サンクの工場へ遊びに行こう!
森の外れに工場があった。
「サンクちーっす」
「キィ?」
トロワは無造作に扉を開けると、そこにオレンジツインテのゴブリンことサンクの姿があt……
「うぎゃっ!!」
工場に入るなり私は変な声をだしちまった。
「ははっ、死んでるんで大丈夫っすよ。お連れ様は虫が苦手なんで?」
工場の扉を開けるなり、目の前に飛び込んできたのは大きな大きな虫だった。
それはもう、虫にしちゃ巨大で、しかもプチプチとしたガラス球とも水滴とも見える目がたくさんついていてグロテスク半端ねえ……悲鳴を上げても無理はないのだが、女二人の目の前で中身は男の私一人が悲鳴を上げてしまったのは……不覚だ。
「キィキキキィキキ?」
「おお、そうそう。サンク、あんたの力が借りたくて。ちょっくら頼まれて欲しいんよ」
そう言って、トロワはサンクの前にチュチュを差し出した。
当のチュチュはキョトンとしてトロワを見上げている。
「メシア様、魔力は半端ないんだけど、恐ろしく筋力と体力が無いんだよねー。そこでサンク、あんたの出番だ」
どこでサンク、お前の出番なんだ?
と、ツッコミを入れたくなるような台詞だったが、言われたサンクの方は、なるほど顔で胸をドーンと張り、鼻息を立てている。
「キッキー、キキキキキィキ。キキ? キキキキキキキキキキキィキキキ?」
「あぁ、魔力は気にしなくていいかな。思いっきりやってくれて構わん。なんせメシア様の魔力値は6890だ」
「キィ!?!?」
あ、今のは分かった。
はぁ!?!?
だな。それと、サンクはチュチュの魔力値がどのくらいあるのか尋ねたってとこか。
そして、信じられないといった表情のサンクは、頭につけたレンズを目にかけてチュチュを観察しまくっている。
「……なぁ、サンクのそのサングラス? レンズってもしかして……」
と、あることに気がついてしまった私は恐る恐る工場に横たわる巨大な虫を指さした。
サンクの頭についているレンズと虫の目のレンズが同じサイズ、同じ色合いに見えたからだ。
「あぁ、サンクは虫博士でもある。こいつはダンメムシ。団子みたいな目玉が段差状に下の段に行くに連れだんだん大きくなるからっていう冗談みたいな名前の虫……だったか?」
「キィーキキ」
本当に冗談みたいな名前の虫だな。
トロワは多分、前にサンクにこの虫のことを習ったことがあったのだろう。それで覚えていた知識をサンクに確認したところ、正解がもらえたようだ。
……師匠、脳筋だと思っていたがそうでも無かったのか。
「ん? 虫博士で“も”??」
トロワの言い回しに引っかかりを覚えた私はその真意を尋ねた。
「あぁ、サンクは虫博士でもあり、発明王でもあり、魔術研究家でもある。」
私が目を丸くしてサンクを見ると、またもサンクはえっへん!と、胸を張って鼻息を荒くしている。
私と同じ年くらいのただ小五月蝿いツンツン娘かと思えば、博識担当だと!?
「家の洗剤もサンクのお手製だし、サンクが提供する虫や金属触媒でアン姉の管理する香水ができてるし、あの屋敷が他の魔獣に襲われないのもサンクが発明した魔術結界が張られているからだしね」
ま、まじか……
サンク様々じゃねぇか……!!
「ってなわけで、何年かかるか知れないメシア様の壊滅的な筋力アップを、このサンク大博士に助けてもらおうって魂胆さ。
な? カトロ」
おう。と言った感じで軽く手を上げたカトロ。
ニシシと不敵な笑みを浮かべるトロワ。
任せておけ! と言わんばかりにモノサシを掲げるサンク。
なんなんだ……いったいこの兄弟姉妹たちの阿吽の呼吸はなんなんだ!!!




