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Melancholy  作者: 美桜
閑話
5/11

白衣の天使に魅せられて 西宮:side

 今回は初めての男性視線で書いてみました。


 壬紀に出会う前の西宮先生をずっと想像していたので…


 自分では結構楽しく書けましたww


 どうぞ、ご覧下さい。




 天使を見た。


 夢じゃない。


 思いきりつねった頬がジンジンと痛む。


 夢なんかじゃない。


 純白の白衣を纏った天使が俺の前に、いる。





 いつもよりやや遅刻気味である。


 こうなったのも朝起きたら俺の部屋で名前も知らない女同士がどっちが彼女だとか何とか言っていたせいだと思う。


 小さく舌打ちして、いつか女が使ってくれと無理やり押し付けてきたどこぞのブランドものの腕時計を見やる。


 時間的にいって、到底徒歩では間に合わないだろう。遅刻は、本来は5分以内なら何ら問題はないのだがうち(小児科)の腹黒師長が「5分? はぁ? 遅刻して言い訳ないじゃない。あんた馬鹿なの? あ、馬鹿だったわね」などといい、今まで黙認されていた『5分まではオッケー☆』なんて甘いルールは儚く散ったのだった。仕方がないので自分の愛用としているロードレーサーを漕ぐことにした。


 始めのノロノロとしたスピードから次第に速度を上げていく。いい風だ。これなら間に合うだろう。機嫌を良くしてどんどん速度を上げる。病院まであと200m位になる曲がり角を曲がろうとした時。


 「!!!」

 

 人がいた。……まぁ、この時間帯なら人が歩いていてもおかしくはないのだが。


 「っつ!!」思わずロードレーサーを横に倒す。自分の漕いでいた速度が倍となって自分に返ってきて声にならない悲鳴を上げた。


 ……我ながら凄いスピードを出していたものだ。


 もしこのスピードで人を轢いていたのなら、怪我どころでは済まされなかっただろう。取り敢えず、いい判断をした……と思いたい。


 「あのッ……大丈夫ですか!? あぁ!! ……血がこんなに出てる!!」慌てた声がする。俺が轢きそうになったのは女だったらしい。


 「……大丈夫、だ。俺が……悪いんだし、な。アンタは、どこか痛いところは……ないか?」


 「はい。貴方のおかげです。どこも怪我してません。」


 「い、や……だから、俺が……もう、いい。」


 ……俺が言うのも変な話だが若い女なのであろう。でもその声は俺の周りを彷徨く女たちから発せられる不快な高い声ではなく、鈴の音がするような澄んだ声だった。クソっ、逆光で顔が見えん。


 多分、何もできなくて逃げてしまうんだろうな。そんなことを考えながら、でも何故か俺の心は落ち着いていて、それもいいかな……なんて考えていた。彼女ではなく俺が怪我をしてよかったと。慌てる彼女に最後の力を振り絞って言う。


 「……おい。俺を置いて、早く……行け。他の奴に、見つかったら……面倒に、なる、からな…。あぁ……でも、もし、出来るのなら、助けを呼んで……くれないか。そこの、病院に……」ヤバい。本気でヤバいぞ……舌がもつれて、頭、もガンガンする……く…そ……。


 俺はそのまま意識を手離した。


 次に俺が目覚めたのはベッドの上だった。うざったい女共が奇声を上げる。だが、その中にはあの声がなく、自分が望んだ通りになったのにいささかショックを受けた。


 治療中も、何故か俺の頭の中には顔も見ていない少女のことで一杯だった。あの時もしかしたら怪我していたんじゃないかとか、せめて顔と名前ぐらい聞いておけばよかったとか、少なくとも俺の名前くらい教えていれば、また会えたんじゃないかと。変な話、俺は今まで一度も女には不自由したことがなく、自分から相手を求めることなんてしたことがなかった。


 ……なのに、初めて気になった女が顔も名前も知らない少女だと? どうやって捜せばいい? ……自分には罰が当たったのだろうか? 今まで散々人の心を踏みにじってきた自分に。相手が自分の名前を知らないことの悲しさを伝えようとしてるのだろうか。


