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コウくんと私と遥斗

作者: ei

前半はほぼ思い出話です


幼い頃の私はただただ、面白みのない子だった。

表情の変化が乏しく、気も小さい。せっかく話を振ってもらっても会話が続かないから、さえちゃんってつまんないよねと言われることも少なくなかった。



そんな私がクラスのみんなと普通に遊べてたのはひとえにコウくんのおかげだった。


コウくんは太陽のような子だった。女の子も男の子も関係なく、コウくんはいつでもクラスの中心で、みんなコウくんとあそびたくて仕方がなかったのだ。


そんなコウくんがいつも私を誘ってくれるから、私はみんなと遊べていたし、仲間はずれにされることもなかった。


私もコウくんの前では笑うことも多くて、乏しい感情なりに、コウくんを独り占めにしたい。と思っていた。私ですらそうだったのだからほかの子はもっと思っていたに違いない。


そんな時だった。

さえちゃんのことが好きだよ。


呼び出されてコウくんに言われた言葉はなかなか私の頭が理解しなくて長い時間固まったままだったと思う。


震える声で、私も。と返事をした。


コウくんはにっこり笑ってくれて、二人で遊ぼ、と私の手をとって連れ回した。


それからは楽しくて楽しくて、お母さんに、明るくなったね、ボーイフレンドでもできたの?とからかわれてもちっとも嫌じゃなかった。


コウくんは私にお菓子についていた指輪をくれた。

結婚しようね、って言われて指切りして、私とコウくんはその時にはじめてキスをした。

ちゅっ、てコウくんの柔らかい唇が触れたとき、すごくドキドキして死んでしまうかと思った。



そんな風に浮かれてたから全然気づかなかった。

みんなが私のことどう思ってるかなんて。


朝、学校に行くと女の子に囲まれた。コウくんはまだ来てなかった。

さえちゃん、なんでコウくん独り占めするの?

コウくんはみんなのものだよ。

みんなコウくんと遊びたいのに。


みんな、厳しい目で見てた。

男の子も女の子も。

私はうつむくしかなかった。


睨んでくる目と視線を合わせるのは怖かったし、

私もずっと思っていたから。

コウくんを独り占めしたい、って。


クラスの中で、私は裏切り者だった。


その後すぐにコウくんが来て、私を囲んでいた女の子たちも何事もなかったかのようにコウくんの席に向かう。




その後から、コウくんとはろくに話もできなかった。


周りの目が気になってずっと避けていたのだ。

コウくんは変な顔してた。はじめて見た顔だった。

コウくんの瞳も私を咎めているように感じた。





結局、私はその年の夏休みを最後に父の仕事の都合で引っ越してしまった。

コウくんには連絡先も教えられなかったけど

あのことがあってから、コウくんと話すのが怖くなってしまっていたから、これでよかったのかもしれない。






♦️♦️♦️♦️♦️♦️


新しい学校では、私は害もなく利益もない存在としてクラスに受け入れられた。


コウくんのいない私はただのつまらないクラスメイトになってしまったから、みんなで遊ぶことはなかった。その代わり休み時間に図書室で本を借りて読んで過ごすことが多くなった。



