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引きこもりを引っ張り出したはいいが…


 「はぁ…はぁ…はぁ……」


 やっと辿り着いた、ヘルガーデン最奥の入り口。

 そこは木の幹が複雑に絡み合い、訪問者を1歩たりとも先へは進ませない、閉ざされた空間。


 にしても、これだけの木を瞬時に操って壁を作り上げるなんて、いったいどんな魔力量と使い方してるんだよっ。

 軽くラピュタだな。


 っと、それはそうと研究室は……あれか!


 壁状になった木の幹に視線を沿わせていくと、向こうの方に比較的新しい、白くて大きな西の塔に似た建物が見えた。


 あの中にルーシーとチュチュが……

 長老達が来る前に何とかしなくては。

 私がすべき事、まずは戦力の確保だ。

 それには……


 「おいっ! 聞こえるか!」


 私は豆だらけになった手で握りこぶしを作り、めいっぱいの力と声で木の壁の向こう側に向かって叫んだ。


 現状、私の味方をしてくれる可能性があるのは、この壁向こうにいるシヴァのみ。

 一か八かの賭けだが、私の頭で思いつく選択肢はこれしかねぇ!


 「おいっ! 聞こえたら返事をしろ!」


 返事は無い。くそっ、邪魔な壁だ!


 「“炎の精霊 我の側に 具現化し 離れること無かれ”!!」


 私の体をぐるぐる回る3つの火の玉が現れた。

 ファイアーサークル。こんな弱っちい火の玉でも、一応は火だ。木の幹は燃やせなくとも、その隙間を埋めるようにビッチリ生えている草花くらいは燃やせるだろう。

 

 そう考えた私は、火の玉を出現させたまま木の壁に体当たり。


 ボッ、と小さな植物に火がついた。

 よしっ、そのまま穴を開けてくれれば、声が届くはずだ!


 「返事をしてくれ! 

 ったく、もっと勢いよく燃えないのかよこの火は!」


 火の回りを急かしたところで、変わりはないが気持ちの問題。

 もうすぐ追っ手がやってくる。

 あんまり叫んでもいられない。


 燃え尽きて灰になった植物。

 体当たりを続ける私。

 にしても、木の幹に体当たりをすると分かると思うが、表面がゴツゴツしているため相当痛い。

 衝撃で頭がクラクラする。


 「くっそぉ……えいっ!」


 勢いをつけ直して木の壁に突っ込んだその時、


 「ブワッ!?」


 木の幹の間から、まるで湧き上がるようにして新たな花々が大量に咲いたため、そこに突っ込んだ私は花の海に埋もれてしまった。


 こ、これってシヴァの魔法だよな?

 ってことは……


 「聞こえてんじゃねぇーか!!

 聞こえたら返事をしろって言っただろォ!」


 切羽詰まってきた私は、めいっぱい、怒りを込めて叫んだ。


 そしたら、ヒッ……! と、小さな悲鳴が聞こえた気がした。


 声が聞こえただけでも成果!

 脈アリなら、続けない手はねぇ!


 「おいコラ!! いつまで引きニートしてやがるっ!

 こっちは今、主にお前のせいで大変なことになってるんだよ!

 責任取るためにさっさと出てこい!」


 「いたぞ! 捕まえろ!」


 やばい、追手だ。追いつかれた!

 追っ手が来るまで、あの距離だとタイムリミットは1分ってとこか?


 「早く出てこい! お前が最奥なんかに引き篭もってくれたおかげで私はここまで来るのにスッゲー苦労したんだぞ!

 胸はデカくなるし、チュチュにキスされなきゃなんねぇし、おまけに今、チュチュはお前の身代わりでエロ爺の子を産ませられるピンチに陥ってるんだよ!!」


 もう、何言ってんだかイマイチ分かんなくなってきたが、つまりそんだけ私も焦ってるってこと。


 「ちょ、ちょっと君が何を言ってるのか、僕には分からない」


 会話が成立した!!!

 ……って、


 「うぉいコラ! 何ドン引いてやがる!

 こっちは事実を言ってるんだからな!

 私を頭がおかしい子認定すんじゃねぇぞ!」


 「ヒィッ……き、きみは怖い人。

 怖い人には会いたくない……

 怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……」


 ああもう! お前のほうが怖いよ!!

 だったらまだ頭おかしい子認定して出てきてもらったほうが良かったよ!


 その時、


 「やべっ!」


 「追い詰めたぞ!」


 追っ手のゴブリンに追いつかれ、行く先木の壁しかない私は追い込まれてしまった。


 「頼む! お前の力が必要なんだ。お前にしか救えない! お前に救ってほしいんだ!」


 「捕らえろー!」


 駄目か!?


 「シヴァ!」


 ズドンッという爆音と同時に、木の壁がまるで竜巻に飲まれるようにして消えた。


 その風圧によって、追手たちは吹き飛ばされた。

 私は途中でなんとか地面に踏みとどまることができたが、


 「あの巨大な壁を一瞬で……

 いったいどんだけ破壊力のある攻撃魔法なんだよ……」


 そしてそのバカみたいな魔法を見せつけた超本人は、舞い上がった植物の残骸が落ち着くと、ようやくその姿を現した。


 挿絵(By みてみん)


 うすい青緑色の癖っ毛。

 長く伸びた前髪からかろうじて見える涙目。

 貧弱そうな体からは妖精の羽が……って、羽!?


