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ミズタマ戦はじまり

翌朝の目覚めは最悪だった。

 って言うか、寝れなかった。


 昨夜の出来事は思い返しただけでも皮膚が泡立つ。

 あれを続けなければならないのか……

 

 それに、チュチュのあの冷たい目はなんだったんだ?


 ダメだ。昨日のことは、一旦忘れよう。


 私は女化しないために、もたもたしてられないのだから。


 それにこんなところで立ち止まっていては、いつまで経ってもあの鬼死女神に1発入れられねぇ。

 前進あるのみ!あの鬼死女神の思い通りにさせてたまるかってんだ!


 「と、いうわけでまずはお金を稼ぐぞ」


 そう。

 私たちにはお金が無い。

 お金が無ければ、装備も買えない。

 装備もなければ迷宮ダンジョンに行けない。

 迷宮ダンジョンに行けなければ、ロリモンスターと……


 ああああああ!

 うぇぇえ〜〜〜!

 そうだ、まだ私にはとてつもない呪縛があった。


 うん。

 今、そのことは考えないでおこう。

 前進あるのみって、さっき言ったばかりじゃないか。


 

 そんなわけでやって来ました、冒険者ギルド。


 掲示板には、さまざまな依頼の概要が書かれたチラシが貼ってある。


 「どれがいいかな……まずは簡単で初心者でもこなせそうなやつだよなー」


 掲示板には、本当に色々な文言のチラシがあった。


 「えーなになに?

 “あったか、ファイアーウルフの毛皮求む!”

 かぁ。ファイアーウルフって、火のオオカミ?

 絶対強いだろファイアーウルフ!

 パスっ。


 こっちは?“ワームツムリの粘液掃除”

 絶対にパース!!」


 私の脳裏に、ワームツムリの悲劇が蘇りそうになるのを必死で押さえ込む。

 あれは、本当にトラウマだ。


 「うーん、私たちに合った依頼はないか?……」


 「ん」


 チュチュがなにやら1枚のチラシを指差した。

 私は反射的にチュチュの顔を見てしまうが、素早くらす。


 なんでかって?

 昨日の夜、あんなことがあったのに目なんか合わせられるか!

 ってか、なんでチュチは変わりないんだよ!

 さすが『真顔』スキルの持ち主だなぁ!


 ともあれ、チュチュの示した広告は良さ気な感じだ。



 “ミズタマ100匹捕獲”

 砂浜をミズタマたちが占領してしまい、ビーチが使えません。

 捕獲をお願いします。

 報酬100,000コレイ。

 

 そして、それがそのミズタマだろうか、直径10センチほどの水饅頭のような、イラストが描かれ、その下に、※実寸台。と書かれていた。


挿絵(By みてみん)



 「確かに、これならイケそうだな! 

 しかも報酬は10万だと!

 こんなオイシイ依頼なら、やるっきゃないだろ!」


 こんなヌルゲーで、がっぽり稼げるなんて、冒険者ってサイコーだな!

 冒険者サイコー! 異世界サイコー! 

 よし、サクッと終わらせてさっさと武器を買いに行きましょう!



 ……なんて甘っちょろい事を考えていた時期が私にもありました。


 飛び交うレーザービーム。

 その軌跡が真っ黒にえぐれ、粉塵が舞う。

 鼓膜が破れそうな爆音に体ごと吹き飛ばされる。

 


 あの平和なビーチとカラフルな水饅頭のイラストは何だったんだ?

 もはや詐欺だ!訴えてやる!


 もし万が一、故意でないとしたら、ちょっと絵心なさ過ぎるだろ!

 描いた奴、出てこい!


 私たちが巻き込まれたのは戦争。

 しかも例えるなら、現実的な戦争ではなく、宇宙戦争。


 ビーチに点在するミズタマは、直径10センチほどの大きさ、見た目はカラフルな水饅頭。

 それが私たちの隠れる岩を次々に破壊していく度に、私たちは差し迫る死から次の岩へと身を隠す。


 「こ、こんなの聞いてねぇよ!

 何だよあれ、ただの水の塊じゃねぇのかよ!」


 そんな事をボヤいている暇もなく、ミズタマから七色に輝くレーザービームが放たれ、私たちの体が爆風で吹き飛ぶ。


 「うわぁぁぁあ!!!」


 こんなの無理だ!無理ゲーだ!

 1発目に受ける依頼じゃねぇ!


 私はミズタマたちが占領する砂浜から少し離れた海の家を一瞥する。


 “海の家”の旗。

 木製椅子とテーブル。

 バケツ。

 ……

 

 使えねぇ……

 ビーチの管理人がいろいろ使って良いと言ってくれたはいいが、どれもこれもガラクタじゃねぇか!



 ──数分前。

 私たちはまず、依頼主であるビーチの管理人に挨拶をしに行った。


 「よく来てくれた。

 それじゃあ、早速だけどミズタマを捕獲、よろしく頼んだ」


 管理人は元漁師の爺さんだった。

 

 私はひとつ、確認しておきたいことがあった。


 「捕獲って、駆除じゃないんですか?」


 “駆除”ならミズタマの生死は関係がないが、

 “捕獲”と言われれば、ミズタマを殺さずに捕まえなくてはいけない。

 そこの違いは大きい。

 何か、生きたミズタマを利用しようってんなら“捕獲”しなければいけないからな。


 もしミズタマが見た目の通り美味しいのなら、1つ分けてもらうってのもありだ。

 昨日から何も食べてないからな……


 「そうだな、捕獲で頼む。

 ミズタマのコアには魔法元素がタップリあるから使えるんだ」


 「へぇー」


 魔法元素が何かは分からないが、“捕獲”ね、おっけーおっけぃ。

 了解したぜ爺さん。


 「そうだ、捕獲なら何か道具があったほうが良いだろう。

 海の家にある物なら何でも使っていいから、頼んだぜ」




 そして私たちは、軽装備のままビーチに足を踏み入れ、今に至る。


 「チュチュ、取り敢えず“鑑定”だ!奴らを“鑑定”しろ!」


 紙1枚スレスレでレーザービームをかわしながら私はチュチュに叫ぶ。


 「ミズタマ。

 コアの魔法エネルギーの塊、魔法元素をレーザーのようにして攻撃してくる。水の塊のようで掴むことができない」


 こんな状況でも、チュチュは淡々とした口調で鑑定結果を報告する。

 ちょっとは焦ろよ!


 「うぎゃっ!」


 次に隠れた岩も破壊され、私の体は西部劇でよくみる回転草のようにコロコロと勢い良く転がっていく。


 め、目がまわr……


 その時、私に隙ができてしまった。

 それを、ミズタマたちは見逃さなかった。


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