王都 2
(3)
朝起きて、すぐにギルド南支部に向かう。
ギルドの仕事を知らなければならない。田舎、それもマナ・スポットであるスターラ山脈周辺の樹海だらけの超ド田舎町しか知らない。
王都にはどんな仕事があるのだろう。何せ国の中央部だ。
ビッグな仕事があるに違いない。
だがしかーし 何!この現実。
掲示板をみて信じられなかった。
冒険者と言えば、男の子の憧れ職業のはず。魔物の討伐依頼や、ダンジョン攻略、入手困難な薬草や、魔物の貴重な素材収集がメインの仕事ではないのか!
と、言いたいが、現実ここは1000年も続く王国の王都。王国所属の騎士団もいて、周りは平穏無事な平和な平原。すんごい魔物などいないのね。
掲示板にある仕事とは、隊商の護衛、いかがわしい商売の用心棒、奴隷商の手伝い、日雇い労働者の監督並びに募集。夢もちぼーもない。
それもA級やB級の募集である。
俺はここのギルドでは、魔力結晶を売っただけで仕事を請け負っていない。つまりまだ駆け出しのD級なわけだ。D級のお仕事は、街道の補修、汚物の運搬、墓地の清掃、鉱山の搬送員……
ほとんど人の嫌がる日雇い労働。
日給も300~400 £その日暮らししか出来ない。
ギルドってブラック企業なのね。
入るときのお約束は、1.じぇーきんを払え(年1万£) 2.結晶や素材は所属ギルドで売りやがれ(手数料は10%だ)の2点だけ。
ちゅうことは、好意的な俺の判断で、ただ結晶や素材を売る所。俺は仕事はもらいません。ということでOKですよね。
ゲームのギルドみたいに、薬草採取からこつこつとなんて無いのですね。
日雇い労働をして仕事を覚え、少ししたら管理する側にまわり、力で弱いものを押さえつけ、あわよく出世したら自分は働かずに他人の労働から搾取するのですね。
理不尽に暴力を振るわずに、でも暴れたらちょっと怖いよ。魔物なんかはやっつけちゃうよ。組織でやってるよ。ちょっと利権を巡って縄張り争いしちゃうよ。
……って、ヤ〇ザじゃん!
いいように言っても、国家の治安が行き届かない隙間を埋める「任侠団体」
近寄るのは最低限にしよう。
仕事を得ようと王都に来たわけでない。
目的は属性魔法の習得だ。無属性魔法は見よう見真似と、想像力でいとも簡単に身に付けることができた。マナの力を感じつつ、集中してイメージすれば良かったのである。
しかし、4元素いわゆるエレメントに関する魔法、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法が全然使えないのだ。一般人でも普通に1種類は使えるのに。
勿論、魔法使いといわれる人でない普通の人が使える魔法は、火魔法を例にあげると、マッチの火に毛が生えたようなものだ。一から火を起こさなくて済むが、魔法を使うより種火を使った方が楽なくらいだ。
6歳になったら、親から1種類くらい習うものである。俺も習いました。習う前からも盗もうと何度もチャレンジもしてました。
必要な詠唱呪文もばっちりなはずなのです。
でも、なぜか使えるようにならない。
火魔法のスゴイ技なんかは使えなくてもいい。(ウソです。本当はめっちゃ憧れています。)しかし、強敵と戦っていくなら、回復系の魔法は必須だ。回復系の魔法は水の属性。水魔法はどうしても身につけたいと思っている。
王都まで来た最大の目的なので、方法はある程度考えている。
体はひげを生やした14歳、見た目は偽っている通り17歳、中身は40超えたおっさんである。一生懸命頑張るとか、誠意でもって教えを請うなどど馬鹿なことは考えない。
金の力だ!
去年の冬に人の世界に戻ったが、この一年間また樹海で狩りし続けた。強くなるためでなく、魔法を身に付けるための金と魔力結晶を手に入れるためだ。
金はすべてを解決してくれるわけなど無い。しかし、多くのことを解決してくれることを軽んじたりする奴は、金がすべてというバカと裏と表なだけだ。
お金は正しく使いましょう。
昨日の晩のようなお金の使い方はダメよ。
そんな声がどっかから聞こえた。
商業地区の魔法に関係ありそうな店を回ることにする。
大通りに行くとすぐに目立つ魔法関係の店を見つけた。
さっそくに入ってみる。
いきなり壁に杖が並んでいる。その数100本は下らない。
魔法使いが杖を持っているのは、前世からでも常識だ。こちらの世界でも魔法使いらしい格好をしている者は大抵持っている。一体、杖って何なの?
