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モウモウウシ傷害事件。


 「なんだ……これは」


 モウモウウシのいる小屋へ足を運んだ私たちは、そこで衝撃の光景を目の当たりにしていた。


 散らばった牧草、ぶちまけられた餌。

 ──モーミーモーミー

 モウモウウシと思われる鳴き声が喧しいくらいに響く。


 ここまでなら、どうとも思わない。


 だが、小屋の中はもっと悲惨な状態だった。


 各モウモウウシ同士を区切っている柵が解体され、熊手がへし折られ、そして……



 「ユィっ!」


 ゴブリンである方のユィが、1匹のモウモウウシに駆け寄った。


 おそらくそのモウモウウシが、ユィ。

 ユィと同じ名前のモウモウウシ。


 ユィと同じように元気いっぱいな姿を期待した私だったが、そいつは床に寝そべり、前片足は傷だらけ。残った足を空振りさせて歯痛な鳴き声をあげていた。


 「何が起こったんだ? ……と、とにかく誰か兄姉の誰かを……」


 「やめてっ!」


 ユィが叫んだ。

 いつも明るく笑うユィからは想像もつかない声音で、助けを呼びに行こうとする私をピシャリと制した。

 しかしすぐ、ハッとすると、ニッコリいつもの笑顔に戻り、笑った。


 「ごめんね、ちょっと柵の立て付けが悪かったの!いつも壊れちゃうんだぁー。 けど、今日はモウモウさん、怪我しちゃった。おにぃやおねぇには内緒にしてー、おねがーいっ」


 まるで、自分の失態を咎められたくなくて、事実をひた隠しにする子供のようにユィは私たちに頼んだ。


 「立て付け? そんな感じじゃねぇだろ……これは、誰かがわざとやったもんだろっ。誰だ!? ユィ、お前は知っているんだろ?」


 「あはははっ」


 なんで、なんで笑ってるんだよ?


 「キキキキキキッ」


 ユィの笑いにつられるように、私たちの隣にいるセプトも笑った。


 「お連れ様、ごめんね。モウモウさんのミルクはまた後でもいい?」


 「あ、ああ……」


 いいも何も、こんな状況でミルクなんか飲んでられるかよ。


 「じゃあー、ユィはちょっと証拠隠滅するから、お連れ様もメシア様も先に帰ってて! あと、ぜーったいこの事はみんなには内緒ねっ! やくそくっ!」


 ユィの明るさに圧されて何も言えなかった私たちは、無理やりそんな約束をさせられてしまい、一足先に屋敷に戻った。



 部屋へ戻った私たちは、夕食前にかいた汗を流すため、シャワーを借りていた。


 シャーッと、冷水を頭からかけ流し、しばらくそのままボーッとしてみる。


 家畜小屋は明らかに、誰かに荒らされていた。

 それも、柵を壊す力は無かったのか、柵を固定している紐が外してあったことから、猛獣の類がやったことではない。

 

