チュチュの過去〜第3幕(008と007)
場面は昼。
リヒトは村へ買い出しへ行っていた。
私は食べられないポッキーをガジガジしながら、すっかり平和ボケしてしまったロリたちを眺めていた。
って、私は日曜日のロリコンオヤジか!
そんなことは決して無い!
「008、あんた最近リヒトと毎晩何してるのよ」
と、私がくだらないこと……いやいや、重要なことについて訂正を誰へでもなく述べたところで、水色に燃えるような赤髪が混ざったロリがチュチュにケンカでも吹っ掛けるように話しかけてきた。
最近、表情豊かになってきたロリたちは、それに加えて性格や話し方まで個性が出てきた気がする。
それは、リヒトが暇つぶしにと与えた本などの影響だろう。
そして、この赤髪混ざりのロリは、少し気が強いように思われた。
確かこいつは007だったな。
「ん?」
「ん? じゃなくて!」
けどまぁ、チュチュのこの腑抜けた態度。
私はもう慣れっこだが、合わない人には合わないだろう。
たとえ実の姉妹だとしても、こいつらはずっと離れ離れでいたのだから他人も同然だ。
007はチュチュと少しそりが合わないようだ。
「あんたが夜な夜なリヒトと会ってるの。知ってるのよ! 何してるのよ、言いなさい!」
しかし、チュチュは応えない。
応えたくないのではなく、私が思うに、おそらくリヒトの言葉が原因だと思う。
リヒトは、眠れないチュチュにココアフロートを飲ませた。
リヒトはそれを、みんなには内緒だと言ったのだが、チュチュはどこまで内緒にしていいのか分からず、何も話さないのだろう。
チュチュは、あー。だの、んー。だの音を発するに過ぎなかった。
その態度に苛立った007は地団駄を踏んだ。
「あたしの方があんたなんかよりずっとリヒトにふさわしいのよ! わかる!?」
子供が子供らしく声を荒げ、感情をむき出しにして喚きたてる。
水色の瞳に宿った赤色は、炎のようにメラメラと燃えているようだった。
その剣幕にも、チュチュはただ首を傾げるだけで、周りにいるロリたちの方が気圧されてしまっている。
チュチュは何も応えず、007はついに、
「もういいわ」
諦めたようにそう言った。
こんな奴に怒りをぶつけても時間の無駄だと思ったのだろう。
しかし、それは私の大きな思い違いだった。
007は再び声を荒げ、
「あたしの方がリヒトにふさわしいって、見せてやる!」
吐き捨てるように007は叫んだ直後、リヒトの部屋へ駆け出し、リヒトの魔剣の1つを取り出してきた。
周りのロリたちが息を呑み、アーティが制止にかかる。
が、間にあわない。
007は魔剣で外へと続くドアの鍵穴を突き刺してしまった。
突進した勢いのまま、007は隠れ家の外へ飛び出した。
途端、007の魔法を封じ込める力が解き放たれ、007の体はチュチュへの怒りを体現するかのように業火に包まれる。
「戻れ! 007!」
アーティが隠れ家の外、007に向かって叫ぶ。
「戻らない! あたしはこのままリヒトを向かえに行く。
008やあんたたちはそこに居なさい!」
隠れ家の天井には、あらゆる魔法をシャットアウトする強力な魔法陣が描かれていた。
つまりその中にいればロリたちの魔力は封じ込められ、敵に感知されることもない。
だが、ひとたび隠れ家の外に出てしまえばロリたちの魔力は解放され、ロリは魔法が使えるようになるが同時に敵にも感知されてしまう。
「みんなはここにいろ!
私は007を追う。
リヒトが戻ってきたらこの事を伝えておいてくれ」
アーティが的確な判断でロリたちを統制し、自分も隠れ家の外へ出た。
すると、アーティから黒いモヤのようなエネルギーの塊があふれ出した。
そしてアーティは、まるで竜のように火を吹きながら村へ向かう007を追って山の木々の間を駆け下りて行った。




