畑を見にいこう!
ゴブリン10兄弟姉妹たちはもう朝食を済ませたというので、部屋に朝食を運んできてもらい済ませた。
朝食を食べ終わり、朝の身支度を整えると、まずはトロワの畑にでも行ってみようということになった。
「ちゃっす、トロワ。
畑の見学させておくれー」
「あぁ、お客様か。
どーぞどーぞご自由に」
畑は広大で、土の匂いがブワッと鼻に押し寄せる、良い土だった。
だからなのか、ヘルガーデンならではなのか、とにかくトロワの作っている野菜は……
「にしても、デカすぎだろ!」
土の表面から飛び出している根菜類のものと思われる葉っぱは、その長さだけでも軽く3メートルはあった。
チラッと覗いている可食部の白肌の直径から察するに、引っこ抜いたらトラックほどの大きさがあると推測できた。
「畑面積もバカみたいにあるし、これ一体、どーやって水やりとかするんだ?」
私がトロワに尋ねると、倉庫からやけに太いホースを担いできたトロワは投げ輪のようにそのホースを広げると、先端を抱えて構えた。
「あー、このホースは近くの湖に繋がってましてね。
あとはスイッチ押すだけでさ」
いやいや、そういうことを聞いたんじゃないが、なぜトロワがそこを問題視しなかったのかはすぐに分かった。
ポチッと、ホースの放水スイッチ押した瞬間、大動脈が波打つかのごとく張り詰めたホースから爆弾が破裂したかと思うほど勢い良く水が噴射された。
それなのに、トロワは平然とした顔でホースを操り、走って畑全体にまんべんなく水を撒いていく。
「す…すげぇ………」
普通、これだけ太いホースならば、水を勢い良く出すためにどれだけの圧力が必要か。
そしてその反動は並大抵のものではないはず。
ホースの重さ、圧力による反動を微塵も感じさせない身軽さでトロワは畑を爆走していく。
しかし、広大すぎる畑にこのホースは長さが少し足りない。
バケツにでも移し替えて水を撒くのだろうか?
そんなことを考えながら見ていると、トロワはそのまま水を止めることなく、またホースを置くことなく、ただギュッとホースの口を握力で潰した。
「はぁ!? 嘘だろ!?」
出口が狭くなったことにより、さらに水流が勢いをつけ、大きな大きな放物線を描く。
そしてトロワは何食わぬ顔で水撒きを続けている。
水やりが終わり、トロワがホースを巻きながら戻ってきた。
「ちょっとトロワ、そのホース持たせてくれないか?」
どう見たって、固くて重たそうなホースだったが、確かめられずにはいられなかった。
「へい、どーぞ」
トロワが抱えていたホースを丸ごと私に押し付けた。
「重っ! ぐわぁはっ!」
と、巻いていたホースが真っ直ぐに戻ろうとする力で、持ち手が私になった瞬間ホースがその弾力を見せつけるかのように跳ねて広がってしまった。
「わ……悪い………」
「あー、大丈夫っすよ
あとテキトーにやっとくんで」
そういってトロワはあっという間にホースを倉庫の中に収納してしまった。
「んじゃお客様、ヒマなら収穫でもやってみる?」
名誉挽回っ!
今度こそうまくやって見せてやるっ!
「んでこれ、どーやって収穫すんだよ?
機械かなんかで掘り出すのか?」
「何言ってんだ?
んなことしたら実が傷つく。
葉と可食部の境目は強いから、力任せに引っこ抜いても切れやしない」
えっと、それはつまり……
と、言う前にトロワは巨大ニンジンらしき物の葉っぱを掴むと、地面を蹴って大ジャンプ。
その勢いで巨大ニンジンはいとも簡単に、気持ちいいくらいスポッと抜けた。
そしてすかさず空中でニンジンを藁の積んである方へヒョイッと投げた。
呆気にとられる私たちに、着地したトロワは親指を背中に向け、やってみ。 という。
いや、無理だろ!
しかし、チュチュはトタタタッと、近くの巨大ニンジンに駆け寄る。
そして巨大ニンジンと苦闘する。
案の定、ニンジンの葉っぱを揺することすらできなかった。
ってか、お前のほうが折れそうだからやめろ!
「メシア様、おもしれぇな」
いや、何も面白くねぇ……
「ところで、なんでトロワはそんなに怪力なんだ?
ゴブリンってのは、みんなそうなのか?」
「いや、うちの兄弟姉妹たちが特殊なだけだね。
パワーだけならドゥ兄の方が馬鹿だ。
戦闘力って面では多分、あっしが1番強い。 一応これでも戦闘員だかんね」
なるほど、確かにそんなこと言ってたな。
ドゥの怪力は、昨日の夕食でトロワ、カトロ、ディスを担いで猛ダッシュした時点で判明していたが、戦闘員トロワの力量を今初めて目の当たりにして正直驚いている。
だって、ゴブリンって雑魚モンじゃねーのかよ!
雑魚モンは実は超強かった設定!ってのは最近のはやりなのか?
うーん、となると今まで共通認識で雑魚とされてきたモンスターが雑魚でなくなるとなると、new雑魚は何になるんだ?
うーん。
と、ちょうどその時、小さな山の麓からカトロがクワを担いでやって来るのが見えた。




