※スィスはオスです。
ふぅー。一件落着したら、ハラ減った。
今日の昼食に蛇の丸焼き追加だな。
蛇って旨いのだろうか?
しかも、ウロコ蛇……
うーん。食ってみればわかるか!
とは言ったものの、こんなに黒焦げじゃあ苦いだけだな。
やっぱやーめたっ。
普通に目の前のウマそうな料理をいただくとしよう!
「にしても、トロワは本当に強いよなー。あんなに強いなら、トロワはゴブリンの第一戦力だろ?」
ほむほむ。おっ、この肉うめぇ。
「んー、まぁゴブリンの中では強い方っすよ。けど、ゴブリンには他に隠し玉がありやしてね。ほむほむ。おっ、この肉うめぇ」
トロワが私と同じ肉を食った。
同じものを食べれば同じだけ強くなれれば、楽なもんだが。
「へぇー、隠し玉……」
「そうそう。さっきの稽古中、メシア様の“雷鳴”を隠すためにお連れ様が森でなにか見たって言いましたんで、あっしはてっきり、ソイツが出てきちまったのかと思いやしてね」
そういや、トロワはそんなこと言ってたな……
──まぁ、あの音は何かはわかりやせんが……それに段々凶暴化してきてる。森の木が倒されたりしてるみたいですし……まさか、開かずの部屋の猛獣が!? ちょっとあっしが見てきやすよ。
「その、開かずの部屋ってのは何なんだ? もしかして、この屋敷にある部屋とか言うんじゃないだろうな?」
「もちろん、そうでっせ?
ここの西側に、デッカイ扉のついた塔がありますでしょ?
3階分ブチ抜いてるやつ。あれっすよ」
そういや、ここの屋敷の西側はデッカイの円筒形の塔になっていた。
私たちが今いるのは屋敷の東側だから、西側は全然行ったことがなかったな。
「ご興味があるようでしたら、このあと私がご案内しましょうか?」
「うわぁ! スィス。いきなり足元から湧いて出てくるな!」
みんなで昼食をとっていたのに、どのタイミングでテーブルの下にもぐりこんだんだよ!?
急に出てくるからビックリしたじゃねぇか。
「おっと、これは失礼。で、どうされます?」
うーん、屋敷の西側か。
なんか、東側と違ってジメジメした雰囲気があったな。
お化け屋敷とまでは言わないが、単独じゃ近寄り難い雰囲気だ。
スィスが付いていてくれるのなら安心だろう。
なんかあった時はポケットから道具でも出してくれそうだしな!
と言うのはさておき、まだゴブリン10兄弟姉妹の中で実態が知れていないのはスィスだけだ。
この男はいったいどんな役割なんだろう?
「じゃあ、頼む」
「承りました」
承りながらスィスは私の皿の上にある木の実を2、3個つまんでムシャムシャした。
いや、別にいいけど自分の席に戻れよっ。
「そうだ、スィス」
と、声をかけたのはドゥ。
「巨大ケーキを作るのに巨大なキッチン用品がほしいんだ、発注お願いできるか?」
「巨大なキッチン用品ですね。承りました」
「キキー」
と、今度はアン。
「キーキキキキィ、キッキキキキキ〜」
「香水瓶ですね。承りました」
「あっ、あっしもこの前テミぶっ壊したんだった」
「トロ姉はテミですね。承りました」
「キー……キキキ、キキキキキキィ」
「カト兄は鉄ですね。承りました」
「キキキキ! キィキキキー!」
「サンクは牛皮ですね。承りました」
「ユィも藁がほしいのー!」
「キキキキキキキキ!」
「ユィとセプトは藁ですね。承りました」
「キィ…」
「分かっています。ナフは試薬ですね。あとで必要なものを一覧にしてください」
「スィス姉、僕も古い図鑑は読み終わったから新しいのほしい」
「ディスは図鑑っと。承りました」
なんだなんだなんだ?
みんなスィスにめちゃ頼んでるじゃねぇか。
なるほど、兄弟姉妹の得意を全て回しているのはスィスだったのかっ!
縁の下の力持ちスィス! だなっ!
「では、お洗濯とお裁縫ができ次第、発注しておきますよ」
……スィス、お前はきっと良いお嫁さんになる。