしもの時のために私は現場へつま先を向けるが、
「あたしの名前はショシャナット! 大丈夫よ、見てて」
うるさい案内人に止められた。ってか、本当にいちいち名乗るんだな。
けど、大丈夫ってどういう事だ?
首を傾げて、もう一度トラと獅子を見ると、
「あれっ!?」
二人はウサ耳の女を真ん中にして、仲良く肩を組んでいた。その会話に耳を傾ける。
「がははははっ、取り合いなんて心が狭い。こんな時は三人で仲良くやろうじゃないか!」
「そうだそうだ、つまらない事で争うもんじゃねぇな! せっかく見つけた可愛い子は分合わねぇとな!」
んなっ……!
「なんて心が広いんだアイツら。二股かけてた最低女を許して仲良くなっちまうだなんて……」
「二股じゃなくて、二人同時にあの女の子にナンパしただけだと思うんだけど……あっ、あたしの名前はショシャナット。というかシヴァは大丈夫なの?」
まだ震え、ヤヴァイ目をしたシヴァにドン引くうるさい案内人、ショシャナット。
「あー、まぁ魔法が暴発しても厄介だし、今のうちになだめておくとするか。おいシヴァ、よく見ろ。なんも怖くなんかねぇ」
「ケンカ……止めなきゃ………ボクが………ケンカ………止めなきゃ!」
ん? な、なんかヤヴァイ!
「ケンカは、やめてぇぇぇぇぇ!!!」
うぉぉぉぉぉい!!
まずい、シヴァが魔法をぶっ放しやがった!
詠唱無しの無謀魔法、感情に任せたムチャクチャな爆発。
魔力値6900もあるシヴァの魔法は魔力値100の私ごときでは止められない!
魔法に対して体当たりでトラと獅子を守ろうと、というか保護者の責任を果たそうとしたのだが……
「あれ?」
空振って私は宙に転がっただけだった。ちなみにピタポケットは無事だ。
「あれ? あれれ? 魔法が……使えない?」
シヴァの魔法は発動しなかった。
精神不安定で魔法が暴走することはあっても、不発に終わったことはないシヴァの魔法。
「どういうことだ?」
「あたしショシャナット! あたしが説明してあげる。ここでは、魔法が使えないの」
「魔法が使えない? それまたどうして?」
「それはn………」
その時私達の目の前の道で、荷馬車が一人のイヌ耳の女を跳ね飛ばした。




