歯ぎしりギシギシ。
「お連れ様ぁー、“ちゅちゅ”って名前のモウモウウシさんは、ここにはいないよー?」
「キキキキッ!」
だめだ。
もう追究しないでくれっ!
「リリス……」
俯き加減で小さく私の名前を呼ぶチュチュ。
もうそれは、“リリス”という私専用の金縛りの呪文のような効果を示していた。
まずい、まずいまずいまずいまずいまずいっ!
これはいくら何でもアウトなやつだ!
アカンやつだ!
どの子のおっぱい飲みたいのー?
って聞かれて「君のおっぱいさっ」なーんて馬鹿みたいに答えていいのはゲスい作家の女ったらしが爆発して具現化されたハーレム築いちゃった系ラノベ主人公だけだ!
……私はいったい何を言ってるんだ……
だがしかし!
私はそんなゲス野郎でも女ったらしでも無自覚にハーレム作ってしまっているラノベ主人公でもないっ!
心は野郎であるがゲスではない!
女連れではあるが女ったらしでもない!
無自覚にハーレムを築いちゃってナンダカンダで人生エンジョイしてるラノベ主人公でもなーいっ!
でもぉ〜、野郎で、いつも女連れで、それなりに人生エンジョイしちゃってるのは否定しないんだー。
なーんて思ったそこのヤローっ!
ちょっと顔かせ、戦争じゃコラァ!
……いや、いまはそんな悠長に戦争なんてしている場合ではない。
そもそも私は誰と戦争しようとしていたんだ!?
「リリス」
「はいぃぃ!」
「分かってた」
そう言って、なぜか私の頭を撫でるチュチュ。
その顔は、少し申し訳なさそうでもあり、何かを愛おしく思うようでもあった。
「分かってたって……なにが?」
チュチュに撫で撫でされながらも、思考を巡らせて言葉の真意を探る。
「セプトとユィ、モウモウの名前だって」
チュチュはいつも無表情で、何を考えているのか全く分からなかった。
チュチュはニコリとだってしたことが無い。
それなのに、どうしてあんなツララが垂れそうなほど冷たい視線は作れるんだ?
……ははっ、そんなのありかよ。
私はうなだれるしかなかった。
が、
「チュぅぅうチュううううーーー!!!!!」
チュチュの怒りが青なら、私の怒りは真っ赤なんだよぉーーー!!!
私の怒りが大爆発を起こす!
ガッと牙をむき、チュチュに威嚇する。
「……ぺろ」
チュチュはポーカーフェイスのまま、小さな舌だけぺろっと出した。
そんなんやっても許さんぞ!!
「あははははっ、セプトみてー! メシア様とお連れ様がにらめっこしてるよ!」
「キキキキキキィー!」
「ユィたちもやろー!」
後ろの方で、セプトとユィがにらめっこを始めた。
こっちの世界のにらめっこがどんなルールかは知らないが、お前ら二人とも一瞬で相討ちだぞ!?
だが、今私はお前たちに突っ込んでいる場合ではないっ!
「コラァ!チュチュハメやがったなっ! ええい許すまじっ! 私が一体どんな、どんな思いでぇぇえ!!!」
怒り心頭とは正にこのことだ!
歯ぎしりが止まらねぇ!
「リリス、歯並び悪くなるよ」
「今このタイミングでよくそこに注目したなッ!」
これはボケたのか!?
天然なのか!?
せっかくセプトとユィに突っ込むのを我慢したのに台無しじゃねぇか!
ええいっ、それよりそろそろ、撫で撫でやめろーっ! それも何だか台無しだー!
「ふんっ、いいもんねーだ!
もっとギシギシやってやる!」
自分で言って、なんだそりゃとも思ったが、やり場のないこの感情を私は自分の歯に当てることにした。
──ギシギシギシギシギシギシギシギシ
「リリス……」
と、ここでよーやくチュチュは私を撫で撫でする手をおろした。
歯ぎしりって、意外と効果があるのか?
「ぎしぎし、めっ」
──ッ!?




