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別れと再会。


 「えー、リリス達もういっちゃうのー? やぁダァー」


 「グスッ……まだゆっくりしいってもいいんですよ?」


 「キィーキィー」


 出発の日。私たちは、お世話になった召使いゴブリン、それからゴブリン10兄弟姉妹たちを含む第三フロアの皆さんにお別れの挨拶をしていた。


 「こらチビたち。リリス達にも都合があるんだから、泣くな」


 「トロ姉〜、だってぇ〜」


 「キ、キキキキィキ!」


 「とか言って、サンクが一番泣いていますよ?」


 「また会えるさ! だから……みんな、笑顔っえがっ……おぐっ…………うぉぉぉぉ〜!!! 兄ちゃんは泣いてなんかないぞぉぉぉぉ〜!!」


 「キィキィ〜」


 「キィ……」


 お別れの時。帰りは長老たちの一行が、私たちを送ってくれることになった。長老の一行は、このヘルガーデンの構造に詳しく、あらゆる裏道を駆使して安全ルートを通らせてくれるそうだ。


 まずはフェルの待つ、ヘルガーデン第一フロアへ向けて旅立つ。


 「ほれ、リリスとチュチュは神輿に乗れ。シヴァはクマの背中に乗るのじゃ」


 「ああ、サンキューな長老。チュチュ、先に乗れ」


 黙って頷くチュチュ。そして、片足を神輿にかけたとき、ふと振り返る。


 「キィ?」


 すととととっ、と神輿に乗る前に駆け寄ったのは、チュチュの師匠、カトロのもとだ。


 「カトロ、」


 いきなりご指名されたカトロは、こんな状況に慣れていないのか、えっ、俺? みたいな思春期男子の反応をしている。


 この数ヶ月、チュチュはカトロから様々なことを学び、そして攻めの姿勢の抑止力として、チュチュが無茶をしないように最適な訓練を行ってくれていた。

 自分の仕事もこなしながら、訓練に付き合ってくれ、そして最後は戦ってくれた。

 チュチュはその感謝を伝えたいのだろう。

 私たちは、無口で少し不機嫌そうな顔立ちの裏に隠されたカトロの熱さを知っている。だから、チュチュは直接的な感謝の言葉ではなく、別れの言葉でもなく、この言葉を選んだのだろう──


 「次はもっとうまく勝つ。リリスと二人で」


 丸く握りしめた拳を、カトロに突き出す。

 その拳を見つめて、軽く笑うカトロ。そして、カトロも拳を丸め、チュチュの拳にコツンと当てる。


 「キキキキッキィ」


 やれるもんなら、やってみろ。カトロはそういった気がする。


 チュチュは神輿に戻り、今度こそ乗り込む。

 そして私も神輿に乗り込んだ。


 「キッキー」


 せーので持ち上がる神輿。

 みんなより少し高くなった視界からの景色は、10色を一望するのに丁度いい。

 その中の水色は、いつものクワを肩にかけ、こちらを見ている。


 「トロワ……」


 トロワは私の師匠。トロワのスパルタ訓練のおかげで、私は実感するほど体術が備わった。

 特訓をつけてもらっている身で、ぎゃーぎゃー言ったこともあった。無意味な訓練だと、トロワの方針を疑ったこともあった。

 けど、いつも優しく、いつもアッケラカンとした口調で私と接してくれたトロワ。

 トロワは女だけど、それ以上に私の師匠だ。

 そんなトロワに贈る言葉、


 「トロワっ!」


 神輿がゆっくりと動き出す。

 なのに、私はトロワに伝えたいことが沢山ありすぎて、言葉がうまく出てこない。

 ああ、なんだこれ。言葉と共に、熱い何かが喉に詰まって、苦しい。けど、それを乗り越えなければ。今ここで言いたいことを言わなければ。けど、選びきれない言葉たちは我先にと、ますます私の喉につっかえるばかり。


 「リリス、」


 そんな私の気持ちを察してくれたのか、トロワが私の代わりに言葉を続ける。


 「次はあっしと勝負、でっせ」


 ニカッと青白い歯を覗かせ、拳を前に突き出す。


 それに答えるように、私も拳を前に突き出す。


 「ああ。そん時は私が勝つから、覚悟しとけよ、トロワ」


 私とチュチュと長老を乗せた神輿はゆっくりと、ゴブリン屋敷を離れて森へ森へと進んでいく。


 小さくなり、やがて森の影に隠れて見えなくなっていくゴブリンたち。

 けれど、その姿や思い出は、私の中にしっかりと、鮮やかな10色で彩られていた。


 