若そうな店員に声をかけて触ってもいいかを聞く。
「もちろん、構いませんよ」
1本を手に取り、軽く振って見る。剣と違いとても軽い。
【鑑定】をかけてみた。
(材質: 樫の木)
(耐久: ??)
(性能: ??)
(価値: ??)
値札は 1万2000£(リブレ)(約24万円)
やはり、知らないことは何も測れないようだ。
「すみません、これの性能はどんなものなのですか?」
「そうですね、魔法の範囲を少し広げて、
方向性はかなり上がりますよ」
「ほう、今プレゼントを探しているのですよ」
(知識の無さをごまかすためにウソをつく)
「どんなものをお探しで?」
「やはり杖かな?本なんかもいいけど……
色々教えてくれますか?」
その店員が教えてくれそうな、杖についての情報はほぼ聞き出したと思う。飾ってある杖も20本ぐらい説明を聞いた。
情報量として、必要はあまり無いがヒール・ポーション(1千£)を買って、また来ると約束をして店を出た。
2件同じように店をまわり、杖についての情報を聞いた。
まとめると大体以下の通りだ。
1.素材は基本自然に生えた木材
2.耐久性の向上のためコーティング可
3.装飾は意味は無い(趣味)
4.魔力結晶を嵌めれる
5.嵌めた結晶の魔力を吸収しながら使える
6.魔法範囲が広げられる
7.長さが方向性・命中率に関係する
(銃のバレルの長さのようなものか?)
8.威力の向上は無い
ざっとこんなものだが、恐ろしいものだ。
もし凄い魔法使いが、とてつもない魔力結晶をつけた杖を使うと、無限に攻撃できるということか?使用と吸収を繰り返すと耐久は下がるのだが……
魔法を使うのなら杖はやはり必須だな。
範囲がどれほど広げられ、方向性・命中率をどれだけ上げられるか、この2点が杖自体の性能と言えるだろう。どうやってそれを試せるのだろうか?
町中を歩きながらずっと考えた。
(4)
考えてもなかなか答えが出ないなか、気になる店を見つけた。
この香り!
コーヒーを焙煎している店を見つけた。「コーヒー」ではなく「カーファ」と言うらしいが、店先でオープンカフェのようになっている。
さっそく注文した。一杯60£(約1200円)、高いが構わない。
ちょー懐かしいです。転生して14年半、飲みながら時間の経過を感じる。しかし、その時間の経過を感じたことが、頭に「復讐」の二文字をよぎらせた。
そうだ、目的に向かってもっと真剣にならねば!
人の多いこの場所で、【魔力探査】は気が引ける。
もの凄く例えが悪いが、虫がうにょうにょと大量に湧いているのを感じるみたいなものなのだ。マナを持つ人が、自分の意思で無秩序に動く。その動きが、虫が湧いているのを見て気持ち悪くなるのと似ているのだ。
グダグダ考えず【魔力探査】をかけた。
MPの高い存在を探す。
2・3目処をつけ、それを元に街中を歩いていくと、路地を入ったところにあった。明らかに怪しさ満点の魔法道具の店だ。中にMP100を超えているはずの人間がいる。
失礼を承知で店に入るなり、高いMPの存在に【鑑定】をかける。
【?・?】
ヒューマン ♀ ??才
状態:健康 総合:?
HP:56 MP:128
筋力:05
敏捷:04
耐久:10
魅力:??
魔法スキル:?
いかにも魔女という姿の老女。
MP128ってスゲー!
周りをみると、店にあまり商品は陳列されていない。
気まずい雰囲気があるのを打ち破って聞いた。
「すみません、杖ありますか?」
「出来合いの既製品ってことかね」
(成る程、オーダーメイド系のお店ということかな?)
