当てつけだ。
「ここに住む人々は見ての通り、ケモノ族! あっ、こんにちはー!」
「こんにちは。冒険者さんの案内かい? 頑張ってね」
道行く人、みんなに笑顔で挨拶を交わすショシャナット。
ショシャナットだけではない。道行く人、みんな笑顔で活気がある。
「ねぇ、冒険者さん。そろそろお名前教えてよ?」
「名前を聞く時はまず自分から名乗れよ失礼女」
「あたしはショシャナット! いくら覚えにくい名前だからって名乗ったことまで忘れないでよね!?」
「あーわかったわかった。今のは冗談だから。私はリリス。んで、後ろの二人がチュチュとシヴァ」
「………リリス、」
いきなり呼び捨てかよ。
「チュチュとシヴァが消えちゃったわ」
「なにっ!?」
ショシャナットに言われて後ろを振り返ると、そこにいるはずの二人はいなかった。
「はぁ!? あいつらどこに……」
まさか、誘拐!?
しまった、いくらここが平和で名高いシャローム地下都市と言っても迷宮だ。
野蛮な奴らもいるだろ。少し考えてみれば拉致、盗難、脅迫に注意を払わなくちゃならねぇことくらい想像がついた。
「ったく! 悲鳴くらいあげろよなあの無口姉妹!」
さっきまで平和そのもののように見えたマルシェが途端に歪んで見える。
「チュチュ! シヴァ! いたら返事しろーーー!」
「なにリリス?」
「………え?」
振り向いて、拍子抜けした。
チュチュとシヴァは、丸い形の大きなサンドイッチを持って、シヴァはそれを口いっぱい頬ばっていた。
それを見てちょっとホッとした……じゃねぇ!
「おまっ! それどうした!? 買ったのか? 私ら今は無一文だろ! まさか盗んだのか……!?」
しかしチュチュは首を振る。
「じゃあ、それどうしたんだよ?」
「もらった」
「もらった?」
チュチュは頷いたあと、向こうの屋台を指差す。
その方向に視線をやると、大きなサンドイッチを持って手招きするタヌキの耳と尻尾をした店主がいた。
「リリスにもくれるって」
タヌキの商売人だ? 商売人がタダで売り物をくれるだなんて、いったいどういう風の吹き回しだ?
怪しい。
「こ、こんにちは」
「こんにちは。お嬢ちゃんもどーだい?」
そう言って売り物を差し出す人の良さそうなタヌキの店主(男)。
「いえ、実は私達はお金を持ってなくて」
「ああ、さっきの水色の子達から聞いてるよ。だからお腹減ってるだろ?」
──ぎゅるるるるるるぅぅぅ……
お腹減ってるだろ、という言葉に返事する代わりに、私のお腹が盛大に大声を上げた。
これは恥ずかしい。
「で、でもこれは商品だからお金を払わねぇと……」
「あははっ、お嬢ちゃんは真面目だねぇ。じゃあこれは試食品だ。気に入って、お金ができたらまた今度買いに来てくれや」
おお、おおおお! 神様、仏様、“オス”タヌキ様!
やっぱり男は慈悲深い。
見よ、この穢のない微笑み!
聞け、このお優しい言葉!
このサンドイッチはタヌキ神からのお恵みに違いねぇ! ん? よく見るとサンドイッチとは違うようだな。
「あ、ありがとうございます! えっと、これはなんて言う食べ物なんですか?」
「これはシャローム地下都市の名物、ピタポケットだ。ぜひ覚えていってくれ」
「ピタポケット。覚えました」
タヌキの店主がくれた、ピタポケットを受け取り、気持ちよくその屋台をあとにした。
「ちょっと何よ今の」
戻るとショ……なんだっけ? うるさい案内人が仁王立ちして構えていた。
「何って何だよ?」
「それよ!」
「ピタポケットか?」
彼女は私のピタポケットを指差し、ギリギリ歯ぎしりをしている。
まさか、私のピタポケットを狙っている!?
「やらねぇぞ!?」
「そうじゃないわよ!! そうじゃなくて、どうしてピタポケットは一回で覚えられたのよ! あたしの名前を覚えるのにはあんなに時間がかかったのに!」
「興味の差だな」
「んなっ! ……いいわ、そっちがそんな態度ならあたしだって考えがある」
おっ、よーやく案内人チェンジか?
「事あるごとにリリスにはあたしの名前を叩き込んでやるぅ!
あたしの名前で頭が一杯になるくらい、夜の夢にショシャナットの名前が出るくらい言い聞かせてやるぅ!」
ぴょこぴょこ跳ねるとそれに合わせて揺れるスズランの髪飾り。そして、
「あたしの名前は、ショシャナット! 以後お見知りおきをっ!」
当てつけだ。
気がつけば201部!ここまでお付き合い頂きありがとう御座います!
そしてブクマが只今295件!大変嬉しく思います!!!
えーっと、あと5件で300件ということで、何かしたいのですが何がいいでしょうか……??