そこで仲良くなったのが遥斗だ。

遥斗も私も多弁なほうではなかったので二人でいる時は専ら黙って読書だったが、それが居心地がよかった。


なにより、遥斗はクラスの中心タイプではなかったので安心して話せた。


私は人気者と話すことがトラウマになっていたのかもしれない。


遥斗と二人で行動することが多くなって、私たちの仲は急速によくなっていった。


コウくんといた時のようなドキドキはなかったけど、遥斗の隣は安心した。



中学に持ち上がりで上がってからも遥斗とずっと一緒にいたから私達が付き合い出したのも当然だった。


遥斗は背が伸びて俯きぐせをなくしたからか、もともと綺麗だった顔がぐん、と目立つようになってきて一時期騒がれた。


その頃には周りもみんな大人で変なやっかみを買うこともなくなっていたし、私と遥斗がずっと一緒にいたことをみんな知っていたから私が遥斗の隣を譲ることはなかった。







こうして私と遥斗、それからコウくんは高校生になった。


なんとわたし達だけでなくコウくんも同じ高校だったのだ。


コウくんが気づいたかはわからなかったけど、入学式で騒がれていたから私はすぐにわかった。


妙な縁だなぁ、とその時は軽く流していた。

まさかあんな事態になるとは思ってもいなかったんだから。








俺は昔から目立つ人間だったと思う。

小学校、中学校ともにたくさんの人に囲まれていたし、それなりにモテた。


今まで何人かと付き合ったけど、一人だけ俺の記憶の中に鮮烈に残っている女がいる。


さえちゃん。


あの頃、男子で名前を呼んでいたのは俺だけだった。

だから、彼女に呼びかけるとき、俺はいつも自分だけの特権と感じていたのだ。


さえちゃんはほとんど笑わないけど、面白い話をするとささやかだが微笑んでくれる。

その時俺は言いようのない高揚感を感じていた。


ほかの子とは違った。さえちゃんだけが俺の特別で、俺が笑わせたかった。


みんなで遊ぶとき、いつも誘った。

自分から喋る方ではなかった彼女はいつも控えめに座っていたから俺が引っ張ってあげないといけなかった。

それは自分だけに許された役割だと思っていたし、苦だとも思わなかった。


本音を言うと、みんなで遊ぶよりも、ずっと二人で遊びたかった。


だから、思い切って告白したんだ。

自信はあった。俺たちは言葉はなかったけど同じ感情を共有してる気がしたから。


だけどやっぱり彼女が私も、と言ってくれたときは安心したし、半端じゃなく嬉しかった。


それからはずっと二人で遊んだ。

周りの友達から誘われてもさえちゃんといること以上に魅力的なことだとは思えなかったから、全て断った。


貯めていたお小遣いで買った指輪つきのお菓子。

ピンクじゃなくて淡い水色のそれは、さえちゃんによく似合ってると思った。


さえちゃんに渡して、結婚の約束をしたら頬を染めて笑ってくれたから、その唇につい触れてしまった。ちゅっ、と音がして柔らかい弾力に押し返される。すごくドキドキした。


それからもっとさえちゃんに夢中になって、だから、気づかなかった。


周りの目なんて

気にしたことがなかったから。



突然、さえちゃんが俺を避けるようになった。

理由もわからない。尋ねる前に逃げられる。

許せなかった。俺のことを嫌いになったんだと思ったから。


さえちゃんはじっと見つめる俺を、怯えた目で見ていた。



さえちゃんが俺を避けていた理由を知ったのは、彼女が転校してしまったあとだった。


クラスで女子が話していたのだ

さえちゃんが転校したの、私たちがいじめたから?

いじめてなんてないよ!

