トロワvsカトロ。
「んじゃ、まぁ初めにカトロの実力も見てもらう意もこめて、あっしとカトロが軽くやり合うところ見せてみっか。
カトロ、あんたはその腰に引っ提げてる剣使いな。
あっしは盾……は、いま手元に無いから……代わりにこれでいっか」
そう言って拾い上げたのは、手箕だった。
えっ、盾の代わりにテミ!?
テミって、小学校の落ち葉拾いでよく使ってた、あの大きめのチリトリみたいなやつだよな?
まじかよ……真剣とテミじゃあ勝負にならないんじゃぁ……
しかし、トロワはそんなことは微塵も気にする素振りもなく、暴れるなら場所を変えようということで、畑から少し行った森の中の開けた空間に私たちを移動させた。
「んじゃ、お連れ様はあっしを、メシア様はカトロをよーく見ててくだせーな」
私とチュチュは切り株に腰掛けて2人の戦いを観戦することにした。
「んじゃカトロ、来な」
ふーっ、と1つ深呼吸。
カトロの足場に凹みが入った。
かと思うと、カトロとトロワの距離は目と鼻先ほどに縮まっていた。
……速い!
獰猛な殺意を持った目でトロワを捕らえる。
鋭い金属の光が一切無駄な動きをすること無くトロワにかざされ……
この一瞬の出来事は、私たちは目を覆う暇すら与えなかった。
しかし次の瞬間、カトロの体が重力を反転させたかのように空へと弾かれた。
3回宙返りしたカトロが姿勢を低くして土の上に着地する。
「何が起こった!?」
「トロワ、跳ね返した」
「なに!?」
見ると、トロワの手箕が縦に真っ二つにされていた。
左右対称に綺麗に分かれた手箕の片方を捨て、手元に残した片割れを、落ち葉をためる側を自分の体の真正面向け、持ち手の穴をしっかり持ち、まるで本物の盾のように構えた。
「うん、悪くない」
「キィィイイ!」
2度目、カトロがトロワに襲いかかる。
が、カトロの剣は空振りし……否、トロワが今度は手箕を裂かれる事無く攻撃を手箕で受け流した。
間髪入れずにカトロの連続攻撃。
空気を切り裂くヒュンッという鋭い音。
バンッという、剣の刃ではなく面の部分を叩き払う、手箕の鈍い音。
凄まじい集中力に私たちの方が呼吸が止まってしまいそうだ。
だが、カトロが仕掛ける一方で、手箕のトロワは攻撃を受け流すだけ。
やっぱり手箕では真剣に劣るということか。
本物の盾なら、剣を受け止めながら体術でカウンターを狙える。
魔術性を持った盾なら魔術を使って攻撃ができる。
だが、竹で編んだ手箕にそんな強度や魔術は無い。
トロワが勝つには、カトロがミスをするのを待ってそこを突くのみ。
と、思っていた数秒前の私は自分の師匠を見くびりすぎていた。
「おっと、」
カトロの連続攻撃に手箕にヒビが入り、トロワの注意が一瞬逸れる。
その隙を突くようにカトロが再び地面を強く蹴って、正面突破。
高速突進で矛先を真っ直ぐ突き出す。
「……ッ!」
トロワの半分に割れた手箕が更にもう半分に切られ、破片が宙に舞った。