チュチュの過去〜第3幕(チュチュの正体)
「信頼を築くには、まずは自己紹介だな。
私はユーリシア・リヒト。
王国騎士だ。
……と言っても、今日の夕方までだな。
これで私も立派な犯罪者なのだから」
冗談のつもりなのか、薄っすら口角を上げるピンクの騎士ことリヒト。
だが、現場の空気はなかなか解れない。
リヒトはコホンと、軽く咳払いをし、再び話し始める。
「君たちを誘拐したのにはワケがある。
君たちは、あそこに居るべきではない。
失礼かもしれないが、君たちは人として扱われていなかったね。
それが私にはとてもじゃ無いが許せなかった」
リヒトは膝に乗せた拳をギュッと握りしめる。
強い怒りの現れなのだろう。
拳に青筋を立て、唇をぎゅっと噛みしめている。
「私は王国騎士の中の一等騎士といって、様々な仕事を任せられていた立場にあった。
そして、ある日王宮内で君たちの存在をたまたま知った。
最初は少しの違和感を解消するためだった。
まさか、国王自らが自分の娘たちを実験台に、禁断魔法の開発を手掛けていたなんて夢にも思わなかったからね……」
映像の中の空気が張りつめた。
そして、私にもその緊張感の波は押し寄せた。
今なんて言った?
私の背中に嫌な汗を感じる。
ポッキーが魔法で口から離れないようになっていなければ、咥えたポッキーを口から落としてしまっていたことだろう。
「チュチュが、国王の娘……?
禁断魔法の実験台……?」
意味がわかんねぇよ。
だってチュチュは、貧民どころか国王の奴隷で、だからあんなにガリガリで軟弱で世間知らずで感情も薄っぺらで……
……いや、それは私の決め付けだ。
ガリガリなのはずっと実験台にされていたから。
保存用の液体に浸けられ、食事だって与えられている映像は記憶にない。
ずっと金魚鉢の中、外に出るときは魔法陣に閉じ込められ、縛られ、目隠しされ、荷台で運ばれるのみ。
筋肉なんてつくはずもない。
毎日毎日、死体が運ばれて来るだけの真っ白な部屋。
テレビもラジオも新聞も本も漫画も何も無い、窓すら無い白いだけの部屋。
そんな情報の閉ざされた空間で育てば世間知らずになるのも無理はない。
むしろ、外の世界なんてものが有るのかすら知らなかったかもしれない。
世界は白いだけの部屋と汚水の王がいる部屋のみ。
感情など育つ余地すらなかった。
つまり、私はとんでもない勘違いをしていたということだった。
「そんなことが許されて言い訳がない。
たとえそれが国王だとしても。
だから、私は私の正義感に則って君たちを誘拐した。
勝手かもしれないが、私は必ず君たちを幸せにする。
だからどうか、私のわがままに付き合ってくれ」
騎士は両手を今度は両膝にぐっと押し付け、頭を下げた。
だが、やはりロリたちは誰一人として口を開かない。
いや、確かにツッコミどころは多いが、例えば「正義感に則って君たちを誘拐した。」とか危険すぎるワードだし、「必ず君たちを幸せにする。」とか、複数人にむけての告白かよ!だし、初対面の人のわがままなんて聞いてやる言われは無い。
だが、私も含め、常人ならみなチュチュたちの境遇は人にあってはならない、人間らしくない扱いをされてきた。
騎士は正しい。
誰もが彼の正義感と行いに歓声をあげるだろう。
……ってか、ロリたちよ、さすがに何か言ってやったらどうだ?
ずっと頭を下げさせて、ちとリヒトが可愛そうだぞ?
「あぅ……」
ようやく、ロリの1人が口を開いた。
えっ、開いた。が、言葉は?
「まさか、こいつらマトモに言葉が話せないんじゃ……」
私の予感は的中だった。
情報を一切遮断されて育てられたチュチュは、恐らく同じように育てられたロリたちも、言葉など教えられてこなかったし、習得しようにも第1幕、第2幕を見る限り手掛かりが少なすぎる。
ってか、今思い出したが、このロリたちみんなチュチュの姉妹ってことか!?
そういやぁ、みんな水色系の見た目でちゃんと顔立ちまでは確認していないが似ている気がする。
それに、さっきハッキリとリヒトが、王の娘“たち”と言った。
チュチュは8人姉妹だったのか……っつっても、お互い初対面らしいがな。
そして話は戻すが、チュチュたちは言葉を知らない。
それを悟った私同様、リヒトも背中を下げたまま顔だけ上げ、唖然としていた。
まさか言葉まで話せないとは思っていなかったのかもしれないが、当然といえば当然だろう。
「よ、よし分かった。
これからは、君たちに人間らしい生活を私が保証し、君たちに言葉を教えよう」
そう言って背筋を伸ばしたリヒトは、先ほどとは違った意味で拳を握りしめた。
映像がコテンッと斜めに傾き、チュチュお得意の首かしげの角度になった。
暗闇の森の中で、青白い満月の光が差し込み、リヒトにピントが合っていく。
チュチュがリヒトを目で捉え、ようやくその顔をハッキリと認識する。
月を映し出した瞳はピンクに、キラキラと輝き、男なのにどこか中性的で、ピンク色のキャラクターはみな同じように見える現象の効果のせいか、私の面影を感じた。




