父上と親父。リリス立ち上がる!
痛む体に鞭打ってゴブリン屋敷に戻ってきた甲斐は十分にあった。
夕食はまたも豪華絢爛、今夜は洋風テイストだった。
スパゲティにハンバガー、チキンにピザと、なんとも炭水化物のオンパレードであったが、稽古後の私にはそんなことは全く気にならない。
ゴブリン10兄弟姉妹たちも全員揃ったところで、
「「「「「いっただきまーす!」」」」」
「「「「「キッキキキキーキ!」」」」」
私が教えた、命に感謝して食事を始めるご挨拶をみんなで手を合わせて行った。
フォークスプーンでスパゲティを食べるゴブリン。
ピザのチーズを伸ばして笑い転げているゴブリン。
口の周りについたミートソースわ拭ってもらっているゴブリン。
ハンバーガーのレタスを後ろからこぼしそうになって慌てて後ろから食べ進めているゴブリンと、様々だ。
10人10色とはまさにこの光景のことだな!
「いつもこんなに賑やかな食事なのか?」
私は隣に座っているドゥに尋ねる。
「あぁ! 毎日楽しいぞ♪
妹と弟のこの笑顔のために俺は毎日山で芝刈りに、川へ洗濯へ行っている!」
「キィキキキキッキキィキキ」
「そーだそーだー!
ドゥ兄、お洗濯はやってなーい!
あははははははっ」
「キキキキキキキッ」
「いや〜バレたか〜♪」
サンクのツッコミも、セプトの笑い声も、私には“キ”と“イ”の連続音にしか聞こえない。
けれど、そんなことはどうでもよくて、この空気、この明るさ暖かさが感じられれば十分だった。
「ところで、長老はいつも一緒じゃないのか?
みんなの親父なんだろ?」
ふと、あのジジ臭くて、ひとり賑やかな長老ゴブリンのことを思い出した。
「あぁ、父上は忙しいからな、なんせゴブリンの長!
やる事がいっぱいあるのさ」
気丈に振る舞うドゥだったが、最後の笑顔は少し寂しそうだった。
「……ドゥ、本当は長老とも一緒に食事がしたいんじゃねぇか?」
お節介とは思いつつも、尋ねてしまう。
私は前世、まだ男だった頃、食事はいつも親父と摂っていた。
何があろうと親父は私と共に家で食事を摂っていた。
だから私は、1人で食事をしたことがなかった。
長老は一人で食事をしているのだろうか?
そして、私が死んでしまった今、私の親父も1人で食事をしているのだろうか……?
「まぁ、それはそうだろ。
父上と食卓を囲めたなら、どんなに嬉しい事か。父上の話は興味深いし、楽しいゴブリンだし、とても立派な方だ。俺は父上を尊敬しているからな」
そうか。
こんなにも素直で優しくて、笑顔の耐えない兄弟姉妹たちの親父なんだ。
長老ゴブリン、ちょっとお前の良さが息子たちから伝わってきたぜ。
「ユィも父上だいすきだよー!」
「キキキキィー!」
「父上は尊敬に値します」
「父上、すごい」
「キィ〜キィ〜」
「キィキ!」
「キィ…。」
みんな、ドゥの言葉に続けて賛同の声を上げる。
ほんと、こんないい子たちに好かれて尊敬されて、羨ましいぜ長老。
「まぁ、あっしに体術教えてくれたのも父上だし?」
えっ……!?
「キィキッキキ」
まじで……!?
「まてまて!」
私はしみじみしながら食べていたチキンを慌てて水で流し込んだ。
「長老ってそんなに強ぇのか!?」
トロワは正直に言って、体術の化物だ。
そのトロワに体術を教えたとなると長老の実力は……
「あぁ、昔はゴブリン界において右に出るものはいなかったとか言ってるけど、父上の事だからその辺は誇張してるかも知んねぇっすかね」
「キキキキ」
たしかに、そーだな。
けど、強ち間違いでもなさそうだとも思った。
でないとこの力主義の世界の中で、ゴブリンの長老なんて務まらないだろうし、こんな豪邸にも住めないだろう。
「まぁ、でも凄い人ってのは変わんないっすかね」
そんなこと言いそうにないトロワまでもそう言うのだから本当に尊敬されているのだろう。
だったら尚更、私は……
「よし決めた!」
急に大きな声を出した私に、ゴブリンたちと、牛乳を飲んでいるチュチュの視線が集まる。
「私たちがいる間に、長老にも夕食会に参加してもらう!
長老も忙しいだろうから急には無理だろうが、先手を打てばきっと何とかなる!」
「おぉ〜!」
「セプト、父上もご飯一緒だって!」
「キィーーーーー!!!!!」
「いいですね」
「お連れ様……ありがとう!」
拍手喝采。みんな心から私の提案に賛同してくれた。
ここまで賛同されると気持ちがいいな!
「よしっ、また具体的にどうするかは考えておくぜ」
「俺たちも協力するから何でも言ってくれ!」
そうして、更に盛り上がったテンションで楽しい夕食会は続行された。




