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ミズタマ戦恨み


 真っ暗だ。

 私、死んだのか?

 体中のあちこちが痛い。


 これで死ぬのも2度目か……ははっ、この勢いで100万回死んでみようか。

 それは嫌だな、痛いし苦しいし怖いし。

 それもそのうち慣れるのかな、そんな事に慣れたくねぇなー。

 やっぱ死にたくねーよー。





 「……リ……」


 ……この声……


 「……リス」


 ……あぁ、あの時と同じだ……


 「リリス!」


 真っ暗だった私の世界に光が差し込んだ。

 

 「リリス、リリス!」


 「チュ、チュ……」


 私は、崩れた崖の影に埋もれてしまっていたらしい。

 チュチュが私を引っ張りあげようとするが、筋力5のチュチュにそれを成し遂げる力は無い。

 寧ろ、弱い力でこねくり回されるように引っ張られ続けて痛いくらいだ。

 

 だが私は待った。

 全身が痛くて、自力で脱出するのが億劫だったというのもあるが、チュチュが私を助けようと必死だったからだ。

 相変わらず無表情ではあるが、私の腕を引っ張る強さからはしっかりとそこに感情があった。


 いつも感情の無いチュチュが行動で見せた感情。

 私はそれを大切にしたいと思ったのだ。


 だから私は、その感情がなんなのか、答えを探しながらチュチュにされるがままでいた。


 真っ直ぐな水色の瞳。

 喰いしばる歯。

 震えている、抜けそうほど細い腕。

 ギリギリと踏ん張りを利かす折れそうなほど細い脚。


 こんなにもしっかりと、チュチュを見るのは初めてだった。

 女なんて、見たくもない私だから仕方のない事だが、なぜ今までこの少女がこんな姿だったのか気が付かなかったのだろうか。

 そして、チュチュの姿をしっかりと見たはずなのに、どうして私は今、チュチュから伝わってくる感情の正体がわからないのだろうか……


 答えが出せぬまま、私はほぼ自力で脱出していた。


 「ふぅ、マジ焦った。

 もう1回死ぬかと思ったぜ」


 そう言いながら立ち上がり、服に付いた砂を払おうとした時、私の薄手のワンピースが見るも無残に破けていることに気が付いた。


 おそらく、レーザービームの衝撃や岩に引っ掛けたり砂浜との摩擦で破れたのだろう。

 そして、今だから告白するが、あの鬼死女神はワンピース1着しか私に寄こさなかった。

 つまり、私は下着を一切つけていなかった。

 まぁ、たけはそこそこあったし、胸も大きくなかったからそこまで気にしてはいなかったのだが、ワンピースがこうもビリビリになってしまうと裸同然だ。

 それに気が付き、顔が火を吹きそうになる。

 私は慌てて残った布で体を隠そうとした。

 が、これでは何もできない。


 「リリス、これ着て」


 「えっ……?」


 すると、チュチュが自分のワンピースを脱ぎ始めた。


 「ちょっ!?

 お前何やってんだ!ばか!」


 私は思いっきりチュチュに背を向けてチュチュの裸を見ないようにする。

 

 「ばかじゃねーの!?

 女の裸なんか見たくねえってーの!

 早く服を着ろ!」


 しかしチュチュは私の首にワンピースを通してきた。


 「リリス、大丈夫」


 「やめろって!

 何が大丈夫なんだよ、全然大丈夫じゃn……」


 チュチュが私の腕を掴んできた。

 そしてそのまま私の手のひらに何かを押し当ててきた。


 ──ふにっ



 薄い弾力のあるスポンジを押したような感覚とともに、レース布の感触。

 これは……?




挿絵(By みてみん)



 恐る恐るチュチュの方に視線を向けると、下着姿のチュチュが私を真っ直ぐ見つめていた。


 「お前、なんで下着きてんだよ!?」


 「ん?」


 「ん?、じゃなくて!

 いつから下着を着けていたかって聞いてんだよっ!」


 我ながら、なんとも不可思議な質問をしていると後から思った。

 そして、この答えも自分の中に既にあった。


 「はじめから」


 そして、チュチュのその一言で、自分の中の答えが正しいことが証明された。


 「あんの変態鬼死女神ぃぃぃい!」


 私の下着がないのは、間違いなくあのコレーとかいう変態鬼死女神の仕業だ。

 女好きのあの変態が、女嫌いの私へ嫌がらせでやったに違いない。

 その証拠に、チュチュにはブラもパンツもしっかりと着用させていたのだから。

 私の中の怒りがむらむらと沸き上がってくる。


 「ぜってぇ殴る!

 もう1発じゃ足りねぇ、100発だ!

 あの変態鬼死女神に必ずこの手で……」


 私が、怒りから拳を力強く握りしめた時、チュチュに押し当てられた方の手のひらにあるモノをギュっと掴んでしまった。


 「あっ……」


 「リリス、痛い」


 私は慌てて手を離し、再び背を向けると、チュチュのパステルブルーのワンピースに腕を通した。

 チュチュの薄い胸から伝わってくる鼓動と体温が、まだ手のひらに残っているようだった。


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