科学都市
沈んだ日がまた顔をのぞかせる朝。男はその日が登りきった昼に小屋を後にした。街までどれくらいかかるのか。それはもう覚えてはいない。そして、注目の的にならないように服装を小屋にあったものに、名前もブライアと改めた。男が街に着くと日が傾き始めていた。そして周囲を見渡す。そこには銀色の球体が宙にあり、そこを経由するかの如く大量の金属線で入り乱れていた。その先に見えるものは電光掲示板やワイドスクリーンの大型テレビなど、何れも文明の発達を意味する物だった。その時、球体のジオラマがスクリーンに映し出された。
一人の男性がそれを見上げ、
「可哀相に・・・」
それを聞いた彼は咄嗟に尋ねた。
「何が可哀相なのですか?」
その答えを聞いた事で彼の人生が大きく変わるとはその時は知るよしもなかった。
男性はこう言った。
「聞こえてしまったのですか。実はこのジオラマの中に生命があったのです。もともとは世界の逃げ道として開発中だったもう一つの世界、空白の世界。完成後間もなく問題が発生しました。何も生物がいないと世界が巡回しなくなる・・・。」
ここで男は言葉を止め、周りを見回す。それにつられてブライアも見た。周囲には黒いスーツに身を包んだ人が数人こちらに向かって来ている。
「・・・まずい。すみません。逃げて捕まらないで下さい。また会いましょう。」
そう言って男は踵を帰すと、
パッシュン!
と小さな爆発音と共に姿を消した。
それに気づいた黒スーツ達は後ろにいる白いシルクハットをかぶった男に
「目標を見失いました。」
そろった声で伝えると、
「ふむ・・・。では、そこにいる男を捕まえろ。何か知っているはずだ。」
ブライアを指でさしながら黒スーツ達に命令すると、
「イェッサー!」
気持ち悪いくらいにそろった声で敬礼した。
危機が迫っている。感覚がものをいう。捕まるか逃げるか、逃走経路は一つ、男がいた方向だけ。だがブライアは逃げなかった。ただ立っていた。
希望のない世界で何も出来ない無力な人間の悪あがきもなく、黒スーツ達に囲まれた。そして、後頭部に衝撃があるとともに視界が狭まり、何も解らなくなった。
広い草原の中、太陽の光に目を眩ます。
そこは深い悲しみから掛け離れた活気がある。植物は皆青々と茂り、輝く雫を葉に持った大木、野を駆け回る野兎達が近寄って来た。そして、遠くに見える小屋へと向かうように走り去って行く。その先には人影が、小屋から出て来ると共に何かを持っている。それを振り上げたかと思うと、刹那に黒い噴水がいくつも上がりすぐに消えていく。そして暫く見ていると、身体が動かないではないか。前からはさっきの影が迫っている。
「う・・・ぐ・・・」
動けない身体では抵抗など到底出来ない。無力、無念という意志の塊が彼に襲い掛かった時、既に彼身体は斬られていた。
斬られた身体を目の当たりにして、彼は不思議に思った。
(何故意識があるんだ?)
声は出ない。考える事は出来る。だがこれが何なのか、わからない。夢心地の中、ふと、気がついた。
(夢?そうだ。これは夢だ。)
刹那に景色が変わっていく。そこは前にも見た街の一角で、見覚えのある男が隣にいた。それは黒いスーツに身を包んでいた。
「夢の中から抜け出すとは・・・だが記憶は少し消せたはず・・・。」
小さくそう言うと、男は瞬く間に消えてしまった。あたかも始めから居なかったかのように。360度周囲を見渡すと一人の男が路地から現れた。
以前に会ったことがあるようなどこか懐かしい表情をして、寄って歩いてきた。そして彼は尋ねた。
「君は、元の世界に戻りたいんだね。」
そういって、一つのガラス球を取り出した。
その中には、一点の光が神々しく光っている。
「その中に人々の記憶、生命データ、世界の情報が詰まっている。」
「?」
息をのむ。それに男は続ける。
「これはバックアップだ。元データはすべてこの都市のどこかに眠っているはずです。あなたがこの世界の住人でないことはわかっています。だからこそしてもらいたいことがある。あなたが記憶を少し失っている間、この話は無意味でしょうけど、思い出したらすぐに行動してください。暗くなったら都市の入り口で待っています。」
気が付くと、ブライアの目の前には何もなかった。そして、足の向くままに来た道を戻っていった。
小屋に戻ったブライアはどうやって小屋に来たのか、思い出せなかった。しかし、赤い紙を視界に入れた途端、全てを思い出す。
「あぁ。そうだった。この世界に来てしまった俺は、皆が生きている世界を取り戻さねば。」
もう一度心に刻み、夜を待つ。
辺りのものが見えなくなり、月明かりだけがその小屋を照らす。その時を待ち続けたブライアという異世界の青年。今、自分の仲間を救いに一歩を踏み出した。
誤ってデータを全て消してしまい、復旧をしようと試みましたができずに続きが思い出せないので、ここで打ち切ります。
申し訳ございませんでした。