七話
「ぐほっ!」
車内に一人の少年の叫び声が響く。
「……痛いんだが」
頭部の痛みを抑えるように右手で押さえながら、その痛みの元凶である、横に座っている妹をにらむ。
「寝てるからでしょ!」
「肘で軽くゆするとか、そういう起こし方があるだろ!」
「やったけど起きなかったんだよ!大体、こういう状況で寝れるのがすごいよ!」
「ふっふーん、だろ?」
「いや、ほめてないんだけど」
あの後、あの場に数台の車が来て、戻ってきたお姫様のようなドレスを着ているエミリー=アーネルに乗るように促される。
断っても路頭に迷うだけなので、促されるまま車に乗る。
広い車内には、エミリーの横に長谷川という人がボディーガードのように座っており、向かいに俺と結衣が座っている。
窓の外を見ると、東京以上の高層ビルが所狭しと立ち並んでいる。
知らない街だな……と思いながら、再び睡魔が……。
「ぐほっ!」
再び痛みが……。
「寝ないの!」
「寝れるときに寝る、それが俺のモットーだ!」
くすくす……と、車内に上品な声が響く。
見ると、エミリーが口元に手をあて、本当のお姫様のように微笑んでいる。
「エミリー様、どうかされましたか?」
「いえ、何でもないわ」
「……?そうですか……」
首を傾げながらも、これ以上聞いても意味がないと感じたのか、こちらを見てくる。
「あのー、何か?」
「いえ……」
「……もしかして、俺のことが好きになったんですか?」
「違います」
「まったく、お兄ちゃんはそんなことばっかり……」
「夢くらいもっていいだろ!」
「それを口にするからダメなんだよ!」
モテたい……そう思うのは、罪なのだろうか。
いや、俺は一人の男としていつまでも思い続ける。
モテたい……と。
「相変わらずね……」
エミリーがぼそりと呟いた。
だがその声は、誰にも聞こえなかった。
「なんだあの建物!」
一時間近く車に乗りやっと止まった先には、天に届かんとするほどの高さのビルが建っていた。
「あれが、反逆者討伐部隊日本支部です」
いつの間にか車から降りて俺の横に立っていた長谷川さんが、なぜか誇らしげにそういった。
反逆者って何だろう……と思いながら、あとで教えてくれるだろうと思い、ビルの中に入る。
「こちらでお待ちください」
クラスメート全員が入っても狭さを感じない、広々とした部屋に通される。
長谷川さんとエミリーは部屋から出ていった。
んっ?そういえばなんで俺はエミリー=アーネルのことをエミリーと呼んでいるのだろう。
素朴な疑問を抱きながら、一人掛けのソファに座る。
この部屋には一人掛けのソファが数十個置かれており、部屋の奥は床が一段高くなっていて、重厚なつくりの机といすが置かれている。
「お兄ちゃん、私たちどうなるんだろう」
先ほどまでの態度と一転、弱々しい口調で言ってくる。
見ると、遥と美咲も同様だった。
「さあな、俺も何がどうなってるのか把握できてないしな」
「そう……だよね」
俯く結衣。半分、泣きそうな顔をしている。
「でもまあ、俺にはなんの力もないけどさ、お前らを守るくらいのことはするよ」
「「「――――っ!」」」
顔を真っ赤にしてうつむく三人。
……ふっ、惚れたか。いや分かってますよ、そんなはずがないことは。
でもやはり、夢くらいは持ってもいいと思うんだよ!
「随分かっこいいことを言われますね」
「うお!びっくりした!」
いつの間にか俺の横に風音詩織がいた。
「私のことも守ってくれますか?」
「……いや、お前は必要ないだろ」
「女の子ですよ」
「女が弱いという考えは、今の男女平等を目指す社会の流れにおいて最早無意味。都合のいい時だけ私は女だから……という考えは俺に通用しない!」
「ケチですね」
「……でも、おまえが本当に危ないときは助けてやるよ」
「……ありがとうございます」
ここで恋愛イベントが発生しないのが、モテるやつとモテないやつの差だよな……。
まあ、助けるといってもそれほど大した力は俺にはないのだが。