王都 3
(5)
昨日はマグダさんの店を出て、街の東を探索した。
結局は住宅街である。市場や商店などは見当たらず、住人も街の南部にある商業地区にまで買い物に出ているようだ。現代人の俺からすれば、2km以上の距離になる所もあって、コンビニがはやりそうだと思ってしまった。
その北には、つまり王都の東北にあたる地域は、柵で覆われている。
王室管理の森林が広がっていて、中には王立の騎士団駐屯地もあるそうだ。戦略的な重要地点で、王宮のある丘に次いで高い場所にあり、中は覗き込めそうに無い。
しっかりと、一定時間に見張りの歩哨も柵沿いを警護している。
見るべきところも無さそうなので、商業地区に戻りゆっくりと夕食を食べた。まわりの会話を盗み聞きして情報収集をした。何気ない人の会話も知らないことが多く出てくる。やはり、人の話を聞きまくることの重要性は高いと感じた。
で、今日は朝からカフェ巡りだ。
1件目で朝食にサンドウィッチみたいなパンを食べたが、スパイスが効いてうまかった。さすがは王都なだけあると思ったが、値段も高かい。コーヒーと合わせて120£(約2400円)もした。
会話を盗み聞きするために、本でも読んでいるふりをしたいのだが、本屋が無い。商業地区は小路をや路地もほぼ回ったはずなのに無い。そんなものなのか?
ウエイターに聞いてみると、王都中心部である城壁内あるそうだ。ギルド本部でもらった地図で場所も教えてもらった。今から行くには時間が中途半端なので、マグダさんの店の帰りに行くことにしよう。
太陽の高さから【計量測定】をかけ、時間は11時23分と知る。時計などという便利なものもこちらでは見たことが無い。広場のようなところに日時計はあったか……
文化レベルが上がらない理由は、科学の代わりに魔法があるからだと思っていた。しかし、人の住む中心部にまで来てわかったことは、「移動」だ。
馬、馬車、歩きしかない。船はあるが、水上輸送というのが無い。先日見たように大きな河には化け物のような魔物がいる。海などは想像も出来ない。
人は(自分でも超えたが)、2000m級の山なら意外と通行できるものだ。それ以上高いと寒さへの対策が無いと無理だ。しかし、最大の難点は魔物たちだ。高い山々はマナ・スポットになり易い。当然周りには樹海もできる。ふつうの人は移動できない。
山、川、海で人の世界は分断されている。
当然のように人の行き来がかなり制限される。
文化・文明とは情報の交換。これが一番大事だ。
情報の交換は欲望を生み出し、それをモチベーションとして発展が見込まれるのだ。「移動」と言ったが、「情報」と言ってもいいのかも……
またも、益体も無いことを考えてしまった。
あと、1時間半ほど街を杖でも見てまわろう。せっかく杖を【鑑定】出来るようになったのだから。
50本ほどめぼしいものを【鑑定】して見て周り、気付いた。
マグダさんの店は別格だ!
「こんにちわー、もういいですか?」
マグダさんの店に来た。
店の奥から声がする。
「奥の部屋まで来ておくれ」
遠慮せずに昨日通された奥の部屋に入った。
「ちょいとこの絵を見ておくれ」
自然な手つきでイスに座らされ、テーブルに広げられた図面を見せられる。手書きの細い剣のような絵がある。
「試作品のスケッチじゃ」
「これが杖ですか?」
(太いアイスピックにしか見えないが)
「そうじゃ、原寸大で書いてみた。
中はマナを通すために樫の木の細い杖を芯として、
先端はミスリルで強化しての。
ミスリルなら効率は下がるがマナは通す。樫の木の半分ほどはな。
じゃからミスリルは薄くする。
で、それから全体を鋼でくるむのじゃ」
「成る程…… この先の模様はなんですか?」
「そこじゃよ、そこは鋼では無く、
ミスリルが表面に現れるようにしておるのじゃ。
鋼は先端から 1ディジィット(約1.5cm)あって、
そこからが1ディジィットは4本の柱で支える。
4本の柱の間がミスリルになっておるのじゃ」
「じゃ、そのミスリル部分を回転させて結晶にあてればいいのですね。
で、ミスリルから樫の木の杖を通って、柄の部分にマナを通す」
「そうじゃ、しかし柄の部分は手で握ってマナを通さねばならん。
だから、芯を通ってきた杖と一体の樫の木のままなのじゃ。
柄と杖の部分の強度がどうなのかがわからん」
「刺す部分の全体を鋼でくるむと言ってましたが。
その一部を柄にまで伸ばせばいいのでは?」
「ふ~む。そうじゃのう……それで強度は保つか?