 

 「お兄様!!」


 ヘルガーデン第一フロア。見覚えのあるバラ園の中心に、フェルの拠点はある。


 「お兄様、お兄様!!」


 バラ園に入った途端、ルーシーがゴブリンの隊列を抜け出して、その大きな身を隠していたマントさえも脱ぎ捨てた。


 まばゆいウロコの反射光に誘われるように、一匹の緑色をしたウロコ蛇が温室から出てきた。


 「ル……ルーシー!!!」


 「お兄様!!!」


 離れ離れになった二匹は、ようやく感動の再会を迎えることができた。

 私的には、ルーシーの大きな体に押しつぶされそうになるフェルが心配な気もしたが、その心配は不要だった。


 「よう、フェル。元気にしてたか?」


 「リリス様! それに、チュチュ様! お久しぶりでございます。お二人ともご無事で何より。それと、妹を……お約束を覚えていただき、なんとお礼を申し上げれば良いことか……!」


 「当たり前だろ、約束したんだから。それより、ルーシーの話、いろいろ聞いてやれ」


 「は、はい! 皆様も、立ち話も何ですのでどうぞこちらに」


 突然の訪問にもかかわらず、フェルはコブリン兵を含むみんなを手厚くもてなし、あのパンケーキを焼いてくれた。


 話すことはいろいろある。

 ルーシーは抜け出したのではなく、連れ去られたこと。

 西の塔に監禁されたこと。

 フェルは心配するかもしれないから、私は黙っていてもいいんじゃねぇかとも思ったが、ルーシーがゴブリンの子供を授けられようと実験台にされたこと。

 それから助かったあとのことも、ルーシーはフェルに全てを話した。


 「そうだったのか、ルーシー。大変だったというのに私は兄として何もできずにいた。本当に、すまない」


 「やめて、お兄様。兄様は何もしてなかったわけではありませんわ。兄様は私を信じてこの場所でずっと待っていてくれた。そうじゃないの?」


 「そうだぜ、フェル。それからお前は私たちにルーシーを託してくれた。先祖の罪も何もかも話してくれたし、それって凄い勇気がいることなんだぜ?」


 「ルーシー、リリス様……ありがとうございます。こんな不甲斐ない私をそのように言ってくださるとは……」


 「だからやめろって。それより、兄妹ひさびさに再会したんだ。積もる話もあるだろうから、私たちはフェルのガーデンを散策しにちょっと出るとするよ」


 「でしたら先にベッドを整えましょう。今夜はもう遅いですから、皆様ここにお泊りください。

 ルーシー、手伝ってくれるね?」


 「もちろんですわ、お兄様!」




 気前も気立てもいいやつだ。

 私たちは魔獣よけの鉢植え配置をフェルに教えてもらい、ゴブリン兵達はすぐに眠りにつき、年寄り(長老)もすぐに大いびきをかいて眠りについた。

 シヴァは丸まったクマの毛皮の中に入り、クマとなにやら楽しそうに話している。


 私はさっきも言ったとおり、フェルのバラ園を散策していた。


 バラって、赤と白だけじゃねぇんだな。

 黄色やピンク、それに模様があるやつまで様々だ。


 月明かりに照らされたバラは、夜の闇の中で淡く光を放つように浮かび上がって見える。

 それと同時にバラ特有の、甘く上品な香りが立ちのぼる。


 と、この香りで思い出した。

 そういえば私、ロリモンスターにキスしたんだった!

 ってことは……


 ポケットから冒険者カードを取り出す。


【ユリ・リリス】

 女 12歳

 LV10

 魔法適性:火・闇

 体力:60/60

 魔力:100/100

 筋力:105

 敏捷:160

 物防:150

 免疫:950

 魔耐:5

 幸運:1

 スキル:【『女嫌い』『バスト(AAA)』『器用』『温度操作(2)』『ドレインタッチ(2)』『ツタ渡り』『ファイアーサークル(1)』】

 このスキルを習得しますか?