そうだよ、だって、さえちゃんが、コウくん独り占めにするから………


俺はそれを聞いて許せなかった。

さえちゃんが俺を避けたのは、転校したのはあいつらのせいだ、とおもった


でも、自分が一番許せなかった。

さえちゃんに裏切られたと思って勝手に怒っていたのだ。


結局、女子たちに何も言うことができなかった。

さえちゃんを守れなかったのは俺だった。



先生に聞いたらさえちゃんが転校したのは親のお仕事の都合、らしかった。

それをきいて少し安心した。

連絡先は、教えてもらえなかった。



それからさえちゃんのことを忘れたことはなかったけど、ついに会えることはなかった。



だから、高校の入学式でさえちゃんを見つけたとき夢かと思った。

昨日ちょうど小学校のアルバムを見ていた。

さえちゃんのところをなぞってどんなふうに成長しているだろう、と想像していた。


想像より、ずっと綺麗だった。

儚くて、控えめで、ふとした笑顔が信じられないくらい可愛くて、ピンクよりも淡い水色が似合うさえちゃん。


キスをした時と同じくらい、胸がたかなった。



さえちゃんの隣の男。周りから騒がれてるから目を向けたらさえちゃんを見つけた。さえちゃんもその男もすごく目立ってる。


恋人のようだと思った。

そうじゃないことを願って、二人を見つめた。


友達にしては近い距離に心臓がはち切れそうだった。


入学式が終わったら話しかけに行こう。

彼女は俺のことを覚えているだろうか。

あの時のことを謝って、それで………








僕がさえに出会ったのは小学校四年生の頃だった。

さえが俺のクラスに転校してきたのだ。


皆でいるよりひとりでいるほうが好きだった僕は女子同士の仲のいいグループを作らず、一人で黙々と本を読むさえが少し気になっていた。


雰囲気がほかのこと違うと思った。

うるさくもないし、暗いわけでもない。

さえは静かだった。

透明なくらい、場の空気を乱さずにそこに存在した。


だから、図書室の読書スペースで二人きりになった時に思い切って近くに座ってみた。椅子をひとつあけた隣。


さえは一瞬こっちを見て、それから本に視線を戻した。

さえのスペースにいることを許された瞬間だと思った。


それからさえと僕はひとつあけた隣同士に座ることが日常になっていて、僕が先に座っているときはさえが定位置に来てくれた。


はじめて、さえからひとつあけた隣に座ってくれたとき、僕は生まれて初めてドキドキした。必死に本に視線を向けてバレないようにした。


さえとならどれだけの時間一緒にいても、わずらわしいと思わなかった。


次第にクラスのみんなからも僕とさえがセットで見られるようになって、それに比例して僕達が一緒にいる時間は増えた。


読書の時間だけから学校生活の時間に増え、更には休日もさえといるようになった。

二人でやることといえば専ら読書か、極まれに出かけた。それも本屋がほとんどだったが。


会話がなくてもそこに彼女がいるのといないのとはおおちがいだった。


中学校になるころにはほとんどの時間を共有していて、自然と付き合う流れになった。


さえがポツリと、付き合うのと付き合ってないのどう違うんだろうね、と漏らしたことがあるが、全然違う。


付き合うようになって、手もつなげるようになった。抱きしめられるようになった。キスも許されるようになった。


僕はそのたびにドキドキうるさい心臓を必死に抑えたが、さえは穏やかだった。

でもそれでもよかった。


遥斗のとなりが一番安心する


その言葉だけで十分だった。


さえと僕のあいだに大きないさかいやすれ違いなどはなかったが、一度だけ小さな喧嘩をしたことがある。


さえの家に行った時に見つけた淡い水色の指輪。

なにかのおまけでついてそうなプラスチックのそれが無性に気になった。


さえには淡い水色よりも白が似合う。こんなのはさえには似合わない。

なぜだかその指輪に反発を覚えた。


だから、これはどうしたのかとさえに聞いた。


さえは、転校してくる前の学校で好きだった子からもらった。と言った。

なんとなく、捨てられないし、と。


嫌だった。さえがそれをもっていることが嫌だった。別にさえがほかの男と喋ろうが嫉妬なんてしたことはなかったが、その指輪だけは持っていて欲しくなかった。


さえのスペースにあるのが許せなかった。


だからさえに捨てて欲しいと言った。

さえは困った顔で悩んでいる様子だったから、その時は捨てたくないならいい、と納得するふりをし、あとで黙って持ち帰った。


さえはそれに気づいていた。だから【コウくん】の話を僕にした。そして最後に言った。


その指輪、遥斗が持っていて。


それでようやく安心できた。【コウくん】が過去の男だと。



それなのに、高校で【コウくん】をみるとは思わなかった。


彼は思っていたよりずっとかっこよくて

そして目立っていた。


思わずさえの手を握る力を強めた。



大丈夫。彼は過去の男だ。

さえにとっては思い出にすぎないんだ。














「さえちゃん、久しぶり俺のこと覚えてる?」


入学式が終わってすぐ、コウくんが話しかけてくるとは思わなかった。廊下だし、コウくんも遥斗も目立つから視線を感じる。


「もちろん覚えてるよ、コウくんでしょ。久しぶり」


懐かしい。彼とまた会話をするなんて思ってなかった。


「あの時は本当にごめんね。気づいてあげられなくて」


コウくんも昔のことをはっきり覚えていたらしい。


「そんなの全然いいよ。あの頃は私も悪かったんだよ。コウくんに釣り合う努力もしなかった。」


勝手に逃げたのは私のほうだし、罪悪感を感じているなら申し訳ない。


くっ、と遥斗が私の袖を引っ張る。

遥斗をみると不機嫌そうな顔をしている。


最近特に嫉妬ぶかくなった。

遥斗の新しい一面が見れてちょっと可愛い。


「コウくん、私の彼氏の遥斗。転校先の小学校で知り合ったんだよ。」


「え、」


コウくんが目を見開いて固まっている。

私に彼氏ってそんなに意外かな?


「ヨロシク。…………行こう、さえ。」


遥斗に引っ張られてクラスに向かった。

私たちは同じクラスだ。


「じゃあ、コウくん。またね」


コウくんはなにか言いたげに私を見つめていたけど、気づかないふりをして別れた。




まさかあのあと隣のクラスからコウくんが走ってきて諦めない!と叫ばれるとは思わなかった。


それに機嫌を悪くした遥斗がいつも以上にベタベタするのも

それをみてさらにコウくんがやる気を出すのもどうしたら落ち着けられるのかモテた経験がない私にはまったくわからない。



「さえちゃん、あの時みたいな思いはさせない結婚の約束覚えてる?」

「さえ、危ないからそいつに近づかないで。さえは僕の彼女だ。」




騒がしい高校生活になりそうな予感はきっと的中するんだろう。



続きを書きたいです。

はじまりそうではじまってないですねすいません

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― 新着の感想 ―
[一言] 続き気になります! 連載でも連載しなくても、どちらでもいいので続き書いて欲しいです!!! やっぱり今彼の遥斗くんとそのままゴールインして欲しいなと思ってます(笑) さえちゃんにも一途でいてほ…
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