こんなものはなんせ造ったことも考えたことも無いからな」
「殺して動かない魔物に刺すだけなので、
大丈夫なように思ったりもしますがね、大事に使いますし」
「勿論じゃぞ、ナイフのように敵の攻撃を受けたりはするなよ!」
「分かってますって!
それよりこんな細工は出来るのですか?」
「王都一の鍛冶細工師のドワーフに頼む。
アタシとは50年の付き合いの腕の確かな男じゃ、
造るだけなら心配いらん。使える道具なのかどうかが心配なのじゃ」
「使えるかどうかは僕の問題ですし気にしないで下さい。
【魔力探査】で結晶の場所はほぼ分かりますし、
肋骨の間を刺すまでが固いですけど、魔物も体の中は柔らかいです。
箸で内臓をつつくだけですから……」
「お主、今【魔力探査】で結晶の場所が分かる。そう言ったか?」
「はい、それが?」
「お主自分の言ったことの意味が分かっておるのか?
結晶はマナを閉じ込めて安定しているから結晶なんじゃぞ。
それがサーチできるとはどういう意味じゃ?」
「マナの流れがマイナス……マイナスって分かりますか?」
「なんじゃそれは?」
「う~ん……結晶はマナを吸収するじゃないですか……」
結局1時間近くマグダさんに説明することになった。アクティブにこちらからマナを広げてマナの反射を調べる【魔力探査】ではなく、マナそのものが発する電磁波でもないが、あえて言うなら気配?をパッシブに感知するやり方を……
発想が無かったからなだけで、マグダさんレベルなら出来るようになると思うのだが、しつこく聞かれて少しうんざりした。
気が済んだのか、お茶を出してくれて、杖の話に戻れた。
柄にはめる結晶の大きさや、それを隠せるようにする要望とか、腰のナイフと2本差しにする形態など細かいところを詰めた。
値段は材料費は実はあまりかからない。ミスリルも使うが、少量なので金貨3枚だ。しかし、加工賃が2倍と言うことで金貨9枚(9万£=約180万円)になった。試作品であって、これでも格安には違いない。
マグダさんも収集用魔力結晶を850万£を見ているので、俺は金には困っていないと判断したのであろう。
しかーし!貧乏性の俺はさっそく狩りをする気満々になった。
貯めた金で杖は十分買えたが、収集用魔力結晶はあくまで回復魔法を覚え、そのスキルアップ用のものだ。今日も【鑑定】でMP100以上を使った。
考えもある!
俺の気持ちはさておいて、本屋のことや魔法を教える学校みたいなものがないか聞いてみた。
本屋はやはり王都でも1件しかないらしい。魔法に関する本は碌なものが売っていないとか……詳しいことは知らないらしい。
学校については、なんと学校がそもそも無い。彼女は師匠から直接習ったのと、実戦で身に着けたらしい。
平民や自由民は、12歳まで子ども扱いで親の手伝いをしながら育ち、13歳から3年間は町の子は徒弟制度で働く。村の子どもは長男は家の農業を手伝い、次男以下は町に出て手に職をつけるか、冒険者になって小銭を貯めて村に戻る。お金があれば新しく農地を開墾して一家を構えられるそうだ。
貴族や大金持ちは家庭教師に習う。
で、世の中にあるのは、神学校という学校ではなく要は宗教機関と、国の仕官した貴族や官僚の研究機関である魔法大学のみだそうな。
気軽に入って「魔法教えてください」なんて出来そうも無い。
10日後に杖を取りに来る約束をして店を後にした。
(6)
夕方にまでは少し間がある。本屋に向かうことにしよう。
マグダさんの店を出て、東の城門を目指す。
途中、騎士団の一隊12人とすれ違った。
なかなか勇壮だ。規律も行き届き、隙も無い。2列の縦隊も通行人の邪魔にならぬよう進んでいる。明らかに「コイツらは強い」
道端に寄って、縦隊の通り過ぎるのを待つようにしながら、先頭二人のステータスを【鑑定】してみた。
【?・?】
ヒューマン ♂ ??才
状態:健康 総合:?
HP:106 MP:63
筋力:13
敏捷:10
耐久:11
魅力:??
魔法スキル:?
一般スキル:剣術LV?
【?・?】
ヒューマン ♂ ??才
状態:健康 総合:?
HP:98 MP:58
筋力:11
敏捷:12
耐久:11
魅力:??
魔法スキル:?
一般スキル:剣術LV?
間違いなく手錬れだ。敏捷、MP以外の数値は俺よりも高い。
回避能力で負けることは無いだろうが、剣術レベルはどうなのだろうか?