 ……ならば当然の報いだ。




 * * *




 その日は有給休暇をとり、まだ痛む頭で自宅に帰った。そして、やるべきこと……ケジメをつけるために部屋にいた彼女達に謝った。それだけでなく、ケータイに登録されていた女の名前は全て消した。会える人物にはなるべく直接会って話をした。


 彼女たちは、泣いた。『信じられない』と言いながら俺をぶった子もいた。水をかけてきた子もいた。だけども俺は謝り続けた。自分が彼女たちにしてやれることなど、出来ることなどもう、何もないから。


 そして、全員と別れた後、俺は熱を出した。


 熱にうなされながら何度も彼女の夢を見た。彼女の名前も知らない俺はどうすることも出来ずにただ佇んで顔も映らない彼女が走り去っていく夢を。


 辛くて涙が出た。何度も泣いた。辛くて辛くて辛くて、胸が張り裂けそうだと思った。こんなに切ない気持ちになったのは初めてのことで、どうしていいか分からなかった。ただ、誰かに傍に居て欲しいと思った。だけども、もう自分という存在にはそれすら願ってはいけないんだと知り、また泣いた。


 泣き疲れた俺は、実はもう一つだけ夢を見た。今度はさっきの夢とは違って、天使が俺に語り掛けてくれる夢だった。こんなの許されたいと思っている自分の生み出した幻想だと思いながらも、その夢はとてもあったかくて、どうしてか自分が許された気がした。



 次の日、熱は下がっていたが念のため病院は休むことにした。師長に連絡すると、「馬鹿は風邪ひかないんじゃないっけ?」なんて憎まれ口を言いながらも「ちゃんと治してから来なさいよ!! 子供達に迷惑が掛かるんだから……全く。」と言って、休暇を許してくれたので、俺はまたあの夢を見ることにした。


 もう悪夢は見なかった。


 


 * * *



 

 二日ぶりの出勤である。何故か家の中が若干綺麗になっていたことと、お粥が作ってあったこと、頭に冷え○タが貼ってあったことが不思議だったが、自分がやったんだと思うことにした。


 そして、また会えるかと思い、二台目のロードレーサー(この間のはなくなっていた)を速度に注意しながら走る。彼女に、あの少女に会えることを信じて。


 だが、期待は大きく裏切られ、あの少女には会えなかった。


 肩を落としていると、


 「彼女全員に別れて欲しいって言ったんだって? 水ぶっかけられたとか……え?! マジなの?」と、煩くまとわりつく師長(蝿)が一匹。大方元気づけてくれようとしていたんだろうけど、そんな大きい声で言わないでくれ。皆がこっちを見ている。……頭痛が酷くなりそうだ。でも、既に病棟には知られ渡っていたらしく、皆が好奇の目で見ていた。放って置いてくれ。


 ますます元気をなくしていく俺。すると、師長が、「そういえば、あの子あんたんとこ行った? 止めとけっていったんだけどさ、聞かなくって。……まさか、あんた変なことしてないでしょうね?」


