こんな決着ありですか!?
半分の、もう更に半分に切られてしまったトロワの手箕。
カトロの真剣によって切り飛ばされた1/4サイズの手箕はまだ宙を舞っている。
「何が起こった……?」
決着の時は突然訪れた。
完全にカトロの優勢だった。
真剣のカトロに手箕のトロワ。
手箕にヒビが入った事によりトロワにできた隙をカトロが突く。
今私の目の前の光景は、地面に組み伏せるような体勢になったトロワとカトロ。
そして、圧倒的不利であったトロワが上をとっていた。
「勝負ありだね」
グサッと、カトロの長い耳スレスレの地面に突き刺した手箕を引っこ抜く。
「トロワ!」
「やぁやぁお連れ様、なにか掴めた?」
「いや、何が起こったのかすら分かんねぇよ。
一体なにをした?」
遠く離れた切り株から近くに駆け寄った私は、1つ謎が解けた。
「ったく、カトロ。
1対1の時でもちゃんと周りに目を向けろって教えたっしょ?」
「キッ……」
体をしならせた反動で立ち上がったカトロ。
その足元には、初めにトロワが捨てた半分になった手箕の片割れが落ちていた。
トロワは手箕にわざとヒビを入れさせる事で次の一撃で手箕が割れて吹き飛ぶ方向をコントロールした。
そうやってカトロの方に破片を飛ばせばカトロは剣でその破片を弾かざる負えなくなる。
そうやってトロワは逆にカトロに隙を作り、カトロを突き飛ばす。
そして、突き飛ばした先には、初めに割れた手箕の破片。
カトロがそれに足を滑らせたところで……
「キッキー。 キィキキキキキキキッ」
「え、今なんて?」
「あー、今のは……」
「“うっせー。 こんなのわかるかよっ”
……だって」
カトロの言葉を翻訳しようとしたトロワに代わってチュチュが言った。
「チュチュ、お前ゴブ語が分かるのか!?」
しかしチュチュは首をふる。
「『鑑定(3)』をオンにした。
ゴブ語、鑑定できる」
ってか、即興で作った“ゴブ語”という私のワードをもう既に我が物顔で早速使ってやがる。
「へぇー、やるねぇメシア様。
これで安心してカトロにメシア様を任せられる。
けど、ずっと魔力を消費しつづける事になるけど、それはいいんですかい?」
トロワがチュチュの「鑑定」に伴って消費される魔力を心配し尋ねた。
「あぁ、それなら心配無用だ。
こいつは魔力モンスターだからな。
チュチュ、ちょっと冒険者カード見せてみろ」
うん、と頷き、チュチュはポケットから冒険者カードを取り出した。
【リップ・チュチュ】
女 12歳
LV4
魔法適性:水・雷
体力:22/22
魔力:6890/6890
筋力:5
敏捷:110
物防:14
免疫:13
魔耐:29
幸運:30
スキル:【『鑑定(3)』『真顔』『攻めの姿勢(2)』『ショック(1)』『感知(4)』『ツタ渡り』『雷鳴(1)』】
このスキルを習得しますか?
《魔法力高めココアフロート系女子》
チーム所持金:500コレイ
「はぁー。 流石はメシア様ってわけだ」
トロワが恐れ入ったと感嘆の声をあげ、カトロも目を丸くしている。
「なぁ、ずっと気になってたんだけど、メシア様ってなんだ?
チュチュが救世主ってどういう意味だ?」
私はチュチュの魔力量にメシア様に対して何らかの合点がいったトロワたちに疑問をぶつけた。
「なんだ、聞いてなかったんすか?
その話は長くなるんで、お昼時にドゥ兄にでも聞いておくんなませ。
あっしが説明するのは……面倒くせぇ」
「最後! ボソッと言っても聞こえてっから!」
しかし、今はこうして会話を続けているトロワだが、もともとの口数は少ないタイプと見る。
今は、お客様である私たちを相手にしている手前であるのと、メンツにも原因があってこうして話し続けているだけだろう。
そんな事より早く体を動かそうとウズウズするように、カトロとの戦闘中も肌身離さず背負っていたクワを持ってストレッチしている。
「けど、それもそうだな。
その件に関しては後でじっくり尋こう」
「ん。 そーしてくんな。
じゃあ、早速だけど稽古を始めよう。
お連れ様、どっからでもかかって来な」
「おう! ……って、はいぃ??」
持っていたクワを私に軽々と投げ、私は慌ててクワをキャッチする。
ズシッと鉄の重さがのしかかり、体がよろめいた。
丸腰となったトロワはクイクイッと空へ向けた手の平から生えた水色の人差し指を前後に動かし、私を挑発するのだった。