キングの正体。
「第二フロアのキング、ありゃルーシーの細胞から作り上げた卵と、その辺のカエルを掛け合せた、儂の傑作じゃよ」
「はぁ!?」
まて、今なんて言った?
キングは長老が作った?
それも、ルーシーの細胞とカエルとで?
まてまてまて、地球でその技術はつい最近できたばかりだぞ。
私もよく知らないが、細胞から卵を作れる技術があるとか。
「じゃが……気づいたとは思うがキングはバカすぎる。あれはウロコヘビ、それにカエル以下じゃ。バカでは駄目なんじゃ。ゴブリンの賢さを失うことは許されん。
バカになる原因は何か?
儂はキングを、ルーシーの細胞とオスのカエルを使ったため、お腹の外でキングを作り上げた。それが原因ではないのかと考えた。
バカは移ると言うからな。外の汚らわしい魔獣達の気に当てられてバカになってしもうたのじゃろう。
ならば、今度はお腹の中で育ててみれば上手くいくはずじゃ。
まずはルーシーのお腹の中である程度、儂の子を育て、それから青緑色の幼女に移す。
そうすれば儂の賢さを保ちつつ、神聖な遺伝子を持った、魔力の強い最強のゴブリンが生まれるはずじゃ!!」
私は今の話の理屈は、半分も分からなかったが理論的には可能なのだろう。
だが、やっぱり納得はできねぇ。
これじゃあルーシーの気持ちも、シヴァの気持ちも全くの無視している。
命を弄んでやがる。
「それでもやっぱり、私はそんなやり方認めねぇ」
「ああ結構。頭の硬いお連れ様に認めてもらおうなどとは露ほども思っておらん」
頭が硬いのはどっちだよ。
強情にも己の願望を押し付けて、色んなものを冒涜して、こんな奴にこれ以上私はなんて言えばいい?
「けど、最奥に入れないなら、それはただの空想論」
長老の計画の問題点をズバリ指摘したチュチュ。
「そ、そうだ! シヴァは最奥に引きこもって出てこないんだろ?
何も諦められないあんたは、この問題を解決しないまま実行しないはずだ」
「ふんっ、もはやそんなの問題ではなくなったわい」
問題は無くなった?
一体どういう意味だ?
魔力も神聖さも、長老はどちらも手に入れなければ気が済まないだろう。
異常に魔力の高いシヴァを利用できないこの状況が問題でなくなった理由は……
「まさか!」
「おっと、お連れ様。そこを動くでないぞ?
儂が一人だと思ったなら大間違いじゃ」
長老が片手を上げて合図すると、西の塔の入り口から、長老に仕える武装したゴブリン達が、雪崩込んできた。
「くそっ、チュチュ逃げろ!」
逃げろと言ったがどこに?
入り口は武装したゴブリン達に塞がれている。
この西の塔の出入り口はそこしか無い。
パワーブースターを起動させて、この塔ごと破壊するか?
いや、そしたらここに繋がれているルーシーは瓦礫の下敷きになってしまう。
私が道を作るしかないっ。
「おっと、動くなと言うたじゃろ」
長老は、私がリュックに手を突っ込もうとした瞬間、壁に隠してあった魔術道具を発動させた。
地面が光り輝くが、何も起こらない。
なんだ? 不発か?
「これは魔力が高い者にしか効力を発揮せん。
儂がどうやってルーシーを儂の実験室に連れて行くと思うた?」
その言葉に焦った私は、後ろを振り返る。
見ると、白く輝くルーシーの巨体と、水色の光に包まれたチュチュが気を失って宙に浮かんでいた。
「チュチュ!!!」
目一杯腕を伸ばしたが、薄っすらとしか光らない私の手は、チュチュとルーシーが消えると同時に空気を掴んで、反動で私は地面に倒れ込んでしまった。