「見本となるようなものがあるかと思っていたのですが」
「幾本かはあるが、どうする積もりなんだね」
(下手に嘘ついてもこの人にはダメだな)
「正直、【鑑定】かけても、
性能の違いが分からないのですよ」
「うちは本人に合ったものしか売る気がないからの、
違いはこちらが教えてやるわいな。
どんな魔法に使いたい杖が欲しいんじゃ」
「う~ん、そんな使い方が出来るかどうかわからないのですが、
魔力結晶を魔物の死体から取り出さず魔力を移したいのです」
「ほう、変わったことを言うな。
魔力結晶を取り出さずに、魔力だけを他の結晶に……
そんな考え方ははじめて聞くの」
「正直いいますと、無属性魔法には多少自信があります。
でも、属性魔法が使えないので結晶をとりだすのが、
大変なのです。時間もかかりますし」
魔力結晶は大抵心臓の近くにあるので、ナイフで取り出すのは大変なのである。肋骨を切り裂く必要もあるのだ。
例えば、属性魔法が使える人だとウィンド・カッターやウォーター・カッターで割りと簡単に取り出せる。しかし、小さいMPしかない結晶を取り出すのに、そんなMPを消費するのは勿体無い。また、パーティーを組んでいると、大きなMPのためといえMP使用すると分配がややこしくなる。そんなこんなで、結晶はナイフで取り出すのが普通一般的だ。
もう一つ大きな理由がある。頻度の問題だ。
ギルドランクB級の5・6人のパーティーが、オーク相手だと4・5日の探索で1体倒せて大喜びなのだ。人数がいるので、その素材も町に持って帰ろうとする。そこで探索終了なのだ。その間小物も狩るだろうが、1日平均1人で1体も解体しないのである。
ナイフで結晶を取り出すのを手間とは思わない。
俺はかなり常識外れなことを言ったことになる。
事実なのだが、短時間に大量の魔物を狩ることが出来ると、若造がほざいている。そうとられてもおかしくない。
店の雰囲気、本人のただならぬ感じ、こちらを見てくる眼差し。
いけると診て、ポーチから魔力収集用の大きい方の結晶が入った袋を取り出し、中身を少し彼女に見せた。
「ほう、おかしなことを言い出すだけでないの」
と言い、店の戸にカギをかけ、カーテンのようなブラインドを閉めた。他の客が来ないようにするようだ。
取り出したモノは、確かに殺人事件が起きてもおかしくないないような代物であろう。当然の対応かもしれない。
「茶でも飲みながらゆっくり話そう。
奥の部屋に来てくれんかの」
店の奥に連れて行かれる。
10畳はありそうな部屋に商談用の机とイスがある。
飾られている絵が1枚。わりと殺風景だ。
ほどなく、彼女が帰ってきて茶を出される。
「毒は入っておらんよ」
と、同じポットから注いだお茶に彼女が口をつける。
「そんな心配はしていませんよ」
「突然、紹介もない客が来て、
あんなモノを見せられるとはこっちが驚いたわ」
「不躾ですみません」
「客なんじゃから、そう改まらんでええんじゃよ。
杖や道具を買ってもらうのに、本人に合ったものを選んで欲しい。
そういう風にやっているんで、少し力を見せてはもらえんかね?
もちろん、一切他言はしないことは信用してもらいたい。
主人のマグダじゃ」
と手を差し伸べてきた。ばあちゃんと同じ名前だ。ヨーロッパ風のこちらの世界では日本のように名前は多くないので、同名は珍しく無いが……
「ジャンニ……。 ジャンニ・ランチアです」
握手した。
それから、とても長い話し合いになった。
まずは信用のためか、彼女の話だった。
・現役を引退して50年近い
・本人もS級、パーティーもS級の有名な魔法使いだったそうだ。
・客は基本そのことを知っている者しか来ない。
・歳は90を越えているそうで、近年急激に魔力が落ちてきているそうだ。
・落ちてきて128MPにびびるが、現役の頃は170近くあったそうな。
・MPと言う表現は魔法にもいくつか流派があって、ムンディー(世界という意味だが、あえていうなら中心部)東方では勢力のあるアル・ヌーク派では当然のように使っている。
・彼女はカンダル派、師匠はこの国の先々代の国家筆頭魔導師。
・自分は国家に関わりはない。
・顧客はかなり国関係者が多い。現王妃の杖を作った。
と、まぁ本当に凄い人だ。他に聞きたいことが無いかと言われたので、もともと杖の性能とは何かを知りたくて店を訪れたことを言う。するとさらに店の奥にある階段を下りた地下室に案内された。
地下室はとても長い階段で下りたところにあり、地価1階部分が無く(そのまま土地)地下2階と3階がくっついたような30畳はある大きな部屋だった。
部屋のことを聞くと、
・普段は倉庫と製作に使っている。
・排水・排気対策はかなりしっかりしている。
・昔一緒だったパーティーの秘密基地。
・秘密基地を造るのに4年かかった。
・秘密裏に掘った土を運び出すのが一番大変だった。
・中級程度の魔法なら、ここでは使用しても大丈夫。
そういう部屋にある30本近い杖で、実際に違いなどを教えてくれた。
・杖の性能は範囲・命中率に分けて考えて良い。
