怒りのチュチュ。
チュチュは家畜小屋の2つ隣、チーズ製造工場にいるというので、まずはそちらへ向かった。
チーズ工場に入ると、奥の方でチュチュが台の上に乗り、大鍋を覗き込んでいる姿が見えた。
「メシア様ー!」
「キキキキキィー!」
鍋の中身に夢中になっているチュチュに、ユィとセプトが駆け寄る。
二人の声に振り返り、私に気がついたチュチュは、2段しかない台を片足ずつ、丁寧に降りる。
「メシア様、お連れ様に、ユィとセプト、どっちのおっぱいがいいと思うー?」
「うォォォぉぉぉおおおおおいッ!!」
ユィがとんでもなく誤解を招くような問いをチュチュに投げかけるもんだから、私はヘッドスライディングで止めに入った。
だが、時すでに遅し。
私が止めに入る前に、ユィはすべての言葉を言い切ってしまった。
チュチュの水色の瞳が、スッと冷たい青に変わり、次いで氷のような視線が私に突き刺さる。
「ち、チュチュ……これは、その、違うんだ」
確かに違うんだ。私は何も悪いことはしていない。
ユィの言うユィはこのユィじゃなくて違うユィであって……ああもう! 分けわかんなくなってきた! 早く説明しなくては!
だけど、チュチュのまるで、生ゴミでも見るような視線に私はパニックになり、冷や汗だけがダラダラ出てくる。
「リリス、」
「ひゃいっ!」
初めて聞くような低い声で、チュチュに名前を呼ばれたもんだから、ビクッってなって変な声が出た。
「それで?」
チュチュは一切表情を変化させること無く口だけを動かす。
「な、何がでしょうか……」
私はある程度なら、チュチュのポーカーフェイスからも表情らしきものを読み取れるようになってきていたつもりだったのだ。
が、今のチュチュからは表情が読み取れない。
いや、読み取れないんじゃなくて、読み取るのが怖いです。はい。敬語になってしまうほどに。
「ユィとセプト、どっちを選ぶの?」
こ、これはなんと答えれば正解なんだ!!?
「そそっ、それは……」
えーい! 落ち着け、わたし!いったん整理しよう。
今の状況は?
私がチュチュを怒らせて問いつめられてるみたいになっている。
チュチュは何で怒っている?
私がチュチュ以外に手を出そうとしていると思っているからだ。
何が悪かったんだ?
ユィかセプトっていう、勘違いさせるような選択肢が悪い。
じゃあ、悪いところを正せばいいんだが、どう正せばいい? どうしたらチュチュの機嫌を取れる!?
私がチュチュを選べばいい!
「そんなの、チュチュを選ぶに決まってるだろっ!!!」
口に出して三秒後、私は本当にパニックになっていたんだなぁ。と、自覚しても後の祭りだった。




