召使いゴブリンの正体。
召使いゴブリンがフワッと浮き上がり、月明かりだけで照らされていた部屋の中が白い光で満たされる。
──バサッ
眩しさに目を細め、召使いゴブリンを見ると、その姿はみるみる変化していき、ゴブリンの姿を解いていった。
「お、お前!!!」
細めた目の隙間から捉えた大きな羽。
金髪に碧眼という、世に言うところの美少女。
豊満な肉体は既にゴブリンの形では無く、人と同じ形となっていた。
こいつに対する私の感情は様々あるが、今は“なんでコイツがここに?”という疑問が1番大きい。
驚きを隠せない私を見て、如何にも出し抜いてやった感満載の憎たらしい笑みを浮かべるそいつは、前世の私を殺し、女嫌い克服のための荒療治と題して呪いをかけやがったロリコン変態鬼死女神──コレーだった!
「久しぶりね。
だけど、いくら久しぶりだからって、こんな美少女に最後まで気が付かなかったなんて、ダメじゃない?」
フワッと首を振り、髪を扇にすると甘い香りが鼻をかすめた。
「うるせぇ、そんなの気づくかってーの!」
「おかしいとは思わなかったの?
ゴブリンごときにこんな大規模魔法を展開する力なんてあるわけないじゃない。
あれだけの空間を長時間維持するのにどんだけ体力いると思ってんのよ。
あー肩こった、リリスちゃーん肩揉んでよー」
ため息を吐いたり、肩を鳴らしたりと忙しい奴だ。
「まて、」
しかし私はここで確認しておかなければならない。
「どこからがお前の作り話だ?」
「なにが?」
「なにが? じゃねぇ!
ゴブリンにあんなフィールドを展開する魔力なんて無いとしたら、ポッキーゲームがゴブリンの伝統文化だっていうのは嘘だろ!」
おかしいとは思ったんだ。
そもそもポッキーゲームなんて何の面白みもないゲームが日本以外にもあってたまるか!
もしこれが、ほぼ確定だがコレーの仕業だとするとポッキーゲームというクレイジーゲームを題材にしたのも納得がいく。
この変態は、女の子大好きのド変態だ。
ただ私たちで百合イベントの定番であるポッキーゲームをさせたかっただけに違いない。
「……てへっ、バレた?」
自分の拳をコツンッと頭上に持って行き、ペロッと下を出すぶりっ子に私がカチンと来ないはずはなく、
「ん?」
私はベッドからゆっくりと足を降ろし、満月が覗く両開きの窓へむかって歩く。
月がきれいですね。
ロマンチストなピュアボーイなら、そんな事を呟いてもおかしくないような夜。
窓を開けると、空気もひんやりとして心洗われる。
その新鮮な空気を大きく吸いこみ、私はそのまま……
「女神コレーはオジ専だぁぁぁぁぁあああーーー!」
──スパーンッ!
私が窓の外に向かって、ロリコン百合好きであることを誇りに思っている女神の本質とは全く正反対の内容を遠吠えのごとく月に叫んだ。
すると、この意外にも素早い変態は、ロケット発射の勢いで私のもとへ真っ直ぐ飛んできて、その美しい羽が散乱するのも厭わずに私に羽ハリセンを喰らわせた。
「なんてこと言うのよ、このボーイズラブ!」
「痛ってぇな! 何すんだよ!
ってか、私を変な呼び名で呼ぶんじゃねぇ!
私はBL守備範囲外なんだよ!」
数々の2次元における世界観を守備してきた私だが、BLだけは守備範囲外だった。
なら、GLはどうかと言うと、二次元嫁同士なら有りアリの有りだ。
「どーでもいいわ! そんなこと!
それより、よくもこの美少女趣味のコレー様をオジフェチと言ってくれたわね!?
万が一にもそんな評判が広まってしまったらどうしてくれんのよ!」
「自分で美少女趣味とか危ねえレッテル貼ってんじゃねーよ!
ってか、お前の事なんか誰も知らねぇんだから広まるも何も無いだろ!」
すると、コレーは呆れたように鼻から息を吐くと、やれやれと首を振った。
「あー、無知って怖いわね。
この数カ月、私の可愛いリリスちゃんは産みの親の事をこれっぽっちも知らなかっただなんて」
そして、ドスンと勢い良くお尻をソファーに沈めると、わざとらしく脚を組み、肘掛けに肘をついた。
すっごく偉そうだ。
「ふふっ。まっ、知らないのなら教えてあげるわ。
実はね、この世界の人々が信仰している女神様って私なのよ」
は?
「ほら見てみなさい、この金貨。
この世界の通貨の単位は何だったかしら?
500コレイのコレイって、女神コレーの名から採ったものなのよ」
今日は色々と衝撃的だった。
チュチュの壮絶な過去、それがこの世界を揺るがすロリモンスターを生んだこと、召使いゴブリンが実は女神コレーで、ポッキーゲームは真っ赤な嘘だったこと。
だが、今日1の衝撃かもしれない。
こいつがこの世界で崇められている?
え、こいつが?
この変態鬼死女神が?
「ははっ、冗談」
「本当よ!」
「ダメだ、もうお前の事なんか信用ならねぇ。
ポッキーゲームがゴブリンたちの伝統ゲームだとかいう大嘘ついた昨日の今日でアッサリ信用しろってのが無理な話なんだ。
分かったら本当に崇められている女神様の所へでも行って謝ってこい」
「ムキー! どうして貴方はこう頑ななわけ!?
貴方も私の偉大で膨大な魔法を体感したでしょうに!」
「はっ、それになんの意味があるって言うんだよ?
ポッキーゲーム自体、お前の作り話、偽物、大嘘、虚像だったじゃねぇか!
でっちあげたチュチュの過去を私に見せて、一体何がしたかったんだよ!」
ヒートアップした私たちの口喧嘩。
チュチュはそれにピクリとも反応せず、ぐっすり眠っていた。
けれど、私がチュチュの過去について触れた途端、コレーの表情が赤から青に変わるように変化した。
「チュチュちゃんの過去は……本当よ」
「なに?」
「だーかーらー、あの映像は事実なの」
まさか、1番冗談を期待するところだぞ?
これが真実なら、本当にチュチュは王族で、実験台にされてて、追われ身で、そして何よりこのローリアビテの半年前から始まった歴史のきっかけだ。
「嘘、だろ?」
私は冗談めかしく笑ってみせたが、コレーの表情は硬いままだった。
「私がこの世界で崇められていることは信用しなくてもいいわ。
けど、チュチュちゃんの事は信用してほしい。
私がポッキーゲームを仕掛けたのは、リリスちゃんがチュチュちゃんのことを知っておくべき時期になったと判断したからよ」