笑顔の力。
「ところでトロワはどうしてここに?」
「あっしだけじゃありませんぜ」
と、ちょうどその時森の方から、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。
「セプト! カト兄!」
青色ゴブリン、カトロが、赤色ゴブリン、セプトの手を引いてやって来た。
「カトロにセプトとユィを連れてくるように言って、あっしは屋敷に戻ったフリをさせてもらいやした。
お連れ様、もうちっと演技力を磨いたほうがいいでっせ?
あんなんじゃぁ牧場に何かあるってことはバレバレっすよ」
ケケっと笑うトロワ。
私は恥ずかしくて仕方ない……
「けど、あっしはユィの演技を見抜けなかった。
姉失格っすね」
途端に節目がちになるトロワ。
確かに、ユィが1年も前からいじめに遭っていたことにトロワを始め、兄姉たちは全員気がつくことができなかった。
だが、それはユィが必死の思いで隠し通してきたからだ。
自分一人で背負おうとしてきたからだ。
「ご、ごめんねトロ姉」
と、今度はユィがトロワに謝る。
──ガチョンっ!
「……!」
と、トロワがユィに軽くチョップを食らわせた。
ユィは驚いて目を丸くしている。
「全くだ。ユィ、よくもあっしを姉失格にしてくれたな?」
「そそ、そんなことないよ!
トロ姉は強いし、優しいし、ユィの自慢のおねえちゃんだよっ!」
慌てて弁護するユィ。
ふっ、とトロワが優しい顔になり、今度はユィの頭に軽く手を置いて撫でた。
「なら、もっとあっしらを頼れ。一人で抱え込むな」
な? と、トロワが笑うのとは対象的に、ユィは泣きそうな顔になる。
「でも、ユィはなんの取り柄もない。
アン姉みたいにセンス良くもないし、トロ姉みたいに強くもない。サン姉みたいに頭良くもないし、ナフみたいな技術もない。
だからせめて、ユィはみんなの迷惑にならないようにしなくちゃダメだから……」
自己嫌悪の歯止めが効かなくなりそうになる。
それを察したトロワは、ユィをそっと抱きしめた。
「バカだなあ。ユィはこんなに優しいし、頑張り屋さんじゃんか。
1年間ずっと1人で頑張ってきたんだろ? あっしら全員のために」
「うっ……」
「ありがとな、ユィ。 よく頑張ったな」
ポロっポロっ、とユィがその言葉をきっかけに涙を見せる。
そしてついには、ワッと声をあげて泣きじゃくってしまった。
「キキイ?」
カトロに手を引かれたセプトが泣きじゃくるユィを不思議そうに見つめる。
それから、カトロと目を合せて、カトロはセプトに頷きかけ、セプトの手をはなす。
セプトはゆっくりとユィに歩み寄り、ユィの後ろに立つと、気づいたトロワがユィの肩を叩き、顔を上げさせた。
ユィが振り返ると、そこには笑顔のセプトがいた。
「セプト?」
「キキキキキキッ!」
セプトは笑っている。
いつもの笑顔で、ユィと笑ったあの笑顔で笑っている。
「そうだね、ありがとう。
セプトが笑ってくれているからユィもまた笑えるよ」
「キキキキキキッ!」
「あはははははっ!」
セプトの笑顔は楽しさからくるものではないかもしれない。
けれど、ユィがセプトに笑ってほしいように、セプトもユィに笑ってほしいんだ。
笑顔は誰かを、そして自分を幸せにする。
気がつけば、そこにいる全員が優しい気持ちで満たされていた。
セプトとユィとのメイン絡みはここまで!




