謎の男。
あの愉快なゴブリン10兄弟姉妹の姿はこんな言葉じゃあ言い切れていない。10人10色とはよく言ったもので、白色と黒、水色、青、橙色、黄、赤、ピンク色、緑色、黄緑。どれも私の大好きな色だ。
「長老、お前はしっかりあの兄弟姉妹たちのことを見ていたか?
見てないだろ? 長老としての仕事で忙しいとか言って、それは分かるけどさ、けどあいつら、それでもあんたのこと大好きで尊敬してるって言い切ったんだぞ!」
長老の胸ぐらを掴む。
私の言葉を一つ一つ、長老のカラッポの頭の中に詰め込んでやるように。
ただ一つの傑作を求め続け、いくつも産み出した最高傑作たちに気がつけなかった、愚かな頭に叩き込む。
「儂は……何ということを……」
長老の胸ぐらを掴む私の手首に、ポタポタと水滴が落ちた。
ようやく分かったようだな、この愚か者が……
「長老よ、」
すると、研究所の方から、白衣をたなびかせた人間の男が颯爽と歩いてきた。誰だコイツ?
「惑わされるでない。お前にはまだやってもらうことがある。
研究は、今しがた始まったのだから」
始まった、だと?
「何言ってんだ、ってか、誰だお前?」
「これはこれは、貴方がお連れ様ですね。
ここまでご苦労様でした、もう帰っていいですよ」
ほんと、何言ってやがるこいつは? ってか、私の質問に答えろ!
「もうやめじゃ、ドクター。儂はもう、賢きゴブリンなど要らん。儂は、今いる宝を大事にしたいんじゃ」
「貴方の気持ちなんて関係がないのですよ。そもそも、私は貴方の傑作ゴブリンとやらには微塵も興味がない。だから先程、研究所のスイッチを押させてもらいました。間もなくエネルギーがたまり、装置が発動するでしょう」
「装置? なんの装置だ!? 長老!」
私の知らない話がどんどん進んでいく。
嫌な予感しかしねぇ。
「おっと、長老が思われている装置の性能と実際は違いますよ。私が改造させてもらいましたから。さきほど長老がおっしゃられていた、復活の儀式。まさしくその通りですよ。何が起こるか分からないですから、命が惜しければ貴方達も早くこの場所から立ち去りなさい。では」
「では……っじゃねぇ! 待て!」
私がそいつに手を伸ばしたが、そいつはスッと消えてしまった。
「長老、今のやつ誰なんだ?」
「彼はドクター。そうとしか儂は知らん。幼女が現れた数ヶ月後に儂らのところへやって来て、儂に賢きゴブリンを作るプランを提案してきた。儂はその誘いに乗り、ドクターと共に研究を進めてきただけじゃ。
今考えれば、なぜ儂はあのような得体の知れない男の提案に安安と乗ったのか……儂は狂っていた」
長老の下等ゴブリンを見下す心は昔からあったに違いない。けれど、やっぱり長老は催眠術か何かにかけられていたんだと思う。
他人を見下す心を増幅させ、狂わせていた。
他人を見下す心が生まれるのは仕方ない。それよりも、その人のすごいところを見つけて、その気持ちを小さく、小さく、そして消していくことが大事なんだ。
「あぁ、きっとあいつはヤバイやつだ。だからきっと、長老達は操られていたんだと思う。
それより、あいつがいったい何を発動させたのか、確かめなくちゃならねぇ。長老、それからシヴァ、研究所へ急ぐぞ!」
「えっ、ぼ、ボクも?」
「ったりめーだ! 誰の姉妹が捕まってると思ってんだよ」
「わ、儂を許してくれるのか……こんな酷い事をしてしもうた、愚かな儂を……おお、お連れ様、いや、えっと、名前はなんじゃったかの? この年になると人の名前が覚えられんで」
「ああもう! 今はそんなこといいから! それから私はユリ・リリス! そんで私の連れが、リップ・チュチュ! 分かったら行くぞ!」
私達は、チュチュとルーシーが囚われた、研究所へ急いだ。




