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チュチュの過去〜第3幕(最後の言葉)


 雷鳥の軌跡には何者も形をなさなかった。

 敵は一瞬にして全滅。

 遺骨も、灰すらも残さない。


 雷鳥が天高く飛び去り、重く厚い雲の中へと消え去るのをロリたち含め、私もただ呆然と眺めていた。


 しかし、ふと我にかえり、


 「リヒト……!」


 私とチュチュは同時に小さく叫んだ。


 横転した馬車の中で両膝を付いていた他5人のロリたちと上になった扉を開け、馬車から這い出す。


 力無く横たわるリヒトの傍らには、アーティがその手を握り、少し離れたところで007が立ち尽くしていた。


 「リヒト!」


 チュチュたちもリヒトのもとへ駆け寄った。

 馬車から離れると同時に、それぞれの体に封じ込められてきた、膨大すぎて制御しきれていない魔力に包まれた。


 「リヒト、リヒト!!」


 どこか遠くを見つめるような目をしたリヒト。

 その左肩から右脇腹にかけてはザックリと裂けており、傷口からにじみ出すだけでは追いつかない血液が口からも流れていた。


 「リヒト……いや、死なないで!」


 死にゆくリヒトの姿に絶望し、悲痛な叫びを上げ、涙を流し、狂ったように魔力のエネルギーを暴走させた。






 「…………ら…………………」



 消えゆく小さなかすれ声。

 だが、誰1人としてその声を聞きのがす者はいなかった。


 「リヒト!!!」


 ロリたちは一斉にリヒトに注目する。

 呼吸は浅く、虚ろな目は焦点が合っていなかったがまだ息がある。


 「……回復魔法、006!」


 アーティが青緑色の髪のロリを呼ぶ。

 006は、他のロリより大きく魔力を乱れさせ、悲痛な叫びを上げていたロリだ。

 病的と言えるほど大きく目を見開いていた。


 皆の注目が006に向き、006はカチカチと歯を鳴らした。

 この状況でお呼びがかかり、混乱しているのだろう。


 「かいふ……か、かいふく………ボク………が……リヒトに回復…………」


 誰だってそんな状況に身を晒されれば取り乱すか思考が停止するのも無理はないが、私が観察してきたにあたって、この006はかなり心が弱いタイプのロリだった。


 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。


 「006!」


 アーティが怒るように呼ぶ。


 それに喝を入れられた006は我にかえったのか、驚いた反射なのか、急激に膨大な魔力を練り上げた。

 柱のように高く上がった薄緑の魔力は竜巻のように渦巻き、それを発生させている006も制御しきれていない。


 その中には回復魔法を含まれていたかもしれないが、明らかに別の魔法スキルも含まれてしまっていた。


 だが、本からの知識でしか自分たちの魔法の本当の使い方を知らないロリにいきなり高度木魔法術をさせるのは酷だった。

 誰も006を責められなかった。


 「ちが…………ボク、ボクは………あれっ…………回復魔法……どうやるの…………回復魔法、回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法回復魔」


 「黙れ!!!」


 パニックになる006を走ってきて叩いたのは007だった。


 「うるさい! もういい、あんたなんかにリヒトは救えない!救われたくない!」


 006は叩かれた衝撃で地面に倒れ、停止した。

 それを水色に黄色のグラデーションのロリ、004が助け起こす。


 「あんた、なにしとんの!」


 004が助け起こしながら007を睨む。


 「あたしがリヒトを助ける! だからどいて!」


 アーティに代わってリヒトの手を握る007。

 しかし、火魔法の使い手である007に当然リヒトを救う手段など無い。


 けれど、007はその場を一歩も譲らない。


 「リヒト……リヒト……」


 ただ小さく、リヒトの名前を呼び続けることしかできない。


 「お前……たち、」


 「リヒト!」


 生きも絶え絶え、辛うじて聞こえるリヒトの言葉。

 ロリたちは必死に耳を傾ける。


 「よく……聞け……」


 きっとこれが最後の言葉。

 分かっていても認めたくない。

 認めたくないが、ただ聞くことしかできない。


 「うん、なに……?」


 「『サンダーバード』に、魔術を……あと数分したら、お前たちは……それぞれ用意しておいた迷宮に……」


 「めい、きゅう……?」


 聞きなれない言葉にロリたちは首を傾げる。


 「そう、だ……そこなら……私がいなくても………お前たちを守ってやれる………これが最後……」


 「やだよ、リヒト。

 最後だなんて言わないで……」

 

 リヒトは笑った。

 その優しい笑顔はロリたちに全てを悟らせた。


 「最後に……ずっと用意していた……名前……もし私を親のように慕ってくれていたのなら……もらってくれ………」


 リヒトはずっとロリたちを番号で呼んでいた。

 ローリアビテにおいても、名前は親がつけるものだ。

 リヒトは自分がロリたちに親として認められるまで、名を与える事を躊躇っていた。


 もしロリたちがリヒトを認めていなかったら、もらった名を嫌がるだろう。

 だが、名を与えた本人の前で名を捨てることなどできない。

 だからリヒトは、自分がいつか死ぬと分かっていたからロリたちに迷宮を用意し、自分が死ぬ直前にロリたちに名を与えるのだ。

 

 「要るに決まってるじゃない!

 ずっと、あたしたちはリヒトから名前を貰うことを待ち望んでいたのよ!」


 007の言葉に、リヒトは一瞬驚き、安堵の表情に変えた。

 なにも恐れることなどなかったのだ。

 もっと早く名前をあげればよかったと。


 「そうか……よかった……1人ずつ、順にきてくれ………」


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