新・火系統魔法!
「ふぅ、間に合ったー。
危うく力が無くなって真っ逆さまになるところだったわ」
「あぶねぇな! そんなギリギリでやってんのかお前!」
飛行中の風の音に負けないように話していたボリュームを引きずって私が大声を出すと、コレーが私の唇に人差し指を当ててきた。
「しーっ、チュチュちゃんが起きちゃうわ」
「起きてる」
突然聞えたチュチュの声に驚き、私とコレーがベッドに目を向けると、チュチュが背中をあげていた。
「おはよう、チュチュちゃん。
よく眠れたかしら?」
我が子にする朝の挨拶のようにコレーはチュチュに優しく笑いかける。
チュチュはコクリと頷いて、ベッドから降り、テクテク歩いてくると私の手をキュッと両手で掴んできた。
「リリス、どこ行ってた?」
「ん? あぁ、ちょっとこのロリコンの相手をしてただけだ」
「ふーん」
自分を置いて散歩に出かけたことが不満なのか、チュチュは気のない返事でそっぽを向いてしまった。
いや、気の無いというより、なんか少し寂しそうな感じがした。
「そうだ、忘れてた!」
何かを思い出したかのように、ポンと手を叩くコレー。
「ポッキーゲームの商品、新スキルをあげなきゃね。
勝ったのはリリスちゃんだけど、太っ腹なコレー様はチュチュちゃんにもサービスしちゃうから、安心してね♪」
「おぉっ! 流石、ロリコンっ。
ロリに甘々だぜ!」
「えっへん。 どーだ参ったか!
毎日、月に向かって私に手を合わせてもいいのよ?」
「いや、今のは……まぁいいや」
悪態をついたつもりでも、“ロリコン”はこの変態にとって褒め言葉らしい。
満足気に、そして得意そうに鼻を鳴らしている。
「じゃあ、まずリリスちゃん。
火系統か闇系統か、どっちがいい?」
今のところ、私が持っている魔法スキルは、火系統魔法「温度操作(2)」と、闇系統魔法「ドレインタッチ(2)」。
火系統→闇系統ときたから、次は火系統だろう!
……とかいう適当な考えではなく、このヘルガーデンは木魔法の迷宮。
相性的に考えて、火系統魔法を習得しておくのがいいだろうとの判断だ。
なんせ、「温度操作」は火系統魔法のくせに火を使わねぇからなぁ。
イマイチ、「火系統魔法使ってるぜぇぇえ!」って感じがしない。
いや、「温度操作」くんには大変お世話になっているから文句とかそう言うんじゃなくて、ただ火を扱えた方が今後のためには都合がいいだろうという考えだ。
と、いうわけで、
「じゃあ火系統で頼むっ」
「おっけー! それじゃあ、今のリリスちゃんのLvで与えられる火系統魔法は『ファイアーサークル』ね。
これは、Lvに応じた数の火の玉が自分の周りを取り囲むって感じのスキルね。
火の玉の大きさは魔力に比例して調節ができる。
火の玉は直接飛ばしたりは出来ないから……まぁ、体当りしたら相手がプラスアルファで火傷を負うわね!」
「今ちょっと、使えねぇスキルだなぁ……とか思っただろ!」
「そ、そんな事はないわ!
捨て身系戦闘スタイルのリリスちゃんにはピッタリのスキルじゃないっ」
「好きで捨て身系やってるわけじゃねぇ!
私もどうせなら火炎放射とかファイアーボールとか、そんなんがよかったわ!」
「失礼よ! 『ファイアーサークル』ちゃんに謝りなさい!」
「ごめんなさい!」
「なんで私には渋々だったのに、『ファイアーサークル』にはそんな清々しく謝るのよ!」
「そんなの、変態鬼死女神じゃないからに決まってんだろ」
「ムキーッ! もぅ、『ファイアーサークル』あげないわよ!?」
「ごめんなさいコレー様!
ロリの味方、ロリ神コレー様!」
あぁ、なんだこれ……
だが、ロリ神のところでコレーが気を良くしたのは一目瞭然だった。
「いいわ♪
ロリ神コレー様は可愛いロリっ子リリスちゃんに『ファイアーサークル(1)』を授けてあげましょう」
ほんと、単純というか複雑というか……
まぁ、新スキルを貰えるのなら良しとしよう。
「じゃあ、呪文ねっ
よーく聞いてなさいな」
コホンっと、咳払いをし、如何にも偉い魔法使いのように構えたコレー……だったが、白ワンピースのポケットからそそくさとカンペを取り出した。
ズッコケそうになる私を気にも留めず、再び仕切りなおしたコレーは、「ファイアーサークル」の詠唱を始める。
「“炎の精霊 我の側に 具現化し 離れること無かれ”」
その時、コレーの周りに3個ほどの火の玉が現れた。
ゆらゆらと頼りない火の玉はもっと近くまで寄れば熱いだろうが、それほどの熱さも感じない。
なるほど、まるで狐火だな。
色は青でなく赤。
青のほうが温度が高いって聞いたことあるから狐火の方が強そうだ。
どちらが古くからあるかは知らねぇが、「ファイアーサークル」は狐火の劣化版ってことか……
こりゃ選択を誤ったな。
「今私はかなり魔力も絞って『ファイアーサークル』を発動させているけど、リリスちゃんのLVだともっとショボショボになるわね。
けどガッカリしないで。
きっとこの子は大器晩成型なのよ!」
頼んでもいないフォローを入れられたせいで私の中の「ファイアーサークル」使えねぇイメージが更にアップした。