二人同時に相手すると、勝ち目は低そうだ。
樹海なら勝てる。
しかし、自分に有利なフィールドがいつも用意されるわけでない。逆に隠れるところも、木も何も無い所ならどうだろう?回避の効率が下がりそうな……例えば、砂漠なら……
二人は魔法も使えるかもしれない。
俺はまだまだ弱い。
特殊な戦い方しか身に付けていない自分の弱さを感じた。
通り過ぎ行く騎士の縦列を見ながら気付いた。
赤・青・黄 色の紋章も入った立派な格好だ。気配をなるべく消し、街中で目立たぬように気を付けている。しかし、ここは王都なのだ。
小汚い今の格好が、むしろ目立つのかも?
本屋に向かうのを止めて、今来た道を戻る。
商業地区まで来て、少しマシそうな服屋に入った。
ざっと店の中を見渡す。今まで着たことも無い、真っ白なヒダつきのシャツを2枚選び、店員に出来合いのサイズの合ったズボンが無いか聞く。
店員があわてて3本のズボンを持ってくる。
黒い1本を腰に当てて長さを見ていると、鏡を持ってこられた。
「あちらに試着室がございます。どうかお試し下さい」
試着室に入って、試しにズボンをはきながら言う。
「色は、濃い方がいいので、同じサイズのものを持ってきて下さい」
前の世界でもスーツや服を買うのが嫌いだった。照れるのと、気にしてないのに細かいサイズの云々を言われるのが好きでないからだ。
いつも必要とはいえ、何故 我慢してまで買わないといけないんだ! と内心怒りながら買い物をする。店員さんに罪は全く無いのに。
新たに持ってこられた中から同じく黒色を選ぶ。
「いま試しているのと、これのサイズを同じでいい。
足の長さの調整はどのくらいで出来る?」
「お急ぎなら、30分で仕上げます」
「頼む」
細かくサイズを測ろうとするのを避けるために、試着のズボンを素早く脱ぐ。
どうせブーツなのだ。足元を紐でくくるタイプのズボンなので、サイズは多少どうでもいい。さすがに長めに作られていて、そのままでは無理なだけだ。
元からのズボンをはきながら聞く。
「ローブはあるか?」
「ただ今、お持ちします」
店員が持ってこようとするのを退けて、彼の後についていく。試着室など必要ないからだ。
ローブのあるところにまで来ると、数はそう多くは無かった。
店員があわてて気を利かす。
「お急ぎのようなので、生地をお選びいただければ、
明日の朝までに仕上げさせていただきます」
「それならばいいな。生地の見本を持ってきてくれ」
街中でもちらほら見かける明るめな灰色の生地にする。ウールなのか何かはわからないが、灰色の生地の中でもさわり心地の良いのを選ぶ。
「そちらですと少々お高くなりますが……」
「いくらだ?」
「御仕立てで、5千£(約10万円)になってしまいますが」
「それでいい」
正直、面倒くさい。商売の前提としてここから交渉するのが普通なのだが、キライな買い物をしているせいでその気にもならない。
「全部でいくらだ?」
「シャツが1200と1600、ズボンが1800が2つ、
ローブが5000でございますから、全部で1万1400£です」
「いくらになるのだ」
「1万1千£(約22万円)に勉強させていただきます」
もっと交渉できるのはわかっていたが、金貨1枚と銀貨1枚で支払いを済ます。きっと日本円で2万円以上損をしているが構わない。
ズボンも明日の朝でいいと言って、店を出た。
自分でも無愛想すぎると思うが仕方が無い。
嫌なことは金で済ます。決して最近の金の使い方が良くないことは自分でも十分理解はしている。
嫌悪感に耐えながら、靴屋でブーツも買った。
これで明日からは、みすぼらしさの心配は無い。
本屋に向かうのは格好を整えてからということで、早すぎる時間だが食事にしようと思う。夜は狩りに向かうためだ。
何となく宿屋に向かってしまったので、ギルド2階の食道で食事をした。
不味くも無いが美味くも無い。
ラウンジに向かい、マリキア川が見える席でワインを飲みながら周りの話に耳を傾ける。目立たないように気配を消していると、そこに居ることはわかっていても誰も注意を向けてはこない。
一般スキルの《隠密》が利いていると思いたい。
聞き耳を立てて聴いた話のうち、剣闘大会ののことが気になる。出場戦士の噂が中心だ。3・4人の名前が良く出てくる。4日後の11月1日に開かれるらしい。
知り得そうな情報はそんなものと判断したので宿に向かうことにした。ギルドにはあまり関わりたくないものだが、ギルドの食道は冒険家業に関わりのありそうな情報が得やすいのも事実だ。
もっと周りが悪人で、主人公ヒャッハーになぜ成らぬ。
シチュエーション考えてると話全然進まないし…… 他の人の小説読んでると自分の小説が進みません。
理由は面白くないから!
自分楽しみで カス を登場させます。