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峠越え 1

(1)


 10月すでに肌寒い。集合場所にいる。

 ふと気になって、遠くを見る。【魔力探査マナ・サーチ】に【可視化画面ビジュアライズモニター】を重ねて見ると、スターラ山脈にマナがあふれているさまがわかる。

可視化画面ビジュアライズモニター】というのは、半透明のモニター上に察知した情報を見えるようにする俺固有の魔法だ。現代の米軍パイロットのヘルメットモニターや、ゲームの主人公画面と思ってくれればよい。はじめは大した機能でなかったが、スキルが上がってくることで、画面上の色の濃さでマナの分布までわかるようになった。


 おかげで、マナは地球の内部から湧き出していることが見える。山岳は特に多く噴出しているため、周りに樹海というマナの濃い地域をつくる。そしてそのまわりに普通の森林が存在する。

 マナの濃い樹海は木を切っても2・3年で木は元に戻る。マナが生物の成長を促するからで、開墾しようにも人の力は及ばない。その上に魔物が、マナの濃さに応じてウヨウヨいる。

 木の成長が普通の10倍近いので、野生の動物だけが生息するなら単純に10倍なのかも知れない。その野生の動物を餌として魔物が生息する。どう関連しているかまでわからないが、こちらの世界の樹海には元の世界の野生生物密度の4~5倍になる魔物密度を感じるのだ。

 ま、だから感覚として ウヨウヨ なのだ。


 山や樹海のマナを眺めていると、声をかけられた。

 そうだ、今回の仕事の打ち合わせの時間にそろそろなる。

 リーダー指定されているA級のパーティーのボスが聞いてくる。


「始めてみる顔だが、

 C級にあっという間になったという腕利きだそうだな。

 何が得意なんだ?」


「はじめまして、ディーノです。

 得意ということはないですが、

 偵察能力はそこそこと思ってます」


 かなりジロジロ上から下まで値踏みされている。


「見てーだな、若いのに隙がーな。

 よし、うちのステファンと組んでくれ。

 俺はカルレラだ。よろしく頼む」


 と言ってステファンというハーフエルフを呼ぶ。俺はすかさず【魔力探査マナ・サーチ】と【鑑定ジャッジメント】をかけて実力を測る。 


 【?・カルレラ】

 ヒューマン ♂ ??才

 状態:健康  総合:?

 HP:102  MP:58

 筋力:14

 敏捷:10     

 耐久:11

 魅力:??

 魔法スキル:?

 一般スキル:剣術LV? 


 【ステファン・?】

 ハーフエルフ ♂ ??才

 状態:健康  総合:?

 HP:82  MP:88

 筋力:09

 敏捷:19     

 耐久:08

 魅力:??

 魔法スキル:?

 一般スキル:弓術LV? 狩猟LV?


 2人ともさすがギルドA級パーティーのメンバーだけことはあるステータスだ。

 ステータスは俺が勝手に作ったもので、こちらの世界一般には通用しない。

 こちらの世界14年の間、冒険者や騎士、その他戦いに準じている人間を分析し、ゲームのように数値化したものだ。

 というより、こちらの世界には数的概念にまとめ上げる風習や学術的な統計は無いので、経験的な判断で、素人、初級、中級、上級、達人と言われている判断があるだけだ。

 それでは戦闘にあまり役立たないので、力強さや素早さを外的に判断し分類して表示すると、まるでゲームのようになってしまったのである。

 内的なスキルや魅力は観察時間をある程度かけないとわかるはずも無い。


 ステファンさんが話しかけてくる。

「君がディーノ君だね。よろしく。

 良ければ、使える魔法を構わない程度で教えてくれないか?」


 こちらの世界では、基本魔法等の手の内は他人に教えないものだ。連携で最低限のこと以外を除いては……

「いやー無属性魔法をちょっとで、

 属性魔法は全然なのですよ」


「意外だね。かなりの魔法を使えると思ったんだが、

 嘘では無さそうだね」


 ここで、1年前に人の世界に戻ってきてから、ずっと使っている作り話をする。

「僕は、炭焼き職人の祖父に育てられていて、

 去年祖父が死んだのです。

 人の住む世界で生きて行こうと思いまして。

 森から出てきたのです。お金を貯めて、

 街で魔法を習うつもりなんです」 


「そうか、君ならいい魔法使いマギになると思うよ。」


「ステファンさんは、やっぱり弓の攻撃に風魔法ですか?」

 ハーフエルフ大半がそうであることを聞いた。


「そうだね、50m位なら外さないよ」


「じゃ、偵察の前衛をボクがしますから、

 後衛よろしくお願いしますね」


「OK,じゃそういうことで」


 もともとパーティー組んでいない冒険者同士の打ち合わせといえよう。


 他のメンバーは紹介されること無く、7時過ぎには馬車2台に客23人が分かれて乗り、峠に向かうこととなった。

 メンバーで少し気になったのは、ワンドを持ついかにも魔法使いマギの格好をした人だ。MPをなんと110も持っている。100台は見たことあるが、110台は初めてだ。




(2) 


 隊の前方500mの位置で進む。


 ガブロヴォの砦からシプカ峠までは13kmで、石灰質の岩肌がむき出しになっており、標高も1000m位。街道の横はまばらに生える木々も切られて、魔物からの襲撃がすぐ察知できるようになっている。2000mから3000mを超える高さの山々が、東西350kmも繋がるスターラ山脈で、唯一普通に越すことができる峠である。

