新・雷系統魔法…
「リリス、さっき……?」
「あー、何でもねぇ何でもねぇ!
それよか、早いとこ雷系統魔法を伝授してもらおうぜ!」
慌てて取り繕い、コレーにパスする。
「そ、そうね! よしっ、Lv4のチュチュちゃんには、新しい雷系統魔法『雷鳴』を伝授しちゃうわよ♪」
雷鳴。
つまり、雷がなる時のあの、ゴロゴロッ! って音か?
雷の付属品が主役としてスキルになってやがる。
うーん。使えなさそうな感じしかしねぇ……
つーか、そもそもあの音って一体何で鳴ってるんだ?
「あぁ、でも待って!
この技は危険すぎるわ!
魔力が弱くて捨て身系のリリスちゃんならまだしも、チュチュちゃんには危険すぎる!」
「おい! チュチュのターンで私をディスるな!
それに、チュチュだってなかなかの捨て身系だぞ!
ミズタマ戦の時なんか崖から飛び降りたしな!」
チュチュの特性スキル、「攻めの姿勢」によってある意味チュチュは私より捨て身系の戦闘者だ。
コレーがミズタマ戦を観戦していたかどうかは知らねぇが、チュチュの性格くらいは把握しているだろう。
その上でまだ私の方が捨て身戦闘員だと言うのなら、それはもう鬼死女神の勝手だ。
「別にディスったわけじゃないわよ!
リリスちゃんの魔力が弱くてチュチュちゃんの魔力は強すぎるって言いたいだけじゃない」
「前半いらねぇだろ!
チュチュの魔力が強すぎるだけでいいだろ!
ってか、なんで魔力が強いとダメなんだよ?
魔力が強いほどスキルに注げる魔力も多いから威力がアップして良いじゃねぇか」
魔法スキルの威力は、スキルレベルと魔力に依存する。
スキルにもよるが、スキルレベルが上がるほどその効果範囲が広がったりする。
例えば「鑑定(1)」ではものの名前しかわからなかったのが「鑑定(2)」になれば名前にプラスして説明が付くと言った感じだ。
魔力が強いと主に効果度が上がる。
例えば「ショック(1)」を私みたいな一般ピーポーがマックスファイヤーで発動させてもちょっとピリッとくる程度で魔力値もスッカラカンになると思うが、チュチュみたいな魔力モンスターが発動させれば、注ぎ込む魔力に比例して巨大ミズタマをドッカーン!とやれちまうってわけだ。
「それがそう単純な話じゃないのよ」
「どういう事だ?」
コホンっと、ひとつ咳払いしてコレーが説明を始める。
「この『雷鳴』というスキルは、まずモノに触れて呪文を唱える。この時に雷魔法をモノに注入すると思って。
そして、少し時間を空けて、そのモノと術者を繋ぐようにモノから稲妻が走るの。
そのとき走る稲妻が、モノと術者の間の空気を膨張させることによってあの“ゴロゴロ”って音が鳴るから『雷鳴』よ」
なるほど、時限爆弾的な要素を持つスキルというわけだな。
なかなか使えそうじゃねぇか!
「んで、それの何がそんなに危険なんだ?
私たちは戦っているんだ。
危険とはいつも隣り合わせだぜ」
ところがどっこい。
と、コレーは指を突き立てて続ける。
「『雷鳴』は、モノに込めた魔力に応じて時間設定と雷の量が調節できるわ。
つまり、魔力を込めれば込めるほど長時間潜伏させることができ、さらに走る稲妻のボルトも増大する。
ここが問題なのよ」
「どこが問題なのよ」
あっ、やべ。
釣られて女口調になっちまった。
だが、そんな事にいちいち構ってる時じゃない。
「さっき、モノと術者を稲妻が繋ぐって言ったわよね?
モノから発信された稲妻を敵が避けた場合、その稲妻をチュチュちゃんが受信しなくちゃいけないの」
「つまり?」
「つまり、敵に当たるか、上手く自分の攻撃を受け流す事ができればいいんだけど、失敗すれば自殺行為ってわけ」
「危ねぇな!」
「だろ!?」
今度は私の口調にコレーが釣られた。
それに少々顔を赤らめたコレーだったが、なんとか気を取り直す。
「だから危険って言ったでしょう。
チュチュちゃんは魔力が異常に強いから、間違って大量の魔力を込めて万一、敵が避けたとしたら……」
「チュチュ、黒焦げ?」
怯え、語尾を濁したコレーに、当事者であるチュチュが言葉を継ぎ足す。
それもいつものポーカーフェイスで。
こいつ、黒焦げの意味分かってんのか……?
「あぁ、やっぱりダメ!
チュチュちゃんをそんな危険な目にあわせるだなんて!
他のザコ駆け出し冒険者の魔力なんて当たってもたかが知れてるからLv4設定のスキルなのに……おぉ、神よ! こんなのあんまりよ!」
大袈裟に頭を抱えてハムレットの悲劇を演じているような嘆きを叫ぶコレー。
ってか、お前がこのローリアビテの唯一神だろうが!
そんな事より、コレーの言うザコ駆け出し冒険者の中に私が入っていない事を願っておこう。