 《女嫌いの盾使い》

チーム所持金:500コレイ




 「おお! バストがAAAになってる!!」


 色々ありすぎて、確認するのを忘れていたが、そもそもの私の目的はコレだ!

 AAAの文字と同時に自分の手で胸の感触を確かめてみる。


 「おおお! 平らだぁぁぁ!!」


 何度も手のひらを上から下へ、下から上へとスライドさせても障害物は見当たらない。

 それもそのはず! 私の胸はいま、AAAの輝かしい称号を得ているのだから!


 「ひゃっほー! どーだ見たかっ、鬼死女神コレー! これが私の実力だぁぁっ!」


 少し欠けた月が、呆れたように闇夜の空に浮かんでいる。それもまた間抜けで愉快だ。


 「あとはこれをキープしたいところだな。

 自力でできれば一番いいんだが、一個ロリモンコンプリートしたからそういう特典スキルで、自力バスト消失っ! とかねぇのかなぁー」


 こころからの願望を、月の向こう側にいるであろうコレーに聞こえるように口に出す。

 まっ、あの鬼死女神がそんなボーナスくれるわけないことは分かっているのだが。


 「リリス」


 あいつが私に付けた特典はマイナス特典だし。


 「なんだよチュチュかよ。今私はロリモンとのキスという最大の試練を乗り越え手にした栄光を噛み締めているところなんだ。邪魔してくれるな」


 しばらくAAAなんだ。これでまた私はしばらくチュチュの呪縛から開放される。


 「リリス、」


 邪魔してくれるなと言ったのに、私に近寄るチュチュ。

 そして、


 「……ちょっ!」


 警戒はしていたのに、予想以上に強引な力でチュチュは私の唇を奪いに来た。


 あっぶねー。あと少しでキスされちまうとこだった。


 「ま、まだいいだろ!? まだ大丈夫だから。今日はキスは無しだっ」


 チュチュから距離をとろうと後ずさりするが、チュチュは更に私と距離を詰める。


 「リリス、シヴァたんとキスした」


 「……だ、だからなんだよ? 仕方ねぇだろ。呪いもあるし、シヴァの力を解放するのに必要だったんだよ」


 「それはいい。チュチュにできない事をシヴァたんがやってくれたんだから」


 チュチュにできないこと。

 それは呪いの解放と、あの場ではチュチュを助けること。

 私がシヴァとキスすることで解放されたシヴァの力でチュチュとルーシーは助かった。それは紛れもない事実だ。


 「リリス、」


 吸い込まれそうなほど澄んだ水色の瞳には、星明りが映っている。

 その淡い光から一瞬、目を離せなくなった私は、油断していたんだと思う。


 「……んんっ、」


 チュチュはそんな私のスキを突いて、唇を重ねた。


 「ごめんね、リリス」


 唇を重ねながら、チュチュはそう呟いた。


 ごめんねって、どういう意味だよ……

 そんなこと言われちまったら……


 次第にぼーっとする意識。

 チュチュの香り、チュチュの味、チュチュの感触が私を微睡みの中へ誘っていく。


 バラに囲まれた神秘的な空間で私たちは体を重ね、眠ることも忘れて、何度も何度も唇を重ねた。


そろそろハロウィンですね!

ハロウィン特別企画、コラボ作品も仕上げにかかっております♪



ここで少しタネ明かし?というか、ネーミングのことについて。


ヘルガーデンの命を支えるりんごの実。それを食べるよう冒険者をそそのかしたフェルとルーシーの先祖。

このモチーフは、皆さんご存知アダムとイブのエデンの園。

そして、そのヘビは悪魔だったという伝承もあり、その悪魔の名として最も有力な説は大悪魔ルシフェル。(余談ですがディズニーのシンデレラに出てくるあのブサ猫もその名前でしたね!)

さてここで、百合ロリの二匹のウロコ蛇の名前を見ますと、ルーシーとフェル。ルーシー、フェル、ルーシーフェル、ルシフェル。

とまぁ、仁娯なりの工夫です(笑)

ちなみに、ルーシーの屁理屈、「私は第一フロアの外へ一歩も足を踏み入れていない。なぜなら私には足が無いのだから。ご先祖様が痛みながら私達の罪を切り落としてくれたのです」というのも、エデンの園のヘビは、神を怒らせて鱗を剥がれて足を切り落とされたという伝承に基づいています。

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