二話
今は四時間目の授業中だ。
そして俺は屋上にて授業をさぼり中。
いや、「なにさぼってんだ!」って思った奴いるだろ。
よく考えてくれ、俺は二年生の学習内容すら勉強してないだろ。三年の学習内容がわかるわけない!!
むしろ三時間も真面目に授業を受けていた俺をほめてほしい。
二次関数?相似条件?三平方の定理?
何それ、おいしいの?
というわけで、三時間もの過酷な授業を受け熱暴走寸前だった頭を冷やしている。
屋上に吹いてくる冷たい風が心地いい。
その気持ちよさに身をゆだねるように横になり、そのまま夢の中へと落ちていった。
「……ちゃん……お兄ちゃん!」
「んっ……」
「やっと起きた!いつの間に教室から抜け出したの?もうお昼だよ!はい、お弁当」
そういって結衣が弁当を俺に渡してくる。
「げっ、もうそんな時間か!」
「もう、探したんだからね!」
「わるいわるい」
口だけの謝罪を述べながら弁当箱を開ける。
中にはウィンナーや卵焼きが入っている。
「普通だ……」
「……?どうかした?」
「いや、何でもない」
口に出てたか、危ない危ない。
それにしても、普通の弁当を普通だと思うことに違和感を覚える。
いや、妹の料理はおいしいし文句はないんだよ、うん。
とりあえず考えることを放棄して弁当を食べる。
それを確認したのか、結衣も食べ始めた。
「なんだか平和だな」
「急にどうしたの?お兄ちゃん」
「いや、退屈だなーって」
「授業にきちんと出てたら退屈じゃなかったと思うんだけどな――」
黒い笑みを浮かべながら言ってくる。
一目でわかる、これは……やばいと。
「いや、あれは意味が分からない。そもそも一年間の学習が抜けている俺に対しての学習面でのサポートを怠っているこの学校が悪い!」
「責任転嫁!?」
「どこがだよ!まったくの正論だ。なに、この学校は生徒を放置するの?そういう対応がこの学校のやり方なのか!確か入学式の時にもらった学校紹介のプリントには、『我が校は、生徒一人一人に寄り添い、真摯に向き合うことをモットーとしています』とか書かれてただろ!あれは嘘か、嘘なのか!?」
「三年前のことを、よく覚えてるね」
呆れ顔で言われる。
そんなことを言っているうちにチャイムが鳴る。
「お兄ちゃん、五時間目の授業はきちんと受けてもらうよ!」
「……善処します」
「お兄ちゃん!」
「わかりました!」
「よろしい」
満面の笑みを浮かべながらそう言った結衣。
「……そういえば」
「なに?」
「お前、パンツは白なんだな」
「――っ!」
顔を真っ赤にしてスカートを押さえる結衣。
そう、先ほど俺を起こしている際に結衣は俺の頭付近に立っていたので、下からパンツが丸見えだったのである。
「確かにパンツは白が清純だというイメージがあり、俺自身も悪くはないと思っている。だが、白は汚れが目立つ。ならばここは色付きパンツのほうがいいのではないだろうか。しかし、黒や赤は過激だという考えがあるのも事実。そこで俺はお前の兄として、桃色と黄色、青色をおすすめする。この三色はパンツの中でも……」
「お兄ちゃん……」
「あれ、妹よ、そのこぶしは何だ?なぜ俺に向かってくる!」
「ばか――!!」
「ぐはっ!」
薄れゆく意識の中、俺はこんなことを考えていた。
――――パンツは、平和の象徴だと……。
――知らない天井だ。
目を覚ますと白い空間に……ではなく、保健室らしき場所のベッドの上で寝ていた。
「やっと起きたの?」
傍らから声がかけられる。保健室の先生だ。
「えっと……お疲れ様です」
とりあえず、そういっておく。
「はいはい、ばかなこと言ってないで早く教室に行きなさい。もうすぐ五時間目が終わるわよ」
「あれ、俺なんでこんなところに……」
ふと、頬が痛むことに気付く。
「――っ、あ、確か結衣に……」
男をパンツ一枚……パンチ一発で気絶させるとは。
妹のパンチの威力に戦慄を覚えながら教室に向かう。
保健室から教室に戻っている途中に、五時間目終了を告げるであろうチャイムが鳴った。
教室につくと全員体操服に着替えていた。六時間目は剣道をするらしい。
「あ、お兄ちゃん大丈夫?」
俺が教室に入ると、それに気付いた結衣が寄ってきた。
「何が大丈夫?だ!お前のせいだろ!」
「お兄ちゃんが変なことを言うからだよ!」
「へ、変なことって……颯太さん何をしたんですか?」
近くにいた美咲が顔を真っ赤にして聞いてくる。
ここで、俺にあるスイッチが入った。
「あれ?美咲さん、顔を真っ赤にして何を想像したんですか?」
「え、その……」
両手を顔の前でふり、何かを否定するかのようなそぶりを見せる。
「その……何ですか?」
「何でもありません!」
「何でもないことはないでしょう。こんなに顔を真っ赤にしてどんなことを想像してたのやら……」
にやにやしながら美咲を問い詰める。
「ぐほっ!」
突如、頭に衝撃が走る。
「……妹よ、お前は兄を殴るのが好きなのか?」
「お兄ちゃんがセクハラするからでしょ!」
「何事も暴力で解決しようとするのはよくないぞ」
「セクハラもよくないでしょうが!!」
……すいません、出来心です。
しかし、反省も後悔もしていない!
颯太が結衣や美咲たちと仲良く話しているのを、教室の隅に座っている男子生徒が忌々しげに睨んでいたのに、颯太は気づかなかった……。