やっぱりこのネタ挟むのかよっ。
スィスの案内で屋敷の西側へやって来た私たち。
全体的に横に長いゴブリン屋敷の西側には、唯一と言っていい、縦に長い塔が禍々しい雰囲気を放ちながらそびえ立っている。
「まぁ、案内と言いましても特にこれと言って見るところはありません。
説明をしますと、この塔は高さこの屋敷の3階分、円筒の直径は例えるなら、第2フロアのキングがちょうど入るくらいでしょうね」
私たちは、塔の周りをグルっと一周してみた。
「なんか、他と比べて妙に頑丈に作られているみたいだし、窓も無いから中も見えない。中には一体なにがあるんだ?
トロワは“開かずの部屋の猛獣”とか言ってたが、この塔が“開かずの部屋”を指すなら、中には“猛獣”がいるということになるが」
猛獣という割には、雄叫びのようなものも聞こえないし、中で暴れている様子もない。
「“猛獣”かどうかは知りませんが、半年ほど前に父上が捕まえたそうで、早々にこの塔の中へ閉じ込めてしまったのです。
以降は父上自らが餌やりをし、管理しているようで、私たちは愚か、召使の方々も、他の戦闘員の方々も、一部を除いて誰も“猛獣”の姿を見たことはありません」
「んじゃあ、なんで飼ってるんだ?
“猛獣”呼ばわりされるくらいなんだから、よっぽど扱い難い怪物なんだろ?」
「その点についてはなんとも言えませんねぇ。
気になるのなら、メシア様の魔法でこの塔をブッ壊してみてはいかがでしょう?」
確かに、チュチュの“雷鳴”を使えば、これくらいの塔は倒壊できるだろうが、そこまでするような事ではない。
「いや、流石にそれはアウトだr……」
「“イカズチの子よ 我ここn……」
「ストーーーーップッ!」
チュチュがスィスの言うことを真に受けて“雷鳴”を仕込みだすもんだから、私が慌てて止めに入った。
「スィス、チュチュの前で冗談はナシだ……」
「いえ、私はいつだって本気も本気、真面目も大真面目ですよ」
黄色い大きな目がニコニコと、冗談か本気か全く読み取れない表情でなにやらフザケた事をほざいている。
「けど、ここまで来て中が見られないというのも癪ですねぇ。
中を覗き見るチャンスがあるとすれば、父上が餌をやるために大扉についた小扉を開く時なのですが、それもなかなか難しいかもしれませんねぇ。父上は忙しい方ですから、いつ餌をやりに来るか分かりませんし、それさえ分かれば手の打ちようもあるのですが」
「そうだなぁ……って、んん?」
と、ここでスィスの発言に疑問を持った。
「なぁスィス、長老の餌をやる時間が分かれば何とかなりそうなのか?」
「え?ええ。私はサンクの作った魔術道具で遊ぶのが趣味でしてね。
サンクの発明品の中に、特定した者と同じ光景を見る水晶球というのがあるんですけど、それがすごく短い時間で、しかも使いきりなんです。水晶球の制作にはおよそ1週間かかります」
なんとっ! そういやサンクは魔術研究家でもあったな。
けど、視界を共有するなんて高度そうな魔術だ。それなりに制限があるのだろう。
「そうだ! 上手くやれば長老の時間をコントロールできるかも知んないぞっ。
私ら、今度長老を食事に誘うだろ?
その時は少なからず長老は前後に時間の余裕を作るはずだ。
特に、終わりの時間を決めなければ食事後になっ!
とすれば、食事後すぐに餌をやりに来る可能性が高い。
そこを狙えば……!」
おお! と、スィスの口から歓声が上がる。
「お連れ様、なかなか冴えてますね。
私の占いでは、お連れ様は0点常習犯の運動音痴、絵心どころかその他あらゆる芸術の才能も無い。特技は射撃とあやとりと昼寝と出ていましたが、道具を使う時だけは冴えているのですね」
「私はのび○くんじゃねぇー!!!」