ドロップキック&クマさんパンツ!
──お連れ様、
ん……
──お連れ様ってば、起きてください。
んあ?
──ダメです、完全に泥酔です。まさかデザートのブランデーケーキで酔っ払われるとは。
その声は、スィスか。
そっか、私ってば寝ちまってたのか。
あー、頭いてぇ。まるで二日酔いみたいだ。酒なんか飲んだことないが、多分こんな感じなんだろうな。
けど、さすがに起きねぇとな。
「よっこらs……」
「キィィィィィィイイイ!」
ズバピョーーーン!
仰向けになったまま、目を開いた私の視界に飛び込んできた光景は、オレンジ色のヒラヒラスカートの中に生息するクマさんだった。
「いってぇ! サンク、何しやがる!」
「キキィキキキキキキ。キィキキキキ!」
「起こしてあげたのよ。感謝しなさい! だ、そうです」
寝そべる私の体を、両脇から挟み込むようにして仁王立ちするサンク。
いや、ふんぞり返ってるところ悪いが、パンツ丸見えだぞ!
「あー、最悪の寝覚めだ。まるで本物のクマに襲われた気分だ」
クマというワードで、自分と私との位置関係にようやく気がついたサンクは、急に思い出したかのように橙色の皮膚を赤に近い、ピンクグレープフルーツの色に染める。
「キ、キキィーーー!」
そして、短い足で私の胸を踏み越えてスィスの後ろに隠れた。
「ば、バカぁーーー!
だ、そうですよ」
サンクの言葉を翻訳するスィス。
「うるっせぇ、バカはどっちだ! 自分からパンツを見せつけていたことに気が付かない方がバカだってーの!」
もともと寝覚めの悪い私。
さらに、お目覚め一発目がドロップキック&パンツ(略してドロパン)だった事で、機嫌の悪さマックスだ。
「キィキキキキキキキッキキキキキキキキキキ!」
「あんたがいつまで経っても起きないからでしょう!
だ、そうです」
「それとこれとは、なんの縁もゆかりもねぇじゃねぇか!
しかもクマさんパンツとか、どこの二次元嫁のタンスから引っ張り出して来たんだよ!」
「キィ!? キキキキィキキキキキッキキキキ!」
「はぁ!? 何わけのわかんないこと言ってんのよ!
だ、そうです。この点については私も同感ですね。ちなみに私のパンツは……」
「あーあーあー! それ以上言うな! スィスは健全な男の娘でいてくれ!」
何を隠そう、スィスは男。
リボン付きのフードを被っていようが、まつ毛がクリンッと上を向いていようが、ネイルが鮮やかなピンク色だろうが、正真正銘スィスは男だっ!
女NG、BLもNGの私にとって、男の娘は二次元嫁に次ぐマトモな存在なのだ!
数少ない私の中のまともな存在、男の娘。その貞操は守られるべき。よって、スィスの貞操はわたしが守るっ!
「はて。仰る意味が少々不可解ですが、それは今に始まったことではないので、いちいち気にしないことに致しましょう」
「さり気なくもなく酷いぞ!」
「そんなことより、父上が動きましたよ」
はっ、として辺りを見回す。
泥酔したと思われた私は、チュチュと借りている部屋のベッドに寝かされている。
そして、全く気が付かなかったが、私の隣でチュチュが爆睡している。
「おい、チュチュ起きろ」
私がチュチュを揺すり起こすと、チュチュはぼんやりと目を開け、体を起こした。
寝ぼけ眼をこすり、小さなあくびを一つ。
「おはよ。リリス」
「おはよ、じゃねぇよ。
……ん? 待て。サンクはなんで私だけにドロパンを食らわせたんだ?」
「キキキキキッ!」
「当然よ!
だ、そうです。」
まぁ、チュチュにパンツはともかく、ドロップキックなんか食らわせたら、パキンッと真っ二つに折れちまうこと間違いないからな。ある意味正しい判断だ。
だからって、私には喰らわせていい理由にはならない!
「まぁ、今は納得しといてやる。それで、長老は今どうしてる?」
長老が動いたということは、夕食会は終わったのだろう。
他のみんなは片付けをしている所、サンクとスィスはタイミングを見計らって抜け出し、私達のもとへやって来たといったところか。
だとしたら、時間はなさそうだ。
「もうそろそろ西の塔へ到着する頃かと。さあ、早速作戦実行といきましょう」
ポケットに隠していた水晶球を取り出し、ニヤリとするスィス。
サンクもやる気十分。
チュチュもぱっちり目を開いた。
「よし。んじゃ西の塔、開かずの魔獣の姿を拝んでやろうぜ!」