 師長の向ける疑惑の眼差しなんてどうでもよかった。


 「誰か、俺のところに来た人がいるんですか!? その子は誰です!? 教えて下さい!!」と、師長の肩を掴んで物凄い勢いで上下に揺すった。


 師長は、目が回り気持ちが悪くなったのか手を口に当てながら、「その子のことは~……昨日あんたに渡すようメモを渡されてたんだけど、忘れてたわ……」と、言い切った。


 「~!! あんたは!!」


 怒りの表情になった俺を見て、慌てたように待ったのポーズをとる。


 「わぁー待って!! 待って!! もうすぐ来るはずだから!!」


 「はぁ!? そんな都合のいいこと起こる訳ねーだろうが!!」


 「あんたは昨日休んでいたから知らないかもしれないけどねぇっ……あっ! 噂をすれば!! おーい!! 壬紀!! こっちよ!!」


 幾分乱暴に開けられた扉の音がして、その後に続くパタパタという小さな足音。そして……


 「遅れてすいませんっ!!」


 天使がいた。


 しかもどこかで聞いたことあるような声……。


 「「あっ!!」」


 お互いに顔を見合わせて大きな声を出す。


 「よかった……もう治ったんですね。」


 「あぁ……なんでここに?」


 さっぱり訳が分からない俺に師長が簡単に説明してくれる。


 「つ・ま・り、あんたがアホなスピード出して轢きそうになった女の子は、この病棟で働き始める看護師だったって訳」


 ……いちいちムカツクが、よく分かった。


 「じゃあ、君があの時の……」


 「はい。慣れていないので救急処置も下手だったと思いますが……大丈夫でした?」伏せ目がちにしながら、首を傾げる少女になんとも言えないエクスタシーを感じた。


 「あぁ。大丈b「大丈夫よ。だって馬鹿ですもの。それに壬紀の処置は上手だったわよ。とても初めてには思えなかったもの」……」


 てめぇ…。と作った握りこぶしを彼女に見られないように隠す。あれ…? なんでこんなに俺は焦っているんだ? 彼女に見られたっていいじゃないか。見られたって……チラリと彼女を見やれば、


 「うきゅー」と言って師長(横暴上司)に頭をナデナデされて嬉しそうに目を細めている。


 駄目だ!! あの純粋な彼女には俺の裏を知られてはならない!! そう思い、引きつった笑みを浮かべ師長(性悪女)に話し掛ける。


 「あの、し……じゃなくて、桃木師長。これから彼女に話があるのでちょっと席を外していただけませんか(早くでてけや、コラ)」


 「あら、もう手をつける気? 切り替えが早いのねぇ(バラすわよ)」


 なんてお互いに笑顔で会話しながら師長(お邪魔虫)を追い出す。


 彼女をエスコートして部屋を出ようとしたその時、「壬紀ー!! 変なことされそうになったら大きい声出すのよーほほほほ」なんて言ってきたのでつい、扉を閉める手に力が籠り、ドアが物凄い勢いでしまったのは気にしないことにしよう。


 「さて……」二人きりになったところで口を開く。


 「さっき聞いたばっかりなんだけど、部屋に来てくれたのは、君?」


 「はい。随分うなされていたようでしたが、大丈夫でした?」


 「……くく……」


 「……あの……?」


 「……ッあはははは」いきなり笑い出した俺をびっくりした目で見つめる彼女。そうか、やっと分かった。


 「……」


 「……あぁ、ごめんね。やっと疑問が解けたものだから。名前を聞いていなかったね。君、名前は?」


 「……? 桜庭 壬紀です。」

 

 「お……僕の名前は、西宮 陸。よろしくね。壬紀ちゃん。」“僕”なんて使ったのは何年ぶりだろう。てゆーか、あったけ? 本当に、彼女からは初めてを貰うものだ。まぁ、これもいいかもしれない。心からの微笑みを漏らす。


 「こちらこそお世話になりますっ!!」そう笑顔で返してくれた君は、まさに天使。


 

 僕は気付いてしまったんだ。


 君になら、この凍りついた心も鼓動を刻むし、自分の裏を隠したいと思える。君が望むのなら、何だってやってあげたいと思うし、心から笑えるんだ。



 何より、君は僕の生きる意味を教えてくれているんだ。僕が今ここに生きる証を。



 隣に居て欲しかったのは、“誰か”なんかじゃない。



 僕が隣に居て欲しかったのは、



 そう強く願うのは……




 ――“君”だったんだね……壬紀。




 ……ありがとう。



                  -fin-


 

 たはー。


 やっと終わりました。


 目が悲鳴を上げています。


 思った以上に難産でしたよ;;


 こんなに長くなってしまいましたが!!


 結構楽しく書けました。


 読んでくださった方々、


 本当にありがとうございました。


 心からのお礼を申し上げます。


 3.2 修正致しました。




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