 峠の西側はオウガのテリトリー、東側はグレイ・ウルフのテリトリーといわれている。


 峠まであと2kmほどの地点で、東側の森に狼の一群がいることを察知した。半径1kmで【魔力探査マナ・サーチ】をかけている。

 手を上げて、100m後ろのステファンさんに合図を送り、隊の動きを止める。

 東に展開し森に近寄る。程無くステファンさんが俺の場所まで来た。

「ただの狼の群れと思いますが」


「ディーノ君は何匹いると思いますか?」


「16匹です」

 言ってから しまった と思う。正しい情報だが、そこまで正確に測れてしまう能力を隠すのを忘れていた。


「そうですか、あまり問題なさそうですが、

 隊長の指示をもらいましょう」

 といって、ステファンさんは馬車の方に下っていった。


 確かに、様子を見ているだけで、襲ってきそうな雰囲気は無い。


 ステファンさんが、魔法使いを伴って帰ってきた。

 いきなり、魔法使いがファイアーボールを1発森の方へ叩き込む。

 呪文も3秒ほどで済まし、射程も50m程はあるようだ、途中風魔法でブーストをかけてファイアーボールのスピードを上げていた。

 うらやましい技だ。


 狼の一群は山の方に去った。リーダー格のマナを持つ狼が率先して山の方に向かっているので、間違いは無いだろう。

「どうやら、確実に山に逃げていきましたね。

 リーダーが山に向かっています」


 魔法使いが感心したような声で切り返した。

「そこまでの察知能力、見事ですね。

 私には個々の敵の動きまではわかりませんし、

 100m超えるとちょっと……」


「森の中育ちですから……

 あんな魔法の後に褒められると、照れちゃいます」


 こちらの世界では、相手の能力を知ろうとする丁々発止ちょうちょうはっしが激しい。


 頭を下げて、隊の前方偵察位置に逃げるように向かう。

魔力探査マナ・サーチ】をかけていたので、ファイアーボールのMPが4、一般スキルの投擲を使って投げ、その後風魔法のブーストにMP4を使っていたのを確認させてもらった。

 近くで魔法戦闘のやり方を見せてもらえたのは、実は初めてだ。

 次の目標を達成したら、どこぞのパーティーに潜りこもうと思った。



 峠までその後何も起こらなかった。

 皆が上がってくるまでに、ポーチに手を入れMPを20回復し、水を飲みながら景色を見る。

 北には生まれ育ったモエシア平原が広がる。真ん中あたりをドニエ川が流れる7万平方キロメートルを超える大平原だ。南側のスターラ山脈に繋がる樹海、森林のみならず、平原には半分以上の森林地帯が残されている。今日は気候もよく、遥か北200km離れたモードベヤヌ山もよく見える。

 逆に南にはこれから向かうエディルネ王国のトラキア平野が広がっている。

 2千年以上開発されてきて、エディルネ王国も千年以上続く国だ。明らかに人の手が入れられるところは開墾されて、豊かであることもわかる。逆に3分の1ほど森林や手がつけられていなさそうな山岳地帯が西南に広がっている。そして、何よりも地平線ぎりぎりだが、南200kmに見えるのは海だと思う。話には聞いていたが、目にするのは初めての事だった。


 馬車も峠の頂上まで着き、20分の休憩がリーダーであるカルレラさんから客にも伝えられる。みんな馬車から降りて、絶景を眺めている。

 考えて見れば、高い山は大抵マナスポットになっているので、冒険者でもない普通の人からすれば、こんなに広く景色を見渡せる場所はそうないことなのであろう。

 客も感嘆の声を上げている。


 休憩も終わりかけに、西の山から峠に繋がる尾根に何かを見つけた。

 距離は3km以上はある。

 尾根付近は風が吹き抜けるためか、木が生えていないので見通しが利く。


 あわててカルレラさんに報告する。

「カルレラさん!あれ見えますか?」


「やべーな、オウガじゃねーのか」


「オウガですね、2匹いますね」


「全員急いで峠くだるぞ!

 ディーノは少しオウガの様子見てきてくれ」


 言われた途端、俺はオウガに向かって走っていく。1kmも走って近づくと、オウガもこちらに気付いたようだ。まだ2kmは離れている。

 下を確認すると、馬車はすでに峠を下り始めている。

 3km以上の距離を保てると、馬車本隊は大丈夫であろう。


 動かずにオウガを見続ける。いつ見てもヤバイ奴である。力は屈強な人の3倍はあるし、困ったことに知能も持ち合わせているので、オークや熊系、狼系の魔物よりはるかに厄介だ。

 背中に冷や汗を感じる。恐怖を感じている証拠だ。


 魔物も野生動物もテリトリーを犯さなければ、そうそう人を襲わない。どうやら今回もオウガの方が我々を偵察し、危害を加えられないか見ていたようだ。

 俺を残し本隊が峠を下って行くのを確認し、オウガは尾根を逆方向に登って行った。


 5分程状況の推移を見届け、オウガと本隊が4km近く離れたことを確認してゆっくりとその場をはなれた。警戒しながら500m移動し、危機は去ったと確定した後、馬車に向かって走っていく。


 20分で馬車に追いつきカルレラさんに報告すると、10分ほど馬車で休めと言われた。馬車に乗せてあった自分の荷物袋から宿の女将にもらったオレンジを食べ休憩した。

 気分のリフレッシュには柑橘類の匂いは効果的だ。


 勿論、馬車の中でも【魔力探査マナ・サーチ】はかけて安全を確認していたが、休んでいるようにしか見えないので、5分そこらで前方の偵察に戻ることにした。




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