天使に乗って。
「きゃー! リリスちゃん大好きよ!」
私がコレーの頼みをきいてやると言った途端、このロリコンは真っ直ぐ私にフライングタックルをかましてきた。
私の背後には、大きな両開きの窓が開いたまま。
まるでジェットエンジンでも噴射したかのような勢いで飛び込んできたこのアホ女神もろとも、私の体はゴブリン屋敷の外へぶっ飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁあぁあぁ!
何しゃがんだバカ! 死ぬ死ぬ死ぬ!!!」
これまで様々な場面で死にそうになってきたが、飛び降りによる擬似落下死は初体験だ。
って、そんな初体験いらねぇ!!
落下したら何をどうしようと同じだが、グッと身を固くして構えてしまうのは人間の反射神経が働いているのだろう。
だが、私たちは落下しなかった。
ギュッと瞑った目をおそるおそる開けると、思わずしがみついたコレーの体が朝焼け混じりの星空をバックに大きくて白い天使の羽を羽ばたかせていた。
「リリスちゃん、しっかり捕まっててね!」
「おい、なにするつも……うゎあ!!」
私の了解を得ずして、コレーが高度をグンと上げた。
これが本当の宙返り、と言わんばかりに、腹を空へ向け、雲の中で1回転。
その勢いと、コレーが私の腕に手をかけたもんだから、私の体がコレーから離れ、天へ吸い込まれる。
「うぎゃあ!!」
「キャッチ!」
空中で逆立ちした私の両手をコレーが掴みとり、グルンと放り投げたかと思うと私をしっかりと背中に乗せた。
「どぉ? 乗り心地の方は。
気持ちがいいでしょう。
女神様の背中に乗るだなんて、人類史上リリスちゃんが初めてじゃないかしら?」
愉快そうに言うコレー。
確かに愉快だ。
空を飛ぶってこんなに気持ちがいいんだな。
「あぁ、確かにな。
お前を尻に敷いているかと思うと胸がスッとするぜ」
「それ以上調子に乗ると、ここから振り落とすわよ?」
下を見ると、雲しかない。
雲の上から振り落とされるなんて、考えただけでもゾッとする。
「すみません、今のはナシで……」
「素直でよろしい♪」
調子に乗ってんのはどっちだ……
まぁ、今回は私か。
そして私はしばらく女神の羽での遊覧飛行を楽しんだ。
ヘルガーデン第3フロアの壁は高いらしく、雲を突き抜けても囲いが遠くに見えた。
それより上には結界があるから行けないんだろうな。
だが、なんて大きな迷宮なんだ。
ここがチュチュの姉妹のうち1人を守る迷宮の1つなのだ。
「なぁ、このまま飛んでロリモンスターのところへ行ってはくれないのか?」
答えはわかりきっていたが、一応きいてみた。
「ダメよー。
そんな事したら私かチュチュの姉妹ちゃんたちに思いっきり干渉しちゃうのと同じじゃない。
楽しようとしたってダメなんだからねっ?
それに、リリスちゃんには、ここでまだやる事がたくさんあるでしょ?」
ヘルガーデンでの課題は山積みだった。
まずは、そもそもこのヘルガーデンに来るための依頼、ぶどう狩り。
フェルの妹探し。
キングとの決着……は、まぁいいとして、私はゴブリンたちに少し鍛えてもらうつもりだった。
私はまだまだ弱すぎる。
焦ってロクな用意もせずに迷宮に乗り込んでしまったため、いちいち死に目に遭ってきた。
せっかく買った木製盾もイマイチ役に立てられていない。
ゲームの中のイメージだが、ゴブリンは人間から奪った剣や盾を使いこなし、バージョンアップしたゴブリンなんかも多くいる。
私らが頼めば、剣や盾の扱い方くらい教えてくれるだろう。
なんせ、チュチュはメシア様。
私はそのお連れ様なのだから。
……あれっ?
ってか、そもそも何でチュチュはメシア様って呼ばれているんだ?
「あっ、やば。
そろそろ満月の力が……!
リリスちゃん、光速で戻るわよ!」
えっ、と私がいうか言わないかの一瞬にして、コレーはアクセル全開にした。
振り落とされたらたまったもんじゃないから、不本意ながらも私はしっかりとコレーにしがみつく。
そして、本当に光の速さで私たちはゴブリン屋敷の一角に飛んで帰ってきた。
Twitterにて、こん先生とのコラボイラスト公開中☆
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