 「今のは攻撃魔法じゃなくて、回復魔法なんだけど……」


 「今のが!? あぶねぇーよ!」

 

 っと、ツッコんでる場合じゃない。理由はわからんが、せっかく天岩戸が開いた……じゃなくて、破壊されたんだ。


 「だって、その、君がボクの木の作った壁で傷付いちゃったから……君が死んじゃう……ボクのせいだから、死んじゃ、ボクのせい、ボクの、ボクのボクの、ボクの……」


 「ストーップ!」


 事前に知ってはいたが、こりゃ重症だな……面倒くせぇ。


 「これはお前のせいじゃない、シヴァは悪くない。わかったか?」


 ああ、なんだか動物でも相手にしている気分。

 ドウドウドウ、さぁーいい子だ。

 いい子だから落ち着くんだ。ってね。


 「そ、そうだ、その、し、シヴァって、ボクのこと?」


 ん? ああそうか、コイツも一部記憶がないのか。

 けれど、シヴァという名前は、リヒトからの最後の贈り物。

 完全に記憶から消し去られることはなく、いま私によって呼び起こされて、それで真実を確かめるべく私が傷付いて死ぬ前に回復魔法を施そうとしたと。


 ……こんくらいの傷じゃあ死なねぇよ!

 むしろ、おまえの回復魔法で死ぬよ!


 「あぁ、そうだよ。

 シヴァ、それはお前の名前だ」


 私は記憶をなくしたシヴァに、名前を教えてやった。


 「そっか、ボク、シヴァ。ボク、シヴァ。ふふっ、フフフフフフ……」


 喜んでいるのか、薄ら笑いをするシヴァ。

 不気味だ。


 その時、森の中から神輿が現れた。

 そしてその頂点には長老が乗っていた。


 長老はまず、吹き飛ばされて目を回しているゴブリン達を見ると、ムッと眉をひそめたが、すぐにその表情は一変し、驚いて開いた口がふさがっていなかった。


 その視線の先は私……ではなく、隣のシヴァに向けられていた。


 「こ、これはあの時の幼女。

 お連れ様、いったいどんな罠で幼女を誘き寄せたのじゃ?」


 「えっ……! ボク、騙されたの?

 ってことは、君は悪者?

 や、やだ、やだやだ、悪者、怖い!」


 私から距離を取り、しゃがみこんでガタガタ震え、頭を抱えるシヴァ。


 「ちょっ、長老!

 そういう冗談はこいつの前では言うな! 見ろ、面倒くせーことになった!」


 「だーから言ったろうに。

 こやつ、相当病んどるんじゃとて。

 ゆえ儂がどんだけ苦労したことか……」


 あっ、その点については同感。

 お気持ちお察しいたします。


 長老と初めて気があった気がするなぁ。


 「うっ、うぅ……」


 「おいシヴァ、そろそろ落ち着けって」


 「悪者、怖い、嫌い、あっち行け、消えて!」


 ん? なんかやばい感じっすか?


 「君たち、悪者、排除するっ!」


 右指は長老を、左指は私を指し示すシヴァ。


 って、何ーーー!?

 なぜその指は私を指し示している!?


 「ま、まて! 話せばわかるっ!」


 「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 私がシヴァをなだめようとした時、シヴァは大きく体を旋回。

 すると地面から巻き上げるようにして薔薇の花が咲いた。


 私は危機感を覚え、飛び退いてシヴァから距離を取っていた。


 湧き上がった何千もの薔薇は、咲いた勢いのまま散り々になり、花びらが私たちを襲った。


 「くっ……! なんだこの花びら、まるでカッターナイフだっ!」


 私は慌てて盾で花びらを防ぐ。


 「チョウチョさん助けて!」


 シヴァが泣き叫ぶようにそう叫ぶと、ヘルガーデンのどこにいたのか、チョウチョの群れが一斉に私たちに襲いかかる。


 「まずい、皆のモノ、リンプンを吸い込な!」


 長老は早口にそう言い終えると、鼻と口をつまんで息を止め、目も瞑った。


 見るとチョウチョから、紫色のリンプンが大量に降り掛かってきた。


 どうやらチョウチョといっても、地球のチョウチョとは見た目こそ似てはいるが、そのリンプンは毒らしい。


 私も慌てて息を止め、目を瞑る。


 「うがぁっ!」


 体が締め付けられる感覚と刺すような痛み、に思わず目を開く。


 「いっ! 薔薇に拘束されたっ!」


 棘のある薔薇のツルに、体中をグルグル巻にされてきまった。

 やべぇ、動けねぇ! しかも痛え!

 このままじゃあ病み狂ったシヴァの独壇場。

 拘束された私、長老、長老の手下ゴブリン、そしてシヴァ……ん? シヴァ?


 「うぁっ、あれ? ちがうっ、ボクは違う、痛い、痛いよぉ……」


 ありゃー、自分の攻撃に掛かっちまってる。

 魔力コントロール能力低すぎるだろっ!


 って、ツッコんでも私の状況は変わらない。

 強いて言えば、シヴァの魔法が暴発してくれたおかげで、なかなか均衡の取れた戦場になったと言うことか?

 全く嬉しくないね! さっさとシヴァに落ち着いて降ろしてもらわなければ。


 「おい、シヴァ、多分だけどこの暴走はお前の精神状態のせいだ。お前の精神状態か不安定になればなるほど魔法が暴走している。だから、ちょっと、落ち着……け……んんっ!?」


 

 なんだこれ……頭がボーッとする。

 いい匂い。薔薇の香りか?

 強烈に鼻を突くような香り……こいつのせいなのか、体が熱い……


 んんっ!?


 「あっ、んんっ! き、気持ちいい……!」


挿絵のシヴァちゃんは、だいぶ前に描いたやつですね笑

最近描いたのは明日挿ませていただきますです!

どちらもシヴァちゃんですっ

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