・範囲は元の魔法範囲をもとに係数が掛けられる。
・係数は聖マナ数と杖の長さに基づく。
・命中率は方向性と速さ
・要は野球のストレートのコントロールと速さに相当。
・自分で曲げる魔法は無い。
・物理法則で重さのある魔法は重力に縛られる。
・風魔法で曲げることはできる。
・杖の長さで範囲と方向性が変わってしまう。
野球の喩えや、重力、係数、物理法則などはマグダが知っているわけで無い。俺が理解するために使っているだけだ。今日聞いた情報もさっそく間違っていたことがわかる。とても分かりにくいので、彼女に間違いかどうか確認してもらった情報を元に例え話をする。
有名な 火球 を例に挙げる。
初級者なら火球は手のひらの中、中級者なら手の届く範囲、上級者なら体の届く範囲に発生させられる。杖が無ければ、素手で一般スキルの投擲で投げることになる。だから、筋力と投擲のスキルによって届く範囲、方向性、速さが決まる。
野球のボールのようにつかめないので、指や手首も使った速さは求められない。球は小さいが、ドッジボール投げと思ってくれ。
そこで杖を使うと、腕の長さで円を描く運動を、杖の長さで行う運動に変えられる。テニスのサーブが野球の投球より1.5倍ほど速い原理と同じだ。
しかし、剣と同じで長すぎる杖は振りにくい(体全体を使うような振りは勿論しなくても)。その上、方向性が長くなるほど難しくなるのだ。
そのように長さを基本とし、それとは別に、杖そのものが性能の良し悪しとして範囲と方向性を上げる力を持っている。速さは変えられないそうだ。
長さ:範囲(距離)↑ 方向性↓ 速さ↑
性能:範囲(距離)↑ 方向性↑ 速さ→
その上に、風魔法のブーストでスピードを上げたり、色々な複合技も使う。そこにも杖の力が影響するらしいが、そこら辺は完全に俺の理解力を超えてしまった。
少なくとも基本的なことは理解できた。
幾本か杖を【鑑定】させてもらう。
【魔法杖】
(材質: 樫の木)
(耐久: 75)
(性能: BBB)
(価値: 52000)
性能は、範囲、方向性、速さを、SABCDの5等級で表す設定にした。マグダさんの店の平均なので、BはAに後で変わりそうだが……
耐久は剣に直接比べられないが、コーティング分も含める。
価値はやっぱり、£!お金に換算する。
話が長くなったが、俺の聞かれたことの番だ。
・戦闘に【魔力探査】を使う。
・【魔力探査】が最大1kmいける。
・ショート・ソードが主要武器。
・一般スキル 剣術、体術 の他、回避、跳躍、軽業、登攀、偽装、隠密が得意だと思っている。
・1日5匹は魔物を倒せる。
この世界では基本的に他人に手の内は見せないものなので、聞かれたことは割りと少ない。杖を作るために必要最低限というところか?
しかし、為になる。優秀なベテラン魔法使いとしての経験と知識もあるのだ。本当のことをもう少し話してもいい気にはなっていが、あせらなくても良いと自重しておいた。
俺の【魔力探査】の使い方はかなり特殊だったようだ。有名な魔法なので、他人も同じようなものと思っていたが、全然違う。
視覚、聴覚、嗅覚、に+αとして、気配をマナで感じるやり方が普通なようだ。現代風にいえば、アクティブなレーダーといったところだ。だからせいぜい30m~100mで、視覚の次のレンジしか無いそうだ。
俺のやり方を説明するにも、レーダーやソナーのような概念を持っていないし、赤外線のような可視光線でないものも見えるという知識も無い。まして、アクティブとパッシブにマナ固有の波長をどう捉えるかの違いは本当に説明し切れなかった。
教えるのがイヤと思われたくないので、今度分かるように説明させて欲しいと言うと、90を超えてこんなに習いたい魔法があると思わなかったと笑われた。
遊びで、一般スキルを【鑑定】してもらった。
彼女が魔法で石つぶてを投げる。それを5分間剣で受けるか避けるという形だ。歴戦の彼女の目を信じて遊ぶことにした。
すべて避けてやろうと思ったが、甘くなかった。4・5発避けれずに剣で受け止めるしかなく、悔しいので、最後の2発は剣で切った。
切ったところで、5分経っていないのに彼女が止めた。
彼女の5段階評価は、素人、初級、中級、上級、達人だそうだが、俺の流儀でLV制にした。いずれ説明するが聖マナ数に関連しているからだが今は関係ない。
素人 LV0
初級 LV1
中級 LV2
上級 LV3
達人 LV4
剣術LV3 体術LV3 回避LV4 跳躍LV3 軽業LV3
登攀、偽装、隠密はこれだけではわからないそうだ。
長年の経験がある彼女が言うのだから、間違いないだろうが、自分の見立てより高い。本当がどうなのか人の戦闘をあまり見てはいないのでわからない。
一般スキルはすでに一流の「暗殺者」レベルで、5年もしないうちに伝説の「アサシン」に成れると保証された。うれしい褒め方とはいえないが、彼女流の賛辞だろう。
3時間を越える長い話になった。
検討したいことがあるそうなので、明日の昼過ぎにもう一度訪れる約束をして店を出た。