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「-矢車亭-」

 大陸各地から、ありとあらゆる人と物が集まる商都・ハルムザード。

中央通りから一本外れた路地の一角に、矢車亭という名の宿屋があった。

店主が元冒険者という事もあってか、客もやはり冒険者が多い。そしてそんな冒険者達への依頼を抱えてやってくる者もまた、多いのであった。


 ドアのベルが響く時、新たな矢車亭の物語が始まる。ほら、今日も、また……



 「あーっ、腹へったぁー!!」

そんな切実な叫びと共に、やや乱暴にドアを開けて入ってきた少年が一人。

「焦らない焦らない、まずは注文しなきゃ」

後に続いて、のほほんとした風情のローブを着た青年が苦笑しながら入ってくる。

餓えた少年は素早くカウンターに目をやり、奥の厨房で鍋を振っている店主の禿げ頭に声をかけた。

「おっす、親父ィ! 腹へったから肉食わしてー」

「わかったからまずは座れ」

調理中の親父が振り向き、呆れたような顔で店内の席を示す。

「あ、俺肉ね! 肉。肉なら何でもイケルから」

「本当に肉好きだね~君は。食べるの見てると時々もどしそうになるんだけど……えーと、僕は普通にサラダとスープでいいよ。それとエール2個よろしく~」

肉の事しか頭にない少年に代わって、青年がしっかり自分の料理と二人分のエールを注文する。

二人が席に着いたのを見て一言

「おうよ」

と返事をし、店主は仕上がった料理をウェイトレスに手渡した。


 にぎわう店内をきびきびと移動しながら、ウェイトレスが酒や料理を運んでいく。

髪に飾ったリボンとエプロン紐が揺れる様をうっとり眺めながら、少年は呟いた。

「はあ~、ロジーナちゃんは今日も可愛いなぁ。あの禿げオークみたいな親父の娘とは思えん可憐さだ」

「親父さんに聞こえるぞ~。まあロジーナちゃんは僕から見ても可愛いと思うけどね~」

「ま、負けねーぞ!?いつかロジーナちゃんにコクって彼氏の座ゲットすんのは俺だからな!」

「うん?いいんじゃないの~。ライバルは結構多いみたいだけどねえ」

「オマエもだろ」

「いや、僕は妹的な可愛さについて述べただけだよ?」

「とかいってとぼけたフリして、密かに狙ってんだろ?」

「別にとぼけてないよ~。あ、ほら。料理きたよ」


 お盆にいっぱいの料理とエールを運んだロジーナが、二人の座るテーブルにやってきた。

矢車亭名物・安くてうまいボリュームたっぷりメニューが手際よく食卓に並べられていく。

「お待たせしました。クリフさんのお肉は、獲れたばかりの極上イノシシステーキですよ。ユベールさんには海草をふんだんに使ったハルムサラダと森ビーンズのスープを。それから……」

最後にロジーナは、ジョッキに入ったエールを2個、二人の目の前に置いた。

「追加の注文などありましたら、遠慮なく声かけてくださいね!」

そう言うと、サッと踵を返して他のテーブルへ注文を取りに行く。

翻るスカートを名残惜しげに見つめるクリフの横で、ユベールがさっそくエールに口をつけた。


「ところでクリフ、次の冒険はどうする?どこに行きたいとか、希望はあるの」

「おお!それそれ。実はさ、面白そうな地図を手に入れたんだ」

豪快にイノシシ肉を食いちぎり、クリフはポケットからくしゃくしゃになった地図を取り出してテーブルの上に広げた。ユベールがほんの少し眉をひそめる。

「あーあ、しわしわじゃないか。せめて折りたたむとかしないと、破れてもしらないよ~?」

「細かい事は気にすんなよ。地図なんて場所がわかればそれでよし!」

「そりゃそうかもしれないけど~。うーんと、ここから割と近い所の地図だねこれ」

地図のしわを伸ばしつつ、ユベールはハルムザードの位置をトントンと指でさす。その指は次に南東方向へ移動し、×印が書かれた場所で止まった。

問いかけを含んだ視線を受けて、クリフがニヤリと笑みをこぼす。


「ここに、何があると思う?なんと、古代の魔術師が住んでいたという洞窟だ!ここを探索すれば、魔術師が残したというお宝をゲット!できるかもしれないぜ」

「う~ん……それ、ホントなの?確かに事実なら魔法の品のひとつやふたつ見つかるかもしれないし、僕としても興味はあるけど。そもそもこの地図、どこで手に入れたの?」

「古道具屋で激安特価」

「メチャクチャ怪しいよ!さすがの僕でもツッコんじゃうよ」

「ま~とりあえず行ってみようぜ。何にもなくても、冒険気分は味わえるって」

「ふ~……仕方ないなあ。せめて珍しい本でも見つかればいいんだけど」

「よし、そうと決まれば早速腹ごしらえだ!ステーキお代わり追加ァ!」

クリフが店中に響くほどの大声で高らかに叫ぶ。

ユベールは苦笑混じりにため息をつくと、スープをひと匙口元へ運んだ。


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