お手本!
「コレー様……」
クイクイっと、悲劇の舞台女優の如く天に顔を向けるコレーの服の裾をチュチュが引っ張った。
「チュチュ、大丈夫。
そんな事より、チュチュ、強くなる」
そんなことよりって、お前なぁ……
けど、強くなりたいという意志は強いようだ。
それはなんとも頼もしい。
舌っ足らずでなければ相当決まっていた。
「けど、チュチュちゃんの魔力は並大抵じゃないのよ?」
過保護な女神はチュチュに目線を合わせるようにしゃがみ、その頬を両手の平で包んだ。
「もし、このスベスベの白肌が黒焦げになってしまうかと思うと……!」
「コレー様、大丈夫。
チュチュ、強くなる」
もう一度言葉を繰り返すチュチュ。
その強い眼差しと心意気に圧され、コレーが折れた。
「わかったわ。
けど、『雷鳴』の時は『攻めの姿勢』禁止よ。
分かった?」
「分かる」
「よしっ、じゃあ『雷鳴』の呪文を教えるわね!」
そうしてコレーは、私の背中側にある窓に手を触れ、『雷鳴』の呪文を唱える。
「“イカズチの子よ 我ここに込める力をせしめよ──」
すると、触れた部分が黄色く光った。
そして段々とその光は強くなる。
その隙に、コレーはスタスタとベッドの方へ小走りに歩み寄り、窓に込められた魔力が発する光エネルギーがマックスになったのを見計らい、手を前へ突き出す。
「──時は来た 我と己の愚かさに喝采せよ”!」
窓の光が収束し、鋭い稲妻の形となったかと思うと、真っ直ぐコレーの手の平に吸い込まれるようにして稲妻の矢が飛んできた。
怒涛の勢いで掻き分けてくる稲妻の矢が、その周りの空気を膨張させて、盛り上がった空気がゴロゴロと音を立てて私に迫って……
ん? 私に迫ってくる?
「いぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
「と、まぁこんな感じで相手に当てればこちらには攻撃は当たらないってわけ」
頭が焦げて、プシュプシュいってる私になんか目もくれず、コレーがチュチュに「雷鳴」の使い方の説明をしている。
「こらぁぁあああ!」
「痛っ!
なんでチョップするのよぉリリスちゃん!」
「なんでって、分かんねぇなら今度こそお前が雷くらって脳の回路繋げてもらえ!
私に『雷鳴』当てて自分は回避してんじゃねぇよ!」
「大丈夫よっ、ちゃーんと手加減したんだから。
ほら、可愛いお顔は全然焦げないないでしょ?」
「そういう問題じゃねぇー!」
あーもうっ、ほんっとコイツの頭はどーかしてる!
「よし、頭キタ。
私の最終目標は、第2の人生を天寿を全うして、お前にザマァって言った後に1000発殴るって事だったが……」
「えっ、なにそれ怖い!」
「ここで100発分消費してやるぅぅう!」
怒りの鉄拳を振りかざした時だった。
怒りと稲妻の熱で顔が真っ赤な私に青ざめたコレーは、わっと慌てて逃げ惑い、窓へと追い込まれた。




