女嫌いの初夜。
冒険者ギルドを出る頃には日も暮れ、お金も無い私たちは、しばらく例の水車小屋に寝泊まりすることにした。
空に登る青白い月らしき物。
面倒くさいから月でいいや。
月の光が、水車小屋の格子窓から差し込み、その中に居るものの形をクッキリと浮かび上がらせていた。
中はもともと、馬小屋だったのだろうか?
この世界に馬がいるかどうか疑問だが。
そこは置いておいて、どうやらこの水車小屋は家畜を飼うための小屋だったらしい。
だって中には柵と藁しかないんだもん。
その他は何にも無い。
スッカラカン。
隙間風の音がするし。
今は暖かいからいいけど、寒くなったらどーすんだこれ?
どうかこの世界に冬がありませんように。
引きこもりニートは寒さに弱い生き物なのだ。
にしても……
──ぐぅぅぅぅぅぅぅうーーー。
「ハラ減ったな……」
だけど、食べ物なんて無いしな。
ひもじい。
「よし。こんな時はとっとと寝るに限る。寝よーっ!」
勢い良く背中から藁の上に倒れ込む。
ホテルの部屋についたら必ずやってしまうアレだ。
うん。なかなか悪くないぞ。
ちょーっとニオイとチクチクが気になるが、シーツを被せればフカフカベッドの完成だ。
今日のところは、私の豊かな想像力でカバーしよう。
ここはホテル。ここはホテル。
ホテルのフカフカベッドの上。
今日は色々ありすぎてクタクタなんだ。
何せ転生初日だからね。
今日1日で死んだり、呪いをかけられたり、生き返ったり、歩き回ったり、粘液まみれになったり、冒険者になったり……
濃い1日だったなぁ。いやマジで。
それはもう、これ以上塩を入れても溶けきれずに結晶が出てきてしまうほど濃い1日だった。
流石にこれ以上何か起こることはないだろう。
そんな1日目が終わる。
きっと明日も濃い1日になるのだろう。
それに備えて、今はゆっくり、眠るとしよう。
という事で、おやすみなさーい。
「……ス」
ん?
「……きて、リリス」
なんだなんだ?
「起きて、リリス」
って、なんだチュチュかよ。
私は疲れているんだ。
お前もそうだろ?私より体力無いくせに。
さっさと寝ろよー。
ねみぃよー。
「いいの、リリス?胸が大きくなっちゃうよ」
……
「はっ!そうだった!」
そうだ、私には時間がない!
こうやって寝ている間にも、私にかけられた呪いは刻一刻と私の胸を盛っていってるのだ!
「よし作戦会議だ。明日から早速、迷宮に向かうぞ。ここから1番近い迷宮はどこだ!?おっとその前に装備を固めないと。シールダーのくせに盾が無いし、お前も魔法剣士のくせに剣無い。って、金も無いし!詰んだー!」
焦ってパニクる私をどうか許してほしい。
だって嫌なんだ、どーしても、嫌なんだ。
自分があんな姿になってしまうのは。
女の象徴である胸が私の体で主張してきてしまうことが!
それなのに、知識は無い、装備も無い、金も無いで絶体絶命大ピーンチ!
そりゃパニックにもなりますわ。
私の頭の中は、もう“どうしよう”の5文字しかなかった。
焦りと不安でいっぱいだった。
数秒前までは。
「……!?」
突然のできごとに、さっきまでの焦りや不安といった感情がいっきに吹き飛んでしまった。
チュチュが突然、私の頬を両手で挟んできたのだ。
「リリス、焦らなくても大丈夫。私が、止めるから」
って、まさか!
「ちょ、ちょっと待てチュチュ!」
か、顔が近い!
こいつ、マジでやる気だ!
チュチュが私に何をしようとしてくれているのか。
月の出る時間1日1回、チュチュのキスにより、私の呪いはその歩幅を狭くする。
あの鬼死女神によると、チュチュのキスにより、私の胸の成長速度がフレンチキスなら遅く、ディープキスなら1日停止するらしいのだ。
つまり、チュチュは私にキスをしようとしている!
それは私にとって女化を止める救済処置であると同時に悪夢でもある。
なぜかって?そんなの決まってるだろ!
私は女が嫌いなんだ。
女が嫌いすぎて異世界転生させられるくらい女が嫌いなんだ。
女の顔、女の体、女の性格、女の髪、女の声、女のモノ、漏れ無く全て大嫌いだ!
女なんかに触りたくないし、話したくもない!
だが、この女化を止めるために女に触れる……しかもキスなんて、条件鬼畜すぎるだろ!
いや、例えどんなに鬼畜だとしても女化は止めたい。
だから覚悟を決めるべきなんだろうけども、まて。まてまてまて!心の準備とかあるだろ!
「リリス大丈夫、口開けて」
「全然大丈夫じゃねぇ!まて、口開けるっていくら何でもハードル高すgஇ▽★ゑ≫!?( º﹃º )」