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壊して罰して降参!


 巨大化する灼熱の太陽。

 チュチュのガラスケースへ刻一刻と迫り、ガラスがグラッと溶け出した。


 「今だ!」


 私は柔らかくなったガラスに思いっきり手を突っ込み、足場が溶けると同時にチュチュの腕を掴み、を引っ張り出した。


 落下し、床に叩きつけられる時にチュチュの体を強く引き寄せ抱きしめる。


 「っ……シヴァ!」


 私が顔を上げる頃には、太陽はルーシーのガラスケースも溶かし、操り人形の糸が切れるようにしてルーシーが大量の水と共に流れ出てきた。


 水は太陽の熱によって一瞬で気化し、水蒸気が立ち込める。


 「そのまま研究所をブッ壊せぇぇぇ!!!」




 太陽は投げられた。


 ものすごい爆風に私たちは吹き飛ばされ、私の意識も吹き飛んだ。



 ──



 んん……

 私、死んだのか?

 いや、


 「……はっ、イテッ」

 

 そこは、見覚えのあるベッドの上だった。

 天蓋付きの、大きなベッド。

 ここは、ゴブリン屋敷だ。


 「チュチュ!」


 チュチュの姿が見当たらない。

 私は、包帯だらけの体に鞭打って、ベッドから這い出した。

 すると、部屋の扉が開き、赤とピンクの頭、続いてオレンジと黄色が入ってきた。


 「あ! お連れ様が起きてるよ、セプト!」


 「キッキィー!」


 わーいわーいとはしゃぎながら、ベッドの周りをくるくる駆け回るセプトとユィ。


 「もう起きて大丈夫なのですか? あまり無理はなさらないように」


 「キ、キキキキィキィキキキイキキキキキキキキキ!」


 「こんなこと言ってますが、サンクは一番心配して何度も何度も部屋を訪れて……い、痛いですよサンク」


 スィスをポカポカ殴って口止めするサンク。


 あんなことがあった後なのに、いつもどおり平和なゴブリンたちを見ていると、心が和んだ。


 「そうだお前ら、チュチュ知らねぇか!? それから、シヴァと、長老と、ルーシーと、クマも……」


 「それならご心配に及びません。まずは父上の元へ、ご案内しますよ」



 セプトとユィに手を引かれ、長老の部屋へ通された私。

 校長室を思わせる部屋の中は、アンの作った香水のいい匂いがした。


 「おぉ、来たか」


 長老は、ツタで編んだ大きな椅子に深く腰掛け、私を正面の椅子に座るよう指で促した。

 私がそこに座ると、長老は話し始める。


 「リリス、すまなんだ。儂はお前さん達をひどい目に合わせた。醜態も晒した。許してくれとは言わん。じゃが、儂は……どうすれば良い?」


 長老がしてきたことは、いくら操られていたとはいえ、許されることではない。


 「そうだな、だったら、」


 だったら私は、こいつにそれなりの罰を与える権利がある。


 「これからはあいつらともっと一緒にいてやれ」


 「……はっ?」


 ポカンとする長老に、ニヒッと笑いかける。


 「聞こえなかったのか? ったく、老いぼれだなぁ。

 これからは、もっと、ゴブリン10兄弟姉妹たちと一緒の時間を作れ。

 それが、私が長老に課する罰だ」


 もうこれ以上は何も望まない。

 それさえ守ってくれれば、この先長老が操られることも無くなるだろう。


 「うっ……ありがとう、ありがとうリリス……」


 年甲斐にもなく乾いた顔を涙で濡らす長老。

 これからは、立派な父親になれよ。


 「それはそうと、あの後どうなったんだ? 他の二人と一匹はどうなった?」


 「あの爆風で吹き飛ばされた儂らじゃが、その後わが兵たちによってこの屋敷に運ばれ、治療を受けた。他の者も無事じゃ。なんて言ったって、儂の自慢の子供たちが交代で看病したんじゃからのう!」


 ニシッ、とガタガタの歯を見せつけて笑う長老。ナイススマイルだぜ。


 「けど、チュチュは骨とかバキバキだったろ? あぁ、シヴァもきっとそうだ。あいつら、ガリガリだからよ」


 「メシア様……チュチュはリリスが然と抱きしめておったゆえ、目立った外傷はゼロじゃ。

 シヴァはクマこうが守ったらしい。かく言う儂も、あのクマに守られた」


 クマ、すげぇな。


 「じゃから今回の件で一番深手を負ったのはお前さんじゃ。

 なんせ丸3日も眠り続けたんじゃからのう」


 丸3日!?

 そりゃ腰も痛いわけだ。


 「んで、そのチュチュ達は今どこに?」


 「ああ、それなら子らと共に庭で遊んでおるじゃろう。

 それにしても、チュチュとシヴァはよう似ておるのぉ。まるで姉妹のようじゃ」


 姉妹のようじゃ、じゃなくて姉妹なんだけどな。


 「そうか。だったら私も顔を出そうかな。と、その前に長老に一つききたいことがある」


 「なんじゃ? この賢き脳細胞を持つ儂にききたいことというのは?」


 ジョークなのか、素なのか、まぁどっちでもいい。

 あと、このヘルガーデンで私がやり残したことはただ一つ。


 「実は私たち、ある依頼を受けてこのヘルガーデンにやって来たんだけど、その依頼ってのが、ヘルガーデン迷宮、最奥のブドウを1房採取してきてほしいって依頼だったんだけどよ、長老知ってるか?」