 モウモウウシは傷つけられてはいたが、食われた形跡などは無かった。


 つまりこれは、誰かが牧場の管理をしているセプトとユィへの嫌がらせのためにやった事だと私は結論づけた。


 そう考えれば、ユィがその事を隠したがる理由もなんとなく分かる。


 自分がいじめられている事で、兄姉妹弟たちに心配をかけたくないのだろう。


 「なぁ、チュチュ」


 シャワーの水を首のあたりに当てながら、隣でコンディショナーを髪につけているチュチュに話しかける。


 「ユィは絶対誰にも言うなって言っていたけれど、それは正しい事なのだろうか……?」


 「ユィが言ってほしくないって」


 「そうだけどさ、ありゃーずっと解決せずに背負い込んでる奴の顔だった。誰かに助けを求められない奴の顔だった。

 けど、それじゃあ何も変わらない。それでいいと思うのか?」


 いいわけがない。

 私もチュチュも、そんな事は分かりきっていた。



 チュチュはコンディショナーを洗い流し、長くて細い髪をキュッと絞って水気を切ると、


 「誰かに助けを求められないのなら、気づいたチュチュたちが助けてあげればいい」


 「……」


 「チュチュたちがその誰かになるって選択肢がある」


 真っ直ぐな水色の瞳は、強い信念をもっている。


 「ったく、いつも無口でポーカーフェイスで、他人に興味ないような面してやがるくせに、心の内は人の何倍も他人に対して攻めの姿勢をとれるんだな、お前は」


 ははっ、と少し苦いものを噛んだ時のような笑顔を浮かべた私は、はーっと、自分の姿勢を改めた。


 「チュチュの言う通りだ。よぉーし! 私たちで犯人とっ捕まえて、セプトとユィを助けちまおうぜ!」


 コクリと、しっかり頷くチュチュ。


 「えいえいおー」


 ゆるい掛け声は相変わらずだが、クッと両手の拳を胸の前で握りしめ、気合のポーズ。

 唇もきゅっと結び、瞳はやる気に満ち溢れ……


 「……!!」


 やっべー! 思いっきりチュチュの方に顔を向けていた。

 無意識とはいえ、シャワー中なんだぞ!


 ってか、なに自然な流れで一緒にシャワーしてんだよ私は!!


 「リリス、」


 「なっ、なんだよ! 何も見てねーぞ!」


 「お世話、してあげる」


 ほへ?


 私が何か言う前に、いつの間にか背後に回り込んでいたチュチュは、石鹸をつけた両手を私の背中に当ててきた。


 「ヒャぃっ!! ちょっ、待て!」


 「前、チュチュは動けなくて溺れちゃった。けど、もう治ったから洗ってあげる」


 「そんなのいい! 自分で洗うから!」


 「チュチュにお世話させてくれる約束」


 うっ……こいつっ!

 

 私が前に、チュチュを大泣きさせた罪滅ぼしとして、私はチュチュの言うことを1つ何でもきくと約束をした。

 そして、チュチュが要求したのは私のお世話をしたいからさせてくれということだった。


 結局、私はそれを拒みきれず、相互にお世話しあうという結果に至り、今チュチュはその権限を行使してきたというわけだ。


 「ああもう! わかったよ! 背中だけだぞ?」


 背中だけ、背中だけだ。

 背中だけなら大人しく洗われてやろう。


 じゃあ遠慮無く。

 と、チュチュは私の背中にたっぷりの泡を乗せ、手の平で優しく円を描くようにしてきた。


 「……っ」


 うぅ……くすぐったいような、変な感じだ。

 早く終われぇ、早く終われぇ……


 「リリス、腕出しt……」

 「背中だけっつったろー!!」


 背中だけにとどまらず、私の腕まで洗おうとしてきたチュチュの言葉を遮り、私は超特急で自分で自分の腕と、前側と、足を洗った。



 「ど……どうだ、自分で洗ったほうが、早い、だろ……」


 汗を流すはずのシャワーでなぜか汗をかいてしまった。

 くっそー、また頭を洗い直さなければ。


 ふーん。と、つまらなさそうに鼻を鳴らすチュチュ。


 ふっ、勝ったな。


 「じゃあ、交代」


 ……ん?


 椅子に腰掛け私に背を向けるチュチュ。

 その背中は狭く、白く、痩せているため背骨がスッと真っ直ぐに伸びているのが分かる。


 肩越しにちらっと私を見てからじっと待つ。

 何をモタモタしているの?

 そんな視線を私に向ける。


「お世話は、しあいっこ」


 ねっ、と言わんばかりに首を傾ける。


 くっそぉぉ!


 「わかったよ! 背中だけだからなっ!」


 私は汗をかいてでもチュチュに背中を洗わせなくてよかったと、ホッとする反面、チュチュの背中を前に、再び変な汗をかいてしまい、苦悶の表情を浮かべるのだった。



東さんの、オススメ紹介にな、なんと!百合ロリを載せていただいたそうですっ!!

ありがとうございます!ヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。

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