 「おぉ、それなら知っておる。

 この迷宮が、ある一つの果実が落ちることで迷宮全体の生命エネルギーを供給していることは知っておるな?」


 「ああ、フェルから聞いた。

 って、まさかその果実が!?」


 年に一度しか実が成らないくせに、この迷宮には無くてはならない禁断の果実。それをもし採ってこいって依頼だったら……


 「いや、その果実はリンゴなのじゃ」


 「な、なんだ脅かすなよな。

 んで、それがどうした?」


 「うむ、その隣にブドウの木があるのじゃ。そいつも年に一度しか成らぬ貴重なもので、その神聖さゆえ誰も手は出さんが、お前さんたちなら採って行っても誰も文句は言うまい。特にコレと言って必要性も感じぬゆえ、好きに持っていけ」


 神聖なくせして必要性を感じないからやるとか、扱い雑いな。


 「そうか、なら後で採取に行ってくる。長老、世話かけたな」


 「世話ついでに、お主らの荷物は兵たちに回収させて部屋に置いてあるから、忘れぬようにと言っておこう。さ、お前の連れが待っておる。早う行ってやれ」


 「おう」


 チュチュたちの待つ庭へ向かうべく、私はゴブリンの長、ゴブリン10兄弟姉妹たちの父親の部屋をあとにした。






 「あっ! お連れ様おかえりー!」


 「キキキキィー!」


 庭には、さっきのチビゴブリン四人、クマ、それからルーシーは昼寝をしている。

 けど、チュチュとシヴァの姿が見当たらない。


 「おぅ、ユィ、セプト。ってかお前ら、いつまで私のことをお連れ様って呼ぶんだよ?

 私のことは、リリス様と呼べっ!」


 「えー、様はいらないよぉー。ねー、セプト」


 「キー!」


 「リッリッスー! リッリッスー! リッリッスー! リッリッスー!」


 「キッキッキー! キッキッキー! キッキッキー! キッキッキー!」


 私の冗談にケラケラ笑ってくれるユィとセプト。

 お連れ様って呼んでるときは様をつけてくれていたのに、名前呼びの時は様つけねぇのかよっ!

 まぁいいけどさ。その、リリス音頭みたいな三拍子は恥ずかしいからやめろっ。


 「んで、お前らの親父にチュチュたちがここにいるって聞いたんだけど?」


 「二人なら今、かくれんぼの最中でして、サンクと私が鬼なんですけどこれがなかなか見つからないんですよ。

 サンク、どうですか?」


 「キィー……」


 残念そうに首を横に振るサンク。茂みをかき分けたのか、自慢のツインテールが木の葉まみれだ。


 「サンク、リリスが来たことですし、降参といたしましょう」


 「キィ……」


 降参という言葉に反応し、明らかに嫌そうな顔をするサンク。きっと負けず嫌いなのだろう。

 負けず嫌いです! って顔に書いてある。


 「それではリリスに二人を呼んでもらいましょう。よろしいですか?」


 なぜか降参宣言を私にやらせるスィス。

 案外、こいつも負けず嫌いなのかもしれない。


 「あぁ。

 ……チュチュ、シヴァ、降参だとよ。出てこーい」


 パサッと上から木の葉と花が落ち、同時にチュチュとシヴァがフワリと降りてきた。


 「リリス!」


 地に足がついたかと思った瞬間、チュチュは駆け出し、私の胸に飛び込んできた。


 「お、おい! いきなり抱きつくなっ。必要以上にベタベタするなっ!」


 びっくりしたが、チュチュを剥がす。

 弱っちいチュチュは抵抗するも、簡単に私に剥がされる。


 「ってかお前ら、一緒の所に隠れてたのかよ? ほぼ初対面だろ?」


 コクリと頷くチュチュ。


 「あ、あのね? ボ、ボク、この子といるとちょっと落ち着くっていうか……」


 そりゃ姉妹効果ってやつなのか? シヴァが落ち着いてくれるならそれに越したことはない。魔力も精神も、暴走されたら厄介だからな。


 「リリス、シヴァたん連れて帰ろ」


 「し、シヴァたん? えっ、コイツ連れて帰るのか!?」


 またまた頷くだけのチュチュ。

 まるで有無も言わさず決定とでも言うように。

 シヴァも初めて聞いたのか、チュチュと私を交互に見てはアタフタしている。

 そこに、チュチュが耳打ちでシヴァに何か言っている。


 「えっと、」


 なんかシヴァが言おうとしている。


 「よ、よろしくお願いします。

 ……リ、リリス」


 そうか、チュチュはシヴァに頼むってことを教えていたのか。

 それと、私の名前も……


 「あー、まぁ私に近寄らなければ連れて帰ってやらないこともない。ここにいても、迷惑かけるだけだしな。それにお前は戦力になる。治癒魔法だって、これから特訓させるからな、覚悟しておけよ!」


 「リリスは素直じゃない」


 「おいチュチュ、それどーゆー意味だ!?」

 

 私に対して知らんぷりを決め込むチュチュは、シヴァの頭を撫でている。

 シヴァはまるでネコのようにチュチュに身を寄せ、仲がいいと言うより、懐いている。



 ゴゴッと、巨大な何かが動く音がして、見上げると、白くて太陽の光を七色に反射させる細長い胴体と、スッと鼻筋の通った頭が空にのぼった。


 「んんっー……あら? 二人は見つかりましたの?」


 昼寝をしていたルーシーのお目覚めだ。


ヘルガーデンも山は超えました!

ヘルガーデン編の後、お待たせしております!スペシャルコラボを挿入&短編でハロウィン企画として出させていただく予